家路、話の続き。
帰りの道中。
着替えの途中でしていた話は続いていた。
聞かれた事というのは、僕の心境の変化。
中学時代から僕のことを知っていて、尚且つ深い付き合いをしている夏菜。
僕の知らないことまで理解していると言っても過言ではない。
「昔の先輩だったら、こういう話振っても無反応でしたよね」
「こういう話って?」
「意地悪してます?」
ちょっとした意趣返しのつもりだったけれど、あっけなくバレる。
「成長したんだよ僕も」
「どうですかね?」
隣を歩きながらも顔を覗き込まれる。
「先輩の場合、今が成長期ですからね。実際に」
彼女の言葉の意味は、僕の家庭環境によるものだ。
母と呼べる人物は僕が産まれる前から浮気していて、それが露見したのは僕が小学校の時だった。
父は仕事人間で家に居た記憶がない。
変わりにいたのが、浮気相手の男。
それまで、浮気相手が父親だと誤解していた。
多感な時期にあっけなく家庭が崩壊。
男女のトラブルは僕に深い傷を残したかのように思えたが。
自宅に女性がいると体調を崩すこともしばしばあったけれど、トラウマというのは存外たいしたものではなく、ある出来事が起きて夏菜を自宅に入れたことがあった。
しんどさはあったものの、昔のように熱を出したり嘔き気もなく、平和に過ごすことが出来た。
親交のあった彼女を自宅に入れたという事実は、僕にとって大きな進歩。
トラウマを克服出来た存在として、夏菜のことを恩人のように感じていた。
子供の頃からずっと一人で、コミュニケーションを取るということが苦手だけど、覚束ないながらなんとかやっていけている。
だから恋愛というものがあまり理解出来ていない。
「恋愛に関してはごめんな。これから知っていくつもりではあるけど」
「大丈夫です。告白したのは私の勝手なので」
「こんな相手に、夏菜もよく勝負仕掛けたよな」
僕だったら無理だ。
勝てる勝てないは関係ない。
自分の磨いた技術を試したくて、僕は勝負することが好きなだけだ。
ただ相手が面倒。
「あんまり自分のことを『こんな』とか言わないでくださいね」
抑揚のない口調で夏菜に叱られる。
自分を卑下するつもりで言ったわけではないが、謝罪をいれる。
「あと、私は勝てる勝負しか挑みませんので」
「確かに」
と、言っても勉強でも部活でやってたバスケでも僕は負け続けた。
夏祭りの縁日で勝負を挑んでも負けたっけな。
「現状、負けている状況ですが勝てばその負けも覆ります」
「いつになく強気だね」
挑まれた以上、僕も真剣にやる。
スタートラインよりも前、土台からになるけれど。
「あと先輩に一つだけ忠告しておきます」
いつの間にか夏菜の家の前。
扉の前に立った彼女は立ち止まる。
「私に手を出した時点で、先輩の負けにもなるので」
暗い夜の外。
街灯と家から漏れている光だけでは、振り返る彼女の表情は伺いしれない。
口調は悪戯を思いついた子供よう。
「責任はちゃんと取ってもらいます。気をつけてくださいね」
言うだけ言って、扉を開き入っていく。
もとより僕に有利なルールだ。それぐらいは当然だろうと考えた。
けれど、恋愛のれの字も知らない僕が勝てる見込みってあるのか? 段々と自分の立場が弱い気がしてならない。




