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【連載版】すべてにおいて負ける僕が唯一勝利したこと  作者: 「」
一章 それでも続く穏やかな日常
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家路、話の続き。

 帰りの道中。

 着替えの途中でしていた話は続いていた。

 聞かれた事というのは、僕の心境の変化。

 中学時代から僕のことを知っていて、尚且つ深い付き合いをしている夏菜。

 僕の知らないことまで理解していると言っても過言ではない。



「昔の先輩だったら、こういう話振っても無反応でしたよね」

「こういう話って?」

「意地悪してます?」



 ちょっとした意趣返しのつもりだったけれど、あっけなくバレる。



「成長したんだよ僕も」

「どうですかね?」



 隣を歩きながらも顔を覗き込まれる。



「先輩の場合、今が成長期ですからね。実際に」



 彼女の言葉の意味は、僕の家庭環境によるものだ。

 母と呼べる人物は僕が産まれる前から浮気していて、それが露見したのは僕が小学校の時だった。

 父は仕事人間で家に居た記憶がない。

 変わりにいたのが、浮気相手の男。

 それまで、浮気相手が父親だと誤解していた。

 多感な時期にあっけなく家庭が崩壊。

 男女のトラブルは僕に深い傷を残したかのように思えたが。


 自宅に女性がいると体調を崩すこともしばしばあったけれど、トラウマというのは存外たいしたものではなく、ある出来事が起きて夏菜を自宅に入れたことがあった。

 しんどさはあったものの、昔のように熱を出したり嘔き気もなく、平和に過ごすことが出来た。

 親交のあった彼女を自宅に入れたという事実は、僕にとって大きな進歩。

 トラウマを克服出来た存在として、夏菜のことを恩人のように感じていた。


 子供の頃からずっと一人で、コミュニケーションを取るということが苦手だけど、覚束ないながらなんとかやっていけている。

 だから恋愛というものがあまり理解出来ていない。



「恋愛に関してはごめんな。これから知っていくつもりではあるけど」

「大丈夫です。告白したのは私の勝手なので」

「こんな相手に、夏菜もよく勝負仕掛けたよな」



 僕だったら無理だ。

 勝てる勝てないは関係ない。

 自分の磨いた技術を試したくて、僕は勝負することが好きなだけだ。

 ただ相手が面倒。



「あんまり自分のことを『こんな』とか言わないでくださいね」



 抑揚のない口調で夏菜に叱られる。

 自分を卑下するつもりで言ったわけではないが、謝罪をいれる。



「あと、私は勝てる勝負しか挑みませんので」

「確かに」



 と、言っても勉強でも部活でやってたバスケでも僕は負け続けた。

 夏祭りの縁日で勝負を挑んでも負けたっけな。



「現状、負けている状況ですが勝てばその負けも覆ります」

「いつになく強気だね」



 挑まれた以上、僕も真剣にやる。

 スタートラインよりも前、土台からになるけれど。



「あと先輩に一つだけ忠告しておきます」



 いつの間にか夏菜の家の前。

 扉の前に立った彼女は立ち止まる。



「私に手を出した時点で、先輩の負けにもなるので」



 暗い夜の外。

 街灯と家から漏れている光だけでは、振り返る彼女の表情は伺いしれない。

 口調は悪戯を思いついた子供よう。



「責任はちゃんと取ってもらいます。気をつけてくださいね」



 言うだけ言って、扉を開き入っていく。

 もとより僕に有利なルールだ。それぐらいは当然だろうと考えた。

 けれど、恋愛のれの字も知らない僕が勝てる見込みってあるのか? 段々と自分の立場が弱い気がしてならない。

 

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