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嫌う理由

 2月にも入り受験勉強も追い込みの時期。

 冬の寒さも一層冷たさを増す。

 そんな中、何故か麗奈ちゃんに捕まり夏菜とともに二人で彼女の家に行くことになった。

 名目は受験生の勉強を見る。


 絵梨花ちゃんは最終確認。

 智樹君は向上。

 麗奈ちゃんもうちの学校に入れるんだから彼女だけでもいいんじゃないかって思ったり。



「わたしは人に教えるの得意じゃないんで、それに渉先輩や夏菜のほうが頭いいし」

「そんなことは」



 ない。

 と言おうとする前に麗奈ちゃんが遮る。



「謙遜は無理ですよ。試験の順位張り出されてるんで」



 これでも一桁台だしね。

 調子が悪いと二桁にいったりするけれど。



「夏菜?」

「……なんですか」



 こちらを真っ直ぐ見ない。

 嘘がつけない子である。



「夏菜なら断りそうなんだけど、受けた理由は」

「なんでバレてるんですかね」

「麗奈ちゃんの頼みなら安請け合いしそうだけど、理由では断る。で、今回は断るパターンだよね」

「……う。まだ言えません」

「どうして?」

「えっと、その……」



 夏菜はたまらず答えようとしたのだけれど、僕らの問答を麗奈ちゃんが止めに入った。



「まぁまぁ、夏菜は渉先輩のためにわたしとの取引をしたわけですから、そんなに問い詰めないであげてくださいね」



 夏菜はこくりと頷き、特に何も言わなかった。

 疑っているわけじゃない。

 なんだか珍しいから気になっただけなんだけど。

 僕が悪者みたいで居心地が悪いな。



「渉先輩が絶対に喜ぶと思うので」



 にやりと笑う麗奈ちゃんに嫌な予感がする。

 楽しそうというか、悪戯を考えてそうな顔。

 ま、いっか。

 なんて楽観的に考えていたものの、麗奈ちゃんの家に着くと彼女ら二人はすぐさま麗奈ちゃんの部屋へと引っ込んでしまった。

 僕も麗奈ちゃんに聞きたいことあったんだけどな。


 玄関でぼったち。

 どうしよう。

 人の家を我が物顔で歩くのは躊躇う。



「ったくお姉ちゃんは……」

「絵梨花ちゃんこんにちわ」

「渉さん、リビングにどうぞ」



 案内されるままリビングに入り、テーブルに着いた。

 暖かい飲物を受け取り、身体を暖める。



「今日のこと聞いてる?」

「まぁ一応」

「その顔、なんか知ってるみたいだけど」

「良かったですね。彼氏にデレデレな彼女さんが居て」

「うん」

「はぁー」



 やたらでかいため息。

 機嫌の悪さを表していた。

 なにか怒らせるようなことを言ったのだろうかと思い返す。

 短い会話の中にヒントがあるとしたら。



「絵梨花ちゃんって夏菜のこと嫌いだよね?」



 初対面の時から苦手だとは感じ取っていたけれど、今日の態度ではそれ以上のものを感じた。


 

「えぇ。男子と違ってみんなが市ノ瀬先輩のこと好きってわけじゃないです。特に女子は嫌い人の方が多いですよ」



 友達が多いようには贔屓目に見てもないとは思っていたけど。

 それでもクラスの女子とは会話をしている。

 一緒に住むよりも前から日常的に今日起きたことやら、なんでもないことの会話からクラスメイト交流していることはわかる。

 中学の頃の話だろうか。



「今はちょっと信じられないけど、中学の時って嫌われてたの?」



 女バスは比較的仲良さそうだった。

 夏菜の性格も理解して好きにやらせたいたし。

 その特別待遇が許せないのかもしれないが。



「そりゃそうですよ。あんな芸能人と比較しても可愛くてスタイル良い子。嫉妬もありますけど、自分が好きな男子も彼女に夢中ですよ? そんな相手どうやって好きになれと」

「なるほどね」



 成長した今はさらに磨きがかかっていて誰もが目を奪われる。中学の頃は幼さがあったものの、その時からアイドル顔負け。

 だから今も昔も隣にいる僕はやっかみを買うことはたくさんあったし、裏で何か言われていることも知っている。

 嫉妬。

 彼女と付き合うことの対価だと思って僕はあまり気にもしてなかった。

 そんなもんだろうと。



「つまり絵梨花ちゃんもってことだよね」

「そうですね。それもありますが、あたしはバスケ部でしたから」

「才能……?」

「はい。なんですかね、あの人」



 言葉に詰まる。

 僕は彼女との争いを諦めなかった側の人間。

 だからこそ、彼女の隣にいるんだと今は理解している。



「それはいいんですよ。真面目にバスケやってたわけじゃないし」

「あれそうなの。僕の勘違いか」

「真面目にやってた時期もあるので、間違ってないですけど」



 要領を得ない。



「渉さんが卒業してからの市ノ瀬先輩がどうしてたか知っていますか」

「家の手伝いかな」



 僕がバイトを始めた頃もダリアでよく一緒居たから知っている。

 本当にやる気がなさそうでもあったから触れずにいた。

 あの頃は夏菜に対して恋愛の情はなかったし、生意気な後輩だと思っていた。

 だから深く踏み込むようなことはしてない。



「あんだけ才能を持って努力もしていた人。渉さんが卒業したぐらいで打ち込んでいたバスケをなんでもないように無かったことしたんですよ」

「……」

「うち女バス。市ノ瀬さんを切っ掛けに強くなったんです、足を引っ張るだけの部員はいなかったんです。今年も全国にいけるって」



 そういう絵梨花ちゃんの顔に悲しみはなく怒りもない。



「あたしも市ノ瀬先輩に憧れてた」



 失望。



「その実、恋するただの女の子。彼氏が部活からいなくなったら手を抜いて、大事な試合の日は生理が辛いから無理って」

「それは本当だったんじゃないかな」



 あの当時の無表情で言ってのけてそう。

 男子部員が居ても何食わぬ顔。

 ブラが汗で透けて見えても、裾の広いハーフパンツからショーツが見えていても気にしない子だったし。

 僕らのこと石ころか何かと思ってそう。



「わかってますよ。嘘をつかない人だってことぐらい。ただの八つ当たりだってことも。勝手に失望して嫌いになっただけ」

「そういうことってあるよね。理想を押し付けて、裏切られた気分になるって。相手もただの人間なのにね。その自分の気持ちは理解しているのに納得できない」

「……何かあったんですか?」

「そういう経験が僕にもあったってだけの話。まぁ、いいんじゃない? 夏菜のこと嫌いでも」



 本人も気にしないだろうし。

 僕や春人さんに冬乃さん、麗奈ちゃんがありのままの夏菜を理解して好きなままでいれば。

 夏菜の彼氏として怒るべきなのかもしれないけど、絵梨花ちゃんの気持ちも少しわかってしまう。



「渉さん、市ノ瀬先輩の彼氏ですよね?」

「そうだよ」

「嫌いな人を無理に好きになるほうが辛いでしょ。嫌いなのは嫌いなままで僕はいいと思うよ。好きになる努力をするより未来に目を向けたほうが自分のためになる」

「変わってますね」



 もう一度絵理香ちゃんは大きな溜息を溢す。



「成る可くして二人は恋人になった気がして余計にムカつきますね」

「そう言われてもね」

「まぁ、もういいです。なんか話したら疲れました」

「結構ぶっちゃけたな。まぁ僕は夏菜本人と本気で敵対しないならなんでもいいんだけれど」

「勝てる見込みもないのに吹っ掛けませんよ。あなたとは違うんですから」



 無謀だと思われたてたのかな。

 短い期間であっても僕らの勝負を見ていたのかもしれない。



「勉強でも始める? そのために呼ばれたみたいだし」

「そうですね。過去問やってるんで採点だけお願いしてもいいですか」

「おっけ。それでわからないところ教えるって形でいいかな」

「はい、それで。間違いも指摘してもらえれば助かります」



 テーブルの上に勉強道具を並べる。

 市販の過去問題集。

 僕もお世話になったし、今年の末ぐらいにはまたお世話になる。



「そういえば智樹君は?」

「部屋でかっこつけてるんじゃないんですかね。市ノ瀬先輩が来ることわかってたし」

「ふーん」



 好きな人に会うために身だしなみを整える。

 中学生でも気をつけるんだな。

 そういえば夏菜がストッキングを履き始めたのも僕と過ごすようになってからだ。

 恋すると人は変わるのかもなんて考えた。

 智樹君が今までどう過ごしていたなんて知る良しもないんだけれど。



「約束しましたよね」

「わかってるよ。入試まで言わないって約束」



 言っておかなければならないことがあった。



「でも彼女の行動でバレるのは知らないからな。もし智樹君が夏菜に迷惑を掛けるような行動、逸脱するようなことがあれば僕は彼女優先で動くし」



 こればかりは言わないとね。

 さっきのは目の前の彼女に共感したから怒らなかったけれど、これはまた別の話。

 過去と未来。

 終わったことと起きるかもしれないこと。

 優先すべきは今と未来。



「それでいいですよ。渉さんと智樹ってそんなに交流あるわけでもないので」

「でも最近バイト先によく来るよ」

「……は? 何やってるんだアイツは」

「夏菜目当てで来てるからな。すっごいソワソワしてる」

「頭痛くなってきた、人が折角心配しているのに」

「良い姉ちゃんだね」

「あたし双子の妹の方です」

「……女の子のほうが精神的に成長早いって言うしね」



 如実に差があるんだね。

 僕よりも夏菜のほうが大人びているし、寧ろ男子のほうがずっと子供のままなのでは。



「本当は一度ちゃんとした挫折を味わって欲しいんですけどね」

「厳しいね」

「あいつ自惚れてるし」

「それだけ自分に自信があるってことなんじゃないの」

「根拠のない自信ですよ。いつか盛大にやらかす、ただ今挫折してもらっても困るんで」

「そこの応用問題間違ってるよ。会話しないほうがいい?」

「何かしてる最中でも解けるぐらいじゃないと自信にならないので」

「そう。ならいいけど」



 結構自分にも厳しいなこの子。

 好感が持てる。

 にしても問題の智樹君、本当に遅いな。

 居たら話せないような事なんだけど。



「渉さんは……、どうしても勝てないような相手がいたらどうしますか?」

「僕? 勝てるまで突っかかるかな」

「聞いたあたしが馬鹿でした。市ノ瀬先輩も渉さんも参考になりませんね」

「僕は自分では凡人だと思ってるから行動の重ねるしかないから、だから失敗続きだし負け続けてる。夏菜にだって最近ようやく引き分けに持ち込めたぐらいだもん」



 どうやって勝とうかな。

 自立することを目標としているけれど、最近は自分と戦っているような気がする。

 自分にも負けたくないけど、夏菜にも負けたくない気持ちは続いている。

 彼女を導けるような自立の仕方をすれば勝ったことになるのかなーなんて最近は考えている。追いついたと思ったら、もう背中しか見えない。



「大変そうですね。出来る彼女がいると」

「楽しいけどね、目標が出来るから」

「普通の男子だったら押しつぶされそうですけど」

「かなり尽くすタイプだよ?」

「尽くされる側も特殊タイプだからじゃないですか。知りませんけど」

「そんなに変わってる僕って」

「十分変人ですよ。市ノ瀬先輩と張り合ってるの変ですし、その歳で僕っていう一人称も、闘争心丸出しでバスケしていた頃も、学園祭のライブも決して上手いというわけでもなかったのに惹きつける歌声。本当に不思議」

「僕のこと知りすぎじゃないか、というか文化祭来てたんだ」

「……まぁ同じ部活で、今は姉が所属している部活ですから」



 解答用紙がすべて埋まる。

 傍から見てすぐに間違いだとわかったのはあの応用問題だけ。

 用紙を受け取り、赤ペンを借りて答え合わせを行っていく。

 その間に彼女は姉を真似した髪色を揺らしながら立ち上がり、カップを持って新しくココアを作り始めた。



「あ、遅くなりましたがお守りありがとうございます」

「うん。余計なお世話だったかもしれないけど、受かってほしいという気持ちは本物だから」

「いえ、異性にこういう贈り物貰ったのは初めてなのでうれしいですよ。他人のためにわざわざ買ってくるんだから偽物なんて疑わないですって」

「ならよかった」



 一問だけ僕が指摘したけど、最終的には全問正解。



「すごいね」

「よかったです」

「応用問題時間が掛かっているけど許容範囲だね」



 むしろ会話をしながら脳の処理を二分していのだから十二分。



「そうですか」

「基礎がしかっりしてるから問題なさそうだけど、色んな問題を解くだけでよさそう」

「ありがとうございます」



 僕の前にもココアが。



「ありがと」

「いえ。誰も降りてきませんね」

「これ智樹君が来ないと意味ないんじゃないかな。色んな話が出来て僕は楽しかったけれど」

「あたしは一対一で見てもらえるので得してますけど」

「なら別の教科やっとくか」

「お願いします」



 新たに問題を解き始めて暫くすると、夏菜と麗奈ちゃんがようやく降りてる。



「長かったね」

「すみません。色々と調べていたら思いの外」

「調べ物?」

「あ、いえ。んー」



 言いたいけど言えない。

 そんな感じ。

 なんかサプライズでも考えているのかもしれない。

 といってもなんかの記念日は思いつかない。設定した記憶もないし、記念日を作るよりもその日その日を大事にっていうのが僕の考え。彼女もその意見に同意してくれた。



「渉先輩にヒントっ、2月です」

「あぁ」



 記念日というよりイベントか。



「えぇ……。麗奈、言っちゃうの?」

「だって渉先輩にもドキドキしてもらいながら待つほうが効果ありそうじゃん」

「そうかもしれないけど」



 女子二人の会話に苦虫を噛み潰したような顔を浮かべるもう一人の女子。

 難儀だな。

 麗奈ちゃんの言動から察するに姉妹とはいえ、彼女が抱く思いは知らないようだ。

 家族だから全てを知っているなんてことはない。



「なので先輩、その日は丸一日空けておいてくださいね」

「わかった楽しみにしてる」



 服でも買いに行くか。



 ※



 智樹君が合流してようやくまともに勉強を教えることに。といっても智樹君は夏菜にずっと聞いているので僕は暇だったりする。

 絵梨花ちゃんは本当に優秀で、二人で会話をしている時に比べれば短時間で問題を解いていく。少し詰まるところがあったりもするが、時間を掛けて誰の手も借りずに答えを埋める。

 しかし夏菜はしっかりと質問に答えているのに智樹君は首を捻ってばかり。

 大丈夫かこれ。

 期間的に。



「夏菜って教えるの苦手だっけ?」

「得意ではありませんよ。わかっている人に教えることは出来ますが基本すら覚束無い人に私が言って理解出来ないだけなんじゃないですか」

「僕は夏菜に教えてもらったときすぐ理解出来たけど」

「先輩は土台がしっかり出来ていましたから、私の拙い教え方でも理解出来るだけです。私には理解出来ないことが理解出来ないので」



 絵梨花ちゃんが少し苛立ちを覚え、智樹君は……夏菜と会話出来ていることに喜んでいて、それがさらに彼女の機嫌を損ねる。



「僕が教えた方がいいんだろうけど」

「いやっす。夏菜さんに教えて貰いたい」



 分からない側の人間だった僕の方が躓きやいポイントとかも把握している。

 でもこの通りだ。



「僕が智樹君を教えて、夏菜が絵梨花ちゃんを見れば効率は良さそうなんだけど」



 嫌そうな顔が2つ。

 どちらでもよさそうなのが2つ。

 頭痛くなってきた。



「ちょっとコンビニでお菓子でも買ってくるよ。休憩も必要だろうし」

「私もついていきます」

「夏菜は残って二人を教えといて」



 嫌そうな顔が一つ増えた。



「でも二人の好み知らないから麗奈ちゃん借りていくけど」

「え、わたし?」

「他の誰がいるんだよ」

「まぁいいですけどぉ」



 尻にあるポケットに財布があることを確認しながら立ち上がる。



「夏菜は欲しい物ある?」

「別に何もいらないです」



 拗ねた。

 指でちょいちょいっと呼び寄せる。



「なんですか?」

「耳かして」

「? はい」



 僕のほうに耳を傾ける。



「息吹きかけたら怒りますからね」

「……、しない、よ」



 なんでバレたんだろうか。



「話すこともちゃんとあるから」



 だから睨まないでほしいな。



「智樹君のことでちょっと聞きたいことがあるからさ」

「それは……。ん、意地悪しないでしゃがんでください」



 彼女も気を使ってか耳打ちしようと背伸びをするが微妙に届かない。

 意地悪したわけではなく、最近彼女と並ぶ時座った姿勢が多いから。こういった内緒話する時は彼女が膝立ちすることで可能だった。



「私のことを心配してのことですか?」

「うん」

「早く帰ってきてくださいね」

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