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翌日の朝は

 目が覚めると見知らぬ天井。

 隣には見知った顔。

 無表情でクールにも見える大人っぽい外見が緩んでいて、年相応の少女のように無垢に見える。

 普段しっかりしている彼女も休日になればこのような姿だ。

 寝ている時に着ている衣装が乱れて淫靡な。

 ただ朝だというのに遮光カーテンに遮られているこの部屋では朝日は届かず薄暗いのが余計に。


 季節である程度違いはあれど自宅ではパーカーに下着だけ。

 僕の家に泊まるときは下にショートパンツを履くだけ。

 これもまた僕に気を許している証なのだと思うと嬉しくもある。


 今は午前7時。チェックアウトは11時まで。

 もうしばらくゆっくり出来る。

 ただ遅すぎるとどこかで学校関係者に出会う可能性もあるから10時には出たいところではある。


 暖かい空調に薄暗く落ち着いた内装。

 そして傍には暖かく柔らかい存在。

 二度寝してしまおうかな。

 この数日ちゃんと寝た記憶がない。

 夜と朝の狭間に寝ついている。

 こんなにぐっすり眠れた。


 眠れなかった要因の1つでもあり、よく眠れたおかげでもある正体の頬を突く。

 柔らかく絹のようななめらかな肌。押すと反発するように押し返してくる。



「うぅん……」



 嫌がるような声とともに形のいい眉の先が中央に寄る。

 気持ち良く眠っているので悪戯はこの辺までに、寝癖のある髪を最後に撫でてベッドから降りようとするがすらっと伸びた手が僕の服を掴む。そのまま引っ張られるれ抱きつかれる。

 華奢な体躯なのに元スポーツ少女。

 彼女をただの女の子として舐めていたら手痛い仕打ちが来るのは間違いない。

 それぐらいの力がある。

 引き剥がすぐらいの力は僕にもあるが、こんなに幸せそうに寝ている彼女に対してそんなことは出来ずされるがまま。



「……」



 僕の胸元に顔を埋めている状態。

 ボソボソと何かを喋っている。

 先輩の匂いと確かに聞こえた。



「起きた?」



 返事はなく抱きついていた腕の力が増す。

 さらに暖をとるように全身でしがみついてくる。



「寒い?」

「ん」

「暖房の温度あげとこっか」



 リモコンはベッドの縁、夏菜のすぐ隣に。

 薄っすら開いた瞳で彼女もまた位置を確認した。

 手に取ろうと伸ばしたが、先に彼女が掴むと起き上がらないと取れないような場所に投げ捨てた。



「んーん」

「もう少しこうしてる?」

「ん」



 規則正しい生活を送り、運動も適度にこなしているのにこの体質ばかりは仕方ない。



「はいはい」



 頭を撫でながらしばらく待つ。

 彼女がもぞもぞと動き始めて覚醒の気配を感じた。

 手を握り温度を確認。

 あともう少しといったところ。


 空調と彼女の呼吸が音。

 そして僕の心臓の鼓動。

 外も静かなもんだ。

 世間は昨日が終われば少しの休憩のあと大晦日まで忙しない日々が続く。

 彼女に抱きつかれたまま天井を仰ぐ。

 今日のことを決意するように空に手を伸ばして虚空を掴む。



「何してるんですか?」

「……」



 少し恥ずかしいところを見られた。

 自分に気合を入れる動作。

 中学のバスケ、高校の演奏。

 舞台に立ち上がる前に膝を叩きぐっと拳を作る。



「なんとなく?」

「まぁいいですけれど。それより、おとぎ話だと目覚めるために何かありますよね?」

「自らせがむお姫様の話は聞いたことがないけれどね」



 しないと起きないとばかりに目を瞑り顔をこちらに向ける。

 小鳥が喋むようなキス。



「おはよう」

「はい、おはようございます」

「今日は朝からすごい甘えるね」

「いいじゃないですか。起きてすぐに先輩の温もりを感じられるのは久しぶりなんですから」

「そっか」

「結局何もされませんでしたが、私はこういうゆったりした時間も好きなので」

「それは僕もかな」



 場所を選ばすとなりに夏菜がいるだけでいい。

 悲しいことも嬉しいことも彼女が傍にいるなら、それはきっと幸せなんじゃないかな。



「スマホの電源入れなくて大丈夫? あのあとそのまま寝ちゃったけど」

「そういえばそうですね」



 うつ伏せになりながら端末を拾い上げる。

 ゆっくりと画面が光り、OSのロゴが表示された。



「妹ちゃんからメッセージきてる」

「お願いってやつだね」

「みたいですね」



 スクロールする仕草を見せたあと、首を傾げる。



「どうした?」



 内容は言われた通りだとは思う。



「言う言わないはこちらの勝手だとは思いますが」

「そうだね」

「これになんの意味が?」

「ほら、智樹君は夏菜のこと好きだろ」

「そんなこと言ってましたね」



 返信することなく興味なさそうに立ち上がりベッドから降りる。



「いつもどうしてるんだ?」

「いつもとは?」



 薄着のまま、というよりは昨日からの格好のままこちらを振り返らず冷蔵庫に歩いていきミネラルウォーターを取り出す。冷蔵庫の隣には小さな棚が置かれスティックコーヒーやティーバッグなども用意されている。ファミレスのドリンクバーの小型番といったところ。

 ケトルに水を入れてスイッチを押してから戻ってくるとベッドに座り直した。



「夏菜ってモテるだろ。好意を向けられることも多いわけで、断り方とか避けたりとか? かな」

「私は基本的に我関せずですね。そもそも呼び出されるまでは好意に気づかないです」

「そ、そんなもん?」



 僕でさ夏菜の好意に気付いていた。

 気付いていて知らない振りをしていた時期がある。



「そんなもんですよ。たとえば――」



 ベッドのスプリングを利用するように飛び跳ねる立ち上がる。

 僕の正面にうつむきがちに佇む。



「柊さん、放課後お話できませんか?」

「ちょっとわざとらしいね」

「差はあれどみんなこんな感じですよ。例外もありますけれど」



 でも確かにこんなふうに呼び出されれば気付きもするか。



「その後は」

「今度呼び出された時一緒に来ます?」

「やめとく」

「どうしてですか?」

「振られる側に感情移入しそう」



 それに彼氏同伴って。

 気まずいだろう、お互いに。



「うちの学校だとあまりないだろうけれど、手に負えないような相手から呼び出されるようなら前もって言ってくれ」

「はい」

「でも度胸あるよな。恋人のいる人に告白するって」

「最近は私と先輩が交際していることを知らない人だけですね」

「そんなことになってたんだ」



 最近では月一あるかどうか。

 そんなところまで落ち着いてきた。



「来年になったら増えそうだけどね」

「やめてくださいよ。今から気が重くなるじゃないですか」

「まぁ、夏菜は可愛いから仕方ないと思うよ」

「そう言われて悪い気はしないんですが、見てほしいのは先輩だけですから」

「でも毎回律儀に告白を受けるよね」



 素直に感心する。

 他人に興味がないのにも関わらずだ。



「人を好きになる気持ちはわかりますからね。応えることは出来ませんが、受け止めるぐらいのことはしようと」

「へぇ……。いい心がけっていうか、器の広さを見た気がする。僕もそうしようかな」



 されること前提で言っているが、された試しがない。



「ちゃんと報告してくださいね。不安になるので」

「そんなことは起きないと思うけど、もちろん言うよ」

「それで先輩も妹さんから同じお願いをされたんですよね」

「うん」

「なんて答えたんですか」

「とりあえず了承はしておいた。僕らの行動で智樹君にバレたとしてもそれは知らない。自分からは言わないってだけ」



 そもそも智樹君と会う機会なんてないだろうし。

 昨日直接言わないだけって感じなのだろう。

 それに比べて夏菜は麗奈ちゃんの友達で、遊びやネイルについて学びに行ったりと会う機会はいくらでもある。



「夏菜はどうする? 僕と立場が違うから同じ選択は出来ないと思うけれど」

「いえ別に私はバレてもいいと思っていますよ」



 なんてことを言う。



「一応相手は受験生だけど」

「普段からの努力が足りないからじゃないですか?」

「それは……その通りなんだけれど」

「わざわざ、無理して梅ヶ丘を受験しなくてもとは思います。いい学校なのは間違いないですが、普段努力しない人が来てもついてこれないとも思いますし」



 ケトルのランプが消灯し、夏菜は僕の分も含めて紙コップを用意。熱くないよにと二重にして渡してくれた。

 お礼を言うとこくりと頷く。


 まぁ、でも実際うちの学校の方針は生徒の自主性に委ねている。授業もしっかりとしているが、授業内で質問などは受け付けない。

 理解できなければクラスメイトや休み時間に教室に訊ねることになる。

 わからなければ自分でどうにかしろということだ。

 理解するまで考えるか、質問するか。

 待っていても答えはない。

 夏菜の言う事はその通りすぎて返す言葉もない。



「智樹君って部活とかやってたのか?」

「さぁ? 興味ないですから」



 彼のことについての話は終わる。

 絵梨花ちゃんに返信はしたみたいだが、夏菜の中では関係ないこととして処理された。


 予定の時間までゆっくりと過ごしてホテルから一歩。

 昨日よりも寒く感じないのは貰ったマフラーのおかげか、僕のコートのポケットの中で手を繋いでるからか。



「もう帰りますか?」

「お昼だけどこかで食べようか」

「はい」



 ただの26日。

 ホテルで一夜をともに過ごしたが色気はなく、昼食も馴染みのラーメン屋。

 それでも彼女は楽しそうにその日を過ごしてくれた。

 見栄を張る間柄でもなく自然体。

 一緒にいてドキドキすることもハラハラすることもあるけれど、何より安心して居心地がいい。

 改めて家に帰るのが億劫になる。


 さてと。

 そうも言っていられるわけにもいかない。

 やることは単純。

 過去ばかりに囚われても未来はない。

 後ろ歩きに進めば怪我のもと。

 躓かないように足元ばかり見ていて、先の景色をみないのは勿体ない。


 まずは相手を知ることから始めようか。

 過去にやったことは消えないし、それについて恨みはあるけど、そもそもまともに話し合っことすらない人物。

 知ってからこれからのことを考える。

 最終選択は父さんが決めることだけれど、僕は僕の意見を持つべきだ。


 彼女を自宅に送り届けてから、自分の家に戻ってきた。

 よしやるか。

 深呼吸。

 瞑想。

 深呼吸。

 ドアノブに手を掛ける。

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