続き
「あれ?」
夏菜と風呂を入れ替わる。
その間に部屋の探索を行っていた。
テレビを付けると本当にアダルトなムービーが流れて驚いてしまった。
体調が悪くなるかなって思いながらも探究心で見続けるが、前戯の部分はなんとも思わなくなっていた。
以前に夏菜に対して似たようなことをしたことがあったからだろうか。
見ている物と自分でしたことでは差がある。
ただ僕の知らない行為があって、思わず「なるほど」と頷く。
「何がなるほどなんですか……」
「おかえり」
「ただいま戻りました」
濡れた髪を拭いながら僕の傍まで来るとテレビのリモコンを取りスイッチを消した。
「あ、いいところだったのに」
「駄目です。私だけを見てください」
「女優単体を見ていたわけじゃないんだけれど」
「なんとなく察していますが駄目です」
「そっか」
「はい」
冷蔵庫からフリードリンクを取り出す。
僕もいつもより長風呂をしたといっても15分延長しただけで夏菜のほうが少し長め。
彼女がドライヤーで髪を乾かしている姿を意味もなく眺める。
座って髪を乾かす。
たったそれだけの仕草だけど絵になる。
プーケのない今、身体のラインもはっきりと見えていて彼女の美しさが一際強調される。
ドリンクを受け取るとおずおずと隣に座る。
ホテルに着いた時よりも距離があった。
「するんですよね」
「するよ」
母親のことどう伝えようか。
突然出てきたからこそ、自分の中でも整理がついていない。
「先輩はバスローブ着なかったんですか」
「んー。なんか足元がスースーしてちょっと無理だった。そういう夏菜こそ着てないじゃん」
「せっかく作ってもらった物ですし、先輩も喜んでくれたので」
「でもさ」
「何でしょう」
「もう26日なんだよね」
「寝るまでが私にとってのクリスマスです」
離れていた距離を詰めてきてまで僕を軽く小突く。
ついでにというわけではないが、僕の膝に座り抱き合うような形になった。
春人さんと冬乃さんもだったけれど、この体勢が彼女たち一家にはお気に入りなのかもしれない。
「さいで」
「はい」
彼女が後ろに倒れないように腰に手をあてて支える。
お風呂に入っている間に言葉を纏めようとしたけれど、色んなスイッチを押して遊んでいて考えることを忘れてしまった。
そっから興味があることに手を出し始めて、今がこの結果。
はてさて。
手紙が届いたことは彼女も知っている。
その手紙を燃やした本人がこの子なのだ。
内容を踏まえて……。
「む」
眼の前に彼女がいるのに視野に入っていなかった。
僕の悪癖というか、考え事をし始めると周りが見えなくなる。
口に柔らかい感触の後、口内に熱いものが侵入してかき乱す。
歯茎をなぞり舌を絡ませ、ようやく彼女の顔が離れると唇から唾液が糸のように伸びて途中で切れた。
その顔は恍惚としていて艷やか。
「こうしているのに考え事ですか?」
「するって言ったじゃん」
「……はい。先輩も覚悟を決めたみたいですので、私も覚悟を。最初は痛いって聞きますから」
「……?」
なんだろう。
この会話の違和感。
ただピンっとくるものがある。
ここはそういう場所で、夏菜の発言からも。
「そういう事か」
「何に納得したんですか?」
「いや」
このまま勘違いさせたままでも面白いな。
僕としては話を最後まで出来ればいいのだけれど。
「先輩くだらないこと考えついた顔してますよ」
「……」
「何か言ったらどうなんですか?」
やめておこう。
あとが怖い。
それはそれとして、もう1つ聞くことがあった。
「話は変わるんだけれどさ」
「誤魔化すの下手ですね」
口元を手で抑えながらクスクスと笑う。
「絵梨花ちゃんからお願い事された?」
「無理やり続けるんですね……。ちょうど先輩と智樹くんが飲み物を取りに席を外れたときに何かを言おうとしてはいましたけれど」
「結局お願いされなかったんだ」
「必要があれば連絡ぐらいくるんじゃないかって思いまして、自分から――。スマホの電源切ってました」
「そんなことある?」
「まぁ後でいいですよね。今は二人きりなんですから、他の女のことは言わないでください」
夏菜はスマートフォンをベッドの上に投げ捨てる。
もう一度顔を近づけてきた夏菜の唇を指で押さえた。
「なんですか? お預けですか?」
膨れる頬を優しく撫でる。
「その前に話をしよう」
「……。あぁ」
はっとしたように目を見開く。
この子完全に忘れていたな。
「ちなむと落ち着いた場所で話したいから夏菜をここに連れてきた訳なんだけれど……」
「え……? 私の勘違いってことですか」
「えーっと、そうなるね。するとは言ったけれどやるとは言ってないよ」
会話をやるとは言わない。
ただ、いやらしいことをするとは言える。
場所が場所だし勘違いをしても仕方ない。
僕の言動がすべて。
一気に顔まで真っ赤になった夏菜は自分の顔を押さえる。
「落ち着いた場所ではなく盛り上がる場所ですよここ」
口元まで手で埋まっているのでくぐもって聞こえる。
「使用者によっては……かな?」
「あぁー、もう、ほんっとうに恥ずかしいんですが」
「一応イヴの埋め合わせのつもりでもあったんだけれど」
「その、それは嬉しいんです。ただ今日で先輩と結ばれると思って舞い上がってしまいました」
こつんと頭頂部を僕の胸にあて深呼吸をひとつ。
更に頭突きを2回。
おでこをぐりぐりと押し当てそのまま肩付近まで登ってくる。
「あむっ」
可愛らしい声と同時に。
「あいてでてっ」
強烈な痛み。
噛まれたと感じた時にはもう夏菜は顔を離していた。
「これぐらいで許してあげます」
「本気で噛んだな」
「そうですね。私への躾が足りなかったんじゃないですか?」
上着を脱いでTシャツの襟を引っ張り鏡を見ると、服越しに噛んだにもかかわらずくっきり歯型が残っている。
「犬かなにかかよ……」
「似たようなものですよ。それとも先輩は猫派ですか? よく中庭でにゃーさんと寝てますし」
「犬派も猫派もないよ。単純に動物が好きなんだけだし」
爬虫類と虫は苦手だけれど、動物は見ているだけでも癒される。
まだ別だけど子供も素直な性格をしていて好きだったりする。
裏表のない。
純真無垢。
そう考えると。
「夏菜って結構子供だよね」
「え?」
「悪い意味じゃなくてね。裏表ない真っ直ぐなところが」
いい環境で育ったんだと改て思った。
小学の頃イジメにもあったようだが、それを跳ね除ける強さもある。
「そうですね。私にだって裏表は少なからずあるとは思いますが使い分けられる性格もしてないですし、したところで疲れてしまいますからね」
早く大人になりたいと思ったいたが、大人にならなくてもいい部分というのも存在する。
夏菜と繋がっていることで新たな気付きを得ることが出来る。
僕は思ったよりも僕のことを理解出来てないのかもしれない。
その第一歩として、まずは母親のことを話そう。
夏菜のことを誤解したその日のことから、今日までのこと。
正直にいえば母親のことを避けていた。
何を考えている理解出来ない可哀想な女性。
相手に裏切られ住むところをなくした。
過去に僕らを裏切った人でもある。
もう起きた事。
だからもうどうしようもない。
考えるべきはこれからのこと。
ただこればかりは自分だけでは決められない。
僕の父の問題でもあるのだ。
それを彼女に言うと深く頷く。
「先輩は自分のことだけならすぐに決めちゃいますけど、他人のことが絡むのであればすごく慎重になりますよね」
「そうでもないよ。今でも進路とか迷ってるぐらいだし」
進学することは決めているが、その先を見据えてどの大学にするかなんて決まっていない。
「進路に迷うのは、私がいるからでは?」
「……そうかも」
考えてみればそうなのだ。
少しだけ先の未来だけを考えればいいだけ。
大学に入ってから自分の実力にあった職につく。
でも更に先のことを考えれるようになったからこそ悩む。
夏菜との未来。
一緒になることを前提とした未来だ。
市ノ瀬一家のような幸せな家庭を築く。
それに憧れている。
彼女の夢がカフェのオーナーならば僕はと。
「先輩は先輩のしたいこと願えばいいのですよ」
「うん、そうだね。ありがとう」
深夜1時を越えて、目が開かなくなった夏菜。
もともと規則正しい生活を送る彼女はこの時間に起きていることが稀。
彼女を抱きかかえベッドへ連れていくとゆっくり降ろして布団を掛けた。
すぐに寝息を立て始めた彼女の頬に口づけをすると、1人ソファに腰を落ち着けてもう少し考えることにした。
親のこと、将来のこと。




