クリスマスはまだ続く
結果として夏菜の結婚以来順調に進み僕ら二人が1位を独走して人生ゲームの幕は下りた。
一回に掛かる時間は長く、もう22時を過ぎていた。
その後は少し雑談を挟み帰る流れになった。
「先輩そろそろ」
「そうだね」
身支度を整えて立ち上がる。
夏菜のサンタコスチュームも見納め。
「夏菜さん、家まで送りますよ」
「先輩に送ってもらうからいい」
「……渉さん、夏菜さんをお願いしますよ」
「え、うん。任せて」
そのつもりだったから人に言われると違和感がある。
玄関で見送られ橋田家を後にした。
頼りない街灯を頼りに真っ暗で凍えるような寒さの中家路を歩く。
手を絡むように繋ぎ、僕のコートのポケット中で寒さをしのぐ。
「先輩、今日はもう少し一緒に居たい……な?」
「約束だったしね」
「ムード台無しですよ。女の子ほうから誘ってるんですから」
「どうとでも受け取れるように言ったろ」
「そうなんですけどね。でも一緒に居たいのは本当ですよ? 今日は二人っきりになること出来なかったですし」
「そうだね」
僕の家には連れていけない。
残るは夏菜の家。
「私達の年齢だと、その……。えっとホテルに二人で泊まれないですから」
言い淀んだのはえっちなことを目的とするホテルだからだろう。
制服ではないし入ることは容易いように思う。
変なところは真面目で恥ずかしがる彼女が微笑ましい。
ただ今の僕らとして泊まる意図を見いだせない。
楽しい時間を過ごしたからだろうか、僕も自宅には戻りたくはない。
せっかくの余韻が醒めてしまう。
「夏菜」
「何ですか」
彼女に呼び掛けながらもスマートフォンで検索をかける。
予想よりも高額でびっくりした。
流石はクリスマスというところか。
ただイヴじゃないからか空室はそこそこある。
値段に目を瞑りながらも良さげな所を見つけて予約をいれる。
どうせ二人で話すなら落ち着いた場所で話すのが一番いい。
「今、ラブホ予約したから」
「……ん? え? ……っ」
「流石にこの辺だとまずいし、都市部のほうだから電車に乗ろう」
「え、はい」
ホテルに向かう道。
彼女は黙ってついてくる。
こんなに無言になっている彼女を見るのはとても久しぶり。
なんだか懐かしい気持ちを味わいつつも、途中でコンビニで飲み物やお菓子を購入し、夏菜の持つ鞄に仕舞ってもらう。
静かなままの夏菜を連れてホテルに入る。
深くサイトを熟読せず内装の写真と口コミだけで予約を入れていたということもあって、ラブホのイメージとしてフロントは無人だと思い込んでいたが普通にフロントスタッフの人がいた。
受付のさい誤魔化していることがバレないだろうかと内心ドキドキしたのだが、普通に接客されて好きなバスグッズを選んでくださいとのこと。
夏菜が選んでいる間に僕は会計を済ませて鍵をもらう。
宿泊は元々高いという事前知識あったのだけれど、二人合わせて3万が軽く消えていった。
「お、お待たせしました」
「うん。行こっか」
「……はい」
選んだ部屋。
サイトの写真で見るよりも綺麗で豪華、それでいて落ち着いていて大人な雰囲気を感じる。
シャンデリアにふわふわな絨毯。
天蓋付きのベッド。
ソファなんかもゆったりと出来る大きなサイズでスプリングも効いていた。
夏菜は両手に抱えたアメニティをテーブルの上に置いてからソファにちょこんと座る。
いつも堂々としていた彼女が静まり返り、置物のようになっているのがなんだか面白い。
「あ、今さらだけど春人さんたちに言った?」
「え? あ、はい。もしかして今日は泊まるかもって伝えておいたので大丈夫かと」
「そっか、なら大丈夫だね」
「……はい」
予約した段階でスタッフが暖房を入れてくれていたようで部屋の中は暖かい。
防寒着を脱いでラックに掛ける。
手を差し出すと手のひらを乗っけてくる。
「えっと……。コート預かるよ」
「あ、……すみません。勘違いしました」
恥ずかしそうに俯きながらコートを脱ぐ。
1時間前に見たサンタコス。
「麗奈ちゃんってこういう才能あったんだね」
「そうですね、将来は服飾系に進みたいと言っていましたから。単純に私を着せ替えるのも楽しいみたいですけれど」
「こういう質問にはちゃんと受け答え出来るんだね」
場所が場所だから緊張してポンコツになっていると思ったけれど、そこから思考が外れればいつもの調子に戻る。
でも僕と話しながらも辺りをきょろきょろと見回していて落ち着かない様子。
「う、うるさいです。先輩のそういうところ本当に嫌いです」
「夏菜」
「……はい」
「今日一日ありがとう。楽しかったよ」
「はい。これからももっと楽しいと思えることやっていきましょう」
わざわざコンビニでドリンクや菓子類を購入していたのだけれど、それなりの値段をしたホテル。小型の冷蔵庫に入っているものは全て無料で飲んで良いらしい。
ただ半分はお酒。
置いてあるお菓子なんかもナッツ類やつまみになりそうな物が大半。
「なんか普通のホテルって感じですね」
「そう? 支払いの時にカウンターにいくつかアダルトグッズの見本が書かれているものが置いてあったから、やっぱりそういう場所なんだと思ってた」
「買ったんですか?」
「……」
興味本位で買おうとは思ったけれど自重しておいた。
夏菜にどんな目で見られるやら。
「買ったんですね?」
「いや、面白いなって思ったけれどやめといたよ」
買ってきた物を冷蔵庫に仕舞いながら、ホテルの好意で用意されたドリンクを手に取りアルコールじゃないことを確認しながら二人分取り出す。
「夏菜の体質だと大人になってもお酒飲めないよね」
「そうですね……。でも自宅で二人っきりとか、こういうシュチュエーションの時とかは呑んでも許してくれますよね?」
「飲みたいの?」
「母さんがあんだけ美味しそうに飲んでるのもありますけれど、食事にお酒って欠かせないものですよね?」
「まぁ、そうだね」
少し先に見えるカーテン。
捲ってみるとガラス張りというか、アクリルか。
お風呂場がベッドやソファから見えている。
浴槽は広く3,4人が脚を伸ばして入れるほど。
「うわ……」
「なんで引いてるのさ。こういう場所だってわかってたでしょ」
「そうなんですけれど、見られるだけってすごく恥ずかしくないですか?」
「カーテンもあるから大丈夫でしょ」
「開けないでくださいよ」
「よく考えたらなんでこちら側……。布製だからか、この部屋にてかてかのシャワーカーテンとか合わないもんな」
「冷静に考察されても困るんですが」
そう言いながらも夏菜は浴場に入りスイッチを押す。
自宅にある風呂と違って他の機能もあるようでちょっと楽しみである。
夏菜じゃないけれど少し長風呂するのも悪くない。
ならば先に話し合いをしておくべきか。
「する?」
「い、今からですか」
「お風呂の後がいい?」
「それはそうなんじゃないですか、ね」
「りょーかい」
歩きっぱなしで疲れたこともあり二人でソファに沈むように座る。
ただ少しだけ離れて座っているのが気になった。
「こっち来ないの?」
「うん。いえ、はい。行きます」
「緊張し過ぎじゃない?」
「しますよ。先輩は逆になんで落ち着いていられるのか不思議なんですが」
「場所が違えどやることは変わらないからね」
彼女は近づいていた距離を少しだけ離し脚をもじもじとすり合わせる。
「改めて考えるとやっぱり緊張します。手先は冷えているのに身体は熱くなってきました」
握ってみるといつもより冷たくて小刻みに震えている。
「先輩の手は大きくて暖かいですね」
「カイロ替わりになる?」
「カイロより優秀ですよ。こうやってくっつけば身体も心も暖まりますから」
手を握ったまま僕の左半身に身を預けてくる。
余った手で赤く短いケープ前中心を繋ぎ止めるリボンをいじる。
ボタンはなく、これを引っ張れば簡単に脱がせそう。
「いいですよ。引っ張っても」
「ん」
するすると簡単に解けてしまう。
脱がせやすいようにと一度背を浮かせてくれる。
ケープを脱がせると、がっつりと胸元辺りの開いたネックホルダーのようなタイプだった。
ケープを羽織っていたときにも見えていた背中はさらに素肌を晒していて、肩も出していて露出が少ないようでかなり多いものだった。
「ケープつけてるのと外したのだと大きく印象変わるね」
「そうですか?」
「うん。さっきまでは可愛いって感じだったけど、こっちだと色っぽい」
「……そ、そうですか」
真上から覗ける夏菜の胸の谷間。
ぱんぱんに膨らんで突けば弾けてしまいそう。
けれど触れて揉んでみると形を変えてるほど柔らかい。
ずっと揉んでいたくなる不思議な感触。
「……っん。その、そういうことはお風呂に入ってからって。それに先輩に渡すものがあるんですよ」
真っ白な肌に赤みが混じり、最後に触れた手も冷たさが消えていた。
僕から距離を取り、夏菜はいつも使っているリュックに手を伸ばすと中から紙袋を取り出した。
「本当は昨日渡すつもりだった物です」
重さはなく軽いものだとわかる。
「開けても?」
「はい」
中からはマフラー。
ものすごく手触りがいいカシミア製。
ロゴを見ると結構いいブランド物。
僕も夏菜もブランドに拘りがないものの、長く使えて丈夫な物で落ち着いたデザインというと、どうしても有名物になってしまう。
高価な物は高価だからいいってわけじゃない。
その使い心地、素材。
全てに拘った結果。
「長く使えるようにと良いものを選んだつもりです。まだまだ寒い季節が続くので」
「マフラー持ってなかったから助かるよ。ありがとう」
「はい。私も自分用に買ったのでお揃いです」
お風呂に入る前の雑談として。
「夏菜に1つ謝らなければならないことあったんだ」
「……?」
首を傾げ指は唇に。
心当たりがないらしい。
それはその筈。
僕が勝手に浮気を疑っただけ。
掻い摘んで事情を説明する。
「そういうことだったんですね」
静かに聞いていた夏菜は僕が言い終わると納得したように頷く。
「私も少し不注意だったかもしれないです。麗奈の弟だから、他の男性と比べると仲が良い方かもしれませんけれど、ただの友人の弟としてしか認識してなかったです」
「僕も君らの姿を見かけた時にすぐに声をかければよかったんだけどね」
過去を見て未来に。
間違いだと思ったことは反省して調整すればいい。
「智樹君は夏菜のこと好きみたいだけどね」
「……え?」
「気付いてなかったの?」
かなりわかりやすいタイプだと思うんだけれど。
「えぇ。まぁ、私に絡んで来る男子はみんなあんな感じなので……」
「そういうことだろうとは思ったけれど」
「他人に対して興味ないんですよね」
「それは僕もだけれど」
この一年近く、夏菜を筆頭に様々な人と関係を持ってきた。
良し悪しはあれど、大切なことなんじゃないかって最近は思うようになった。
知識を始めとして人の感情なんかにも見識を得れた。
「とりあえず、そういうことなんだよね。夏菜に辛い思いをさせたみたいだからさ。ごめんね」
「いえ。私の知らないところで嫌われてしまったんじゃないかって少し不安になったのは事実なんですれど、聞いてみれば後に笑い話になるようなことで安心しました」
目を細めてにこやかに笑っているように見える。
「あ、先輩からお風呂どうぞ」
「うん」




