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【連載版】すべてにおいて負ける僕が唯一勝利したこと  作者: 「」
一章 それでも続く穏やかな日常
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昼食の味

「夏菜は何にする?」

「そうですね」



 今後、夏菜の家に訪れた際はずっと焼き魚を出すという地味な嫌がらせを宣言されたために、僕は折れて司の前でも名前を呼ぶことを余儀なくされた。

 司の前どころではなく、今後名字で呼ぶことを禁止された。

 食券販売機の前に3人で並ぶ。

 平日の学食。

 結構な賑わいを見せている。



「先輩は何にしたんですか?」



 先に吐き出された食券を見せようとするが、司が横から口を出す。



「どうせ肉うどんだろ」

「うん」

「じゃあ、先輩と同じもので」

「おっけい」



 同じものを購入するので、先に持っていた食券を夏菜に譲る。



「渉と同じものって言うと、一週間どころか一ヶ月は同じものになるから、今後はやめときな」

「先輩?」



 あ、まずい。



「じゃ、僕先に席取っておくから司と夏菜はカウンターにいってき」



 逃げ出すも、襟首を掴まれて静止する。



「山辺さん、席お願いします。私とこの偏食家とでカウンターに行きますので」



 司は耐えきれず爆笑しながら、夏菜に食券を渡して席を確保に向かった。

 そもそも学食は広い作りで、食券と昼食を受け取るには時間が掛かるが、こだわりがなければ席に着くこと自体には時間は掛からない。



「行きましょうか」

「うっす」



 引きずられるようにカウンターに並ぶ。



「言い訳はありますか?」

「肉もあれば、きつねもあるし、カレーもあるよ」

「それで?」

「飽きないと思う」

「昨日の事、冗談だと思ってたんですけど」

「僕が冗談とか言うように見える?」

「冗談だったほうが人間としてまともでした」



 指先を口下に。

 夏菜の考える時の癖。



「何考えてるの?」

「昨日も考えていたんですけど」

「うん」

「今週、先輩のシフトって明日と明後日の土曜だけですよね」

「そうだね」



 シフト表をコピーして各々持っているので、夏菜も正式なアルバイトになった今、僕の出勤日は把握済みだろう。



「日曜日、私に付き合ってください」

「いいけど、どこかに行くの」

「色々と買い込むので、荷物持ちとして活躍してください」

「何を買うのは教えてくれないのね」



 一年生は5月に入ると林間学校がある。

 その準備にしては早い気もする。


 僕は自分の分と司の頼んだスタミナ丼を受け取り、カウンターから外れる。

 放っておくと囲まれてしまうので夏菜を待って、司の待つテーブルに向かった。



「ほい」



 適当な掛け声を上げ、スタミナ丼を司の前に置く。

 コップに注がれている水は彼が用意してくれたものだ。



「渉、いつの間に市ノ瀬ちゃんのこと名前で呼ぶようになったのさ」

「一昨日かな」

「ようやく正式に付き合ったのか」



 本人の前でよく話せるなこいつ。

 と、思ったが夏菜との関係性を友達の中で一番知っているのは司だ。



「いえ、まだ付き合ってないです」



 僕の方に向かって喋っているのだが、答えたのは夏菜だった。

 どういうつもりなんだろうと、薬味をうどんに振りかけながら様子を伺う。



「まだねぇ。見てるこっちとしては、じれったくて早く付き合えばいいのにって思うんだけどね」

「先輩次第ですね。私は想いを伝えたので」

「へぇ……。市ノ瀬ちゃんってこういう事堂々と言うんだね」

「隠していても仕方ないことですし」



 司は僕から七味唐辛子を奪うと、自分のお昼ご飯に振り掛ける。



「で、渉はなんで断ったんだ」



 矛先がこちらに。

 どう答えようか。

 断ったことになるが、あの告白は終わったわけじゃない。

 まだ生きているものだ。



「答える前に一つ質問していい?」

「なんだ」

「司って、今彼女いるじゃん」

「いないけど」

「あれ? 名前までは知らないけど先輩と付き合ってなかったっけ?」

「昨日、別れた」



 黙って聞いていた夏菜まで驚愕の顔。

 別れたとはいえ、質問は変わらない。



「なんで付き合ったのさ」

「告白されたから」



 丼ものをかき込みながら、つまらなさそうに答える。



「質問はそれ?」

「うん」

「意図は読めたけどさ、俺は付き合ってからでも好きになれるかなって、それで付き合ったからさ」

「今までの女の子もそうだったの?」

「そうな」



 夏菜のように目立つわけじゃないけど、司の顔立ちもかなり優れている。身長だって高い。

 身だしなみにも気を使っているし、近くにいると仄かに香水の香りもする。

 モテてるの当然の結果。

 普段、馬鹿を演じて3枚目みたいな印象を受けるが、見る人が見ればちゃんといいところがある。

 ただ付き合っても長く持たない。

 なにが悪いのかは、当事者じゃない僕にはわからない。



「そりゃ好きな娘と付き合えたら最高だろうけどさ、そんなこと中々ないって」

「そう、かもな」



 言いたいことはわかる。

 どれほどの恋人が、互いに好き同士で付き合い始めたのか。

 決して多くはない。

 いいな、から始まり。

 付き合おうか、で更に始まる。


 昼食だというのに真面目な話。

 小っ恥ずかしいような会話。

 だけど、多分。

 大事な事だと思う。



「で、どうして渉は断ったんだ。こんな可愛くて世話してくれるような女の子、探しても見つかるようなもんじゃないだろ」



 箸の先で夏菜を指す。

 行儀が悪い。



「それはわかってるけど」



 本人は聞いていて、恥ずかしそうに俯く。



「なんか想像出来ないんだよね、僕と夏菜が交際してる姿が。夏菜のことは好きだけどさ、性別の差はあれど司のことを友達として好きっていうカテゴリと一緒なんだよね」

「ふ~ん。まぁ、渉は好きじゃないと付き合えないってことだろ」

「有りていに言えば、そうだね」

「人の恋愛観なんて、それこそ人それぞれだし良いんじゃない? ま、俺は市ノ瀬ちゃんに頑張ってほしいところだけど」



 味噌汁をずるずると音を立て飲み干す、司。

 器を重ねて、トレイを持ち上げる。



「じゃあ、俺先に戻るわ」

「うん」

「はい」

「市ノ瀬ちゃん、悪いね。君の前で話すことじゃなかったね」

「いえ」



 去っていく司の後ろ姿を二人で見送る。



「先輩」

「なに?」

「私はちゃんと考えてくれる、先輩のそういうところ良いと思います。それで出した答えなら私は満足です」



 夏菜の直接的な好意の言葉。

 面と向かって言われることに慣れていない僕は、頬を掻きながら俯く。



「そっか」

「でも、私が諦めるとは限りませんから」

「う、うん」

「勝負だということを忘れないでください。絶対に落としますから」



 司に遅れること、僕のどんぶりも空になる。

 話がメインになってしまって、最近のお気に入りだった肉うどんの味がわからなかった。

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[良い点] グイグイ攻めてる夏菜ちゃん好き!
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