悪戯
「可愛がって貰えるんですよね?」
夕食は外で済ませて、僕の最寄りの駅で司とは別れた。
真っ暗な部屋。
見えずとも感覚的に覚えた位置にあるスイッチを押すと、温かい光が廊下を照らす。
リビングと自室の暖房をつけてから、着替えようと廊下を行ったり来たりとするが、自室に入るなり背中を掴まれる。
「ちゃんと覚えているから少し離れて。着替えれない」
「着替えさせてあげましょうか?」
「絶対自分でやったほうが早いよね」
目を細める彼女の姿。
何かを企んでいる。
その意図を読むために見つめ返す。
「もしかして着替えさせてほしい?」
「正解者に拍手、特典として脱がせていいですよ」
腕を広げてどうぞと言わんばかり。
「受け取り拒否は?」
「その場合、罰ゲームですね」
「内容は?」
「一緒にお風呂です。さぁ、どうしますか」
一緒に入ったばかり。
その時の記憶が鮮明に蘇る。
断れば問答無用でお風呂に入ってきそうだしな。
ここは僕が折れたほうが平和。
「着るのは自分でやって」
「ふふっ。どうぞ」
覚悟して淡々と脱がせることに。
厚手のコートを脱がせれば見慣れた制服にカーディガン。
カーディガンまでは簡単に脱がすことが出来た。
「セーラー服ってどう脱がすの?」
気にしたことはなかったけれど、体型にぴったりフィットしていて制服の生地の特性から伸縮性もない。
凹凸の起伏が激しいから余計にそう思える。
上に何かを着込むのも頷ける。
しかし脱がせるには一苦労しそうだ。
「えっと脇にファスナーがあるのでそちらを」
左腕があがったのでそちらにあるのだろうと見てみると、確かにファスナーがあり脇の下まで上がった。そのまま肌着が見える。
「胸当ては引っ張るだけで外れますので」
「胸当て?」
「この襟についている一枚の布地みたいなやつです」
言われて引っ張ってみると、簡単に取れた。
片方は縫い付けられているため完全に取れるわけではないらしい。
これがなければ胸元丸見えだしな。
そのためにあるんだろうとは思うが面倒な構造。
「そういえばリボンだったり、スカーフ、ネクタイって最初から選べるの?」
「最初からあるのはスカーフだけで、学年の色があるので一年は強制ですね。というより暗黙了解みたいな物でアレンジすると上級生に睨まれます」
「知らなかった」
「そういう所、女子って面倒ですよね」
僅かに顔を顰める。
こういった女性特有のルール嫌いそうだもんな。
本人は心底どうでもいいと思っているのだろうが、これでも常識を弁え自分に害がないのであれば従う。
少しでも自分の枷になるようだったら牙を向くそういう子。
男子はそういうルールとかあったのだろうか。
司から聞いた覚えがないから多分ないだろうな。
「後は普通に脱がせればいい?」
「はい」
襟を掴み剥ぎ取るように脱がす。
思ったより色気がない脱がし方。
なんというか子供がいれば着替えてを手伝っているような気さえしてくる。
「これ単純に自分で脱ぐのが面倒だった説」
「否定はしませんよ。着るのも面倒ですから。夏服のように前開きだと楽なんですけれど」
「寒くないの? キャミの下って下着だよね」
「襟から別の布地がはみ出ると不格好ですから、うちの制服ってデザイン凝ってるから余計に。あと見ての通り厚手の物着る余地がないんです」
「男子みたいにパーカーを仕込むわけにはいかないか」
女子はセーラーだけれど男子はブレザータイプ。
ワイシャツの替わりにパーカーや適当な長袖を着ることもある。
僕は大体室内ではワイシャツに厚手のカーディガンを羽織ってるだけ。外に出るときその上にブレザー着るだけだ。
中学もブレザーだったからか、僕は学ランに少しだけ憧れがある。
下に何着ようがばれないし。
といってもうちの高校も校則がゆるいから意味のない願望。
「スカートはわかりますよね」
「馬鹿言うな、僕だぞ」
「では――」
「わかるわけがない」
呆れるかなって想像したが「そりゃそうですよね」と、納得されてしまった。
「なんか少し嬉しそうに見えるんだけど」
「まぁ……そうですね。手慣れた感じで脱がされるよりはよっぽどいいです」
「リードされてる側の僕が言うのもなんだけど、女子ってリードされたいんじゃないの?」
勝手な思い込み。
そういったところでも頼れる男性像というのがあるのではという。
「一般的にはそうかもしれませんが別に私はそんなこと考えたことないですね。二人で積み上げていくほうがきっと楽しいと思います」
「いい事言ってる」
「褒めてくれていいですよ。これからも二人でもっと楽しいこと見つけていきましょうね」
「ほぼ半裸で言っているから格好ついてないけど」
「気付いても言わないでください」
いつものやり取りであるけれど立場が逆。
夏菜は堂々と立っていて僕はスカートを弄っているので彼女の前に跪いている状態。
これも格好のつかない一因。
ある意味女王様みたいではあるんだけれど。
「というか僕なんで夏菜脱がしてるんだっけ」
「先輩が私を可愛がってくれるという約束です」
「僕の可愛がるって甘やかすって意味なんだけど」
「まぁまぁ、これも練習一環だと思ってくだされば」
「なんのだよ」
「言わなきゃわかりませんか?」
誂うような声と挑発的な視線が降り注ぐ。
挑発されると弱い。
対抗心と反発心が沸いてくる。
立ち上がり様に夏菜の腰に手を当て、残りの手で華奢な肩に触れるとそのままベッドに押し倒す。
予想出来たのか澄ました顔をしている。
どうしたら一泡吹かせられるか。
スカートの脱がせ方を聞いてなかったが脱がす必要はない。
構造的に捲ってそのままタイツに手を這わせるだけでいい。
……。
タイツってへそ辺りまであんのか。
目論見は外れたが別の手段を取ることにする。
「このタイツに思入れある?」
「ないですけど、何するつもりですか」
「わかんない?」
力任せにタイツを破る。
冬用に履いているものは厚手だったので手間どう可能性もあったが案外すんなりと破けた。
透けて見えていた水色の下着が空気に触れる。
下着に触れなければ馬鹿にされそうだから、何も言わせないために口を塞ぐ。
最近憶えたばかりの舌を絡ませ合い唾液を交換する。
顔を離せば蕩けた顔を見せてくれる。
肌は赤みがかって瞳が潤み、顔は背けられるが視線は僕を捉えている。
「夏菜ってキスに弱いよね」
無言で頷く。
ただの粘膜接触。
でも心が満たされるのは僕も同じ。
彼女は僕よりもそれが感じやすい性質なのだろう。
「もう一度する?」
二度頷く。
捻くれているのは僕だけで、夏菜はもともと素直。
でもこんなに素直だと嗜虐心が高まる。
破いたタイツの穴を広げて素肌を晒した太ももを撫でると、くすぐったいのか内股になりふるえる。次第に落ち着きを見せて触りやすいように脚を少し広げてくれた。
筋肉が落ちて少し脚の肉付きが良くなっただろうか。
それでもクラスの女子と比べると細身ではある。
ぺちぺちと軽く叩いてみる。
胸ほどではないが跳ね返りが少し気持ちいいし、肌触りも良くて癖になりそう。
「あ、あの……」
「どうした?」
「お預けは嫌です」
聞いてからいつまで経っても口づけをしない僕に不安を憶えたようだ。
「なんのこと?」
「意地悪はやめてください」
「どうして欲しいのか言ってみ」
「……っ、ドS」
僕が上で夏菜が下。
彼女から口を近づけて来るが、手で肩を押さえる。
体重と力の差で彼女は起き上がることも出来ない。
「んーっ」
「駄目だよ」
ずっと触っていた太もも。
意識するように付け根にゆっくりと寄せいていく。
最終的にショーツに触れるかどうか辺りで止める。
その先はいずれということで。
顔に出すと隙きを点かれるので耳元に顔を寄せる。
「夏菜の身体熱くなってきたね」
太ももに汗が滲んできている。
顔が近くにあるから呼吸が荒くなっているのも伝わる。
一度だけ触ったことのある胸に手を這わせる、触れると同時に夏菜の吐息の色が変わった。
こちらもしっとりとしている。
このあとどうせお風呂に入るしいいか。
太ももの感触は十分楽しめたので胸に移る。
全体的に優しく。
以前触れたときは厚い布越し。
今回は薄い肌着である。脂肪の塊というだけあって柔らかさは段違い。
ある一定の場所を触る時に彼女の反応いいことに気付いた。
脇と胸の中間あたり。
なんども触っていると彼女がもじもじし始めた。
「いててっ」
肩を思いっきり噛まれた。
服の上からで助かった。
「いつまで、また、せるんですかっ」
「もしかして感じてる?」
「ずっと撫でられて、気持ちよく、なってきたのはそうなんですが。焦れったさが……」
ここでようやく顔をあげて彼女を見ると。
すごいふやけた顔で切なそうだった。
涙も溢れいてなにかを我慢するように唇を噛み締めている。
謝罪を込めて口づけを最後にする。
「ごめん、やりすぎた?」
こくりと一度だけ頷く。
流石に悪戯が過ぎたかな。
受けてに回ると本当に弱いなこの娘。
「夏菜って感じやすいのね」
「自分でもびっくりです……」
呼吸を整えてベッド上にへたりと座り込む。
服は乱れスカートは直しているもののタイツはボロボロ。顔の赤みは引いているようだが涙のあとは残っている。
「どうしました?」
「いや暴漢に襲われたみたいになってるなって」
「誰のせいですか」
「夏菜」
「……っ」
「睨むなよ。挑発してくるからだろ」
「こうなるって思ってなかったんですよ。先輩もいつも澄ました態度なのに煽り耐性ないなんて」
「僕の負けず嫌い忘れた?」
「この分野ならここまで対抗してくるとは思わなかったです。最近頑張っているようですが日和っている感じてんですが、先輩の負けず嫌いに感服です」
「これに凝りたら安易な挑発しないことだね」
「……挑発したらまた同じことしてくれます?」
何かを目覚めさせたらしい。
いや、元々そういう気はあったか。
※
「それで先輩は明日、山辺さんと神楽さんの話し合いの場に行くんですね」
「頼まれたからね」
謎の攻防。
というよりは僕が一方的に彼女を苛めてから2時間程経つ。
汗をかいたからか夏菜の入浴時間はいつもより少しだけ長かったが、上がってからはすっきりとした顔になり、先程の部屋での一件は忘れたようにも見える。
司たちの話し合い。
頼まれなくても行く末が気になるので、後からでも話ぐらいは聞きそう。
理由は様々あるが友がどうなるのかが一番気になる。
「夏菜は珍しくなにも言わないよね」
「先輩の成長に繋がるのもありますが、結婚観も知れてお得なので」
結婚について考え始めたのは確かに司たちの話を聞いてからだ。
少なからず自分の中に秘められていたのも気付かされた。
なんとなく付き合ってそのうち夏菜と結婚するんだろうなぁーとは。
「いつ頃結婚したいとかある?」
「大学生のうちにがいいなぁーとは思ってます」
社会人になってからとか考えていそうだと思っていた。
高校生より時間はあるのだろうけれど、自立は出来ていない年齢でもある。
成人する時期でもあるが一部を除けば親の脛をかじっている。
僕の考える顔を覗き見ると夏菜は言葉を続ける。
「私の誕生日にそのまま籍を入れるのもありですが」
「実はどうでもいい?」
「有りていにいえば。戸籍は先輩の妻になるのですが、関係が変わるわけではないですからね」
「そこに拘るのかと思ってたんだけれど」
「彼女でいる期間も大切にしたいので」
そう言う彼女の耳は少し赤らんでいる。
「関係が変わらないって言うなら、妻であり彼女であるってことじゃないの」
なんなら後輩。
大切な人が更に大切な人になるだけ。
相手に対しての責任が増える。
想いも増すのかもね。
「先輩のその考え素敵です」
「思ったことを口に出しただけなんだけど」
「いつも恥ずかしいこと言ってますけれど共感することばかりなんですよね。たまにはっとさせられたりします」
甘えるように僕の伸ばした脚に頭を乗っけてくる。
空いた両手を腰にまわして抱きつくような姿勢。
「先輩はどうなんです?」
「んー、夏菜に対して責任を負えるようになってからかな」
「真面目ですね」
進路より更に先の事。
あやふやだけれど確かに道が見えるように感じた。
選択肢の連続。
時には行った道を戻ることもあるかもしれない。
「再来年の誕生日には先輩の署名が入った婚姻届もらいますね」
「人の話聞いてた?」
「深く考えなくても大丈夫ですよ。私と先輩なら絶対にやっていけますから」
自信満々に言われるとそのような気になってくる。
それだけの力が彼女にはある。
先は長い。
焦ることもないのだと大人たち教わった。
スマホの着信を知らせるランプが点滅。
何度かのメッセージのやり取りの後。
司は昼過ぎには神楽先輩を連れて僕の家まで来るらしい。
落ち着いて話をするのであれば、ほぼ一人暮らしである僕の家しかないので提供することにした。離れた飲食店でも知り合いが来ない保証はない。
個室といえばカラオケだけれどあんな密閉空間の中で話し合いをされるのも居た堪れない。
今回の僕は傍観者。
ただ彼らの行く末を見守るのみ。
そう決めている。




