・開拓8日目 大理石のプール - 水汲み場 -
石切場で軽くつるはしを振って、石材をざっと50個採集した。
それを使って井戸を2つ新たにクラフトすると、畑の方へと引き返した。畑付近に井戸があれば、それだけ水やりが楽になる。
「ノアが作った物の中で最も驚くべきはこの畑じゃろうな」
「確かに。君たちに食べ尽くされたときはショックだったけど、今思えば自分の小ささを思い知らされた気分だよ」
「ちっちゃいですからねー」
「う、うむ、たぶんノアの言っていることは、そういう意味でないと思うぞ……」
「あれー……?」
この畑、食べても食べても作物が生えてくる。
今のところ枯れ始める様子はどこにもなく、例えばトマトならば1日に大きな5つが必ず実る。
そのあまりの都合の良さに、いつかしっぺ返し飛んでこないかと時折不安になるくらいだ。
きっと代償がある。そう考えてしまうのはここでは俺だけみたいだ。
「お、畑のすぐそこに設置できそう」
「いいですねっ、いいですねっ。美味しいお水ですから、トマトさんたちもきっと喜ぶですよーっ」
「ますます作物が美味くなってしまうな!」
「ちょっと待って、せっかくだし少し手を入れそう」
「む、ここを掘るのか?」
すぐに井戸を設置せずに縦横4×4、深さ2の穴を掘った。
そこに石材を埋め込んでゆけば、石材で舗装された2×2×1のプールの完成だ。
最後にポンと井戸を配置すれば、それが『立派な石の水汲み場』に姿を変えた。
早速、ピオニーとノアがはしゃぎながら井戸のレバーを上下に動かして、そこに冷たい地下水を流し込んでくれた。
「よいな……」
「ほわぁぁ……素敵……。お日様がキラキラなのですよー……」
「うむうむ。冷やっこくていいな……」
「そうですねー。あっ、トマトさんたちにも美味しいお水、わけてあげましょう! そいっ!」
まるで子供が水遊びをするみたいに、ピオニーが畑に向けて井戸水をまき上げる。
さらにクラウジヤまで一緒になって同じことを始めた。
今一瞬、微かに虹が見えた。そんな2人を横目に、俺は残りの井戸をさっきのプール予定地に増設しに行った。プールの容積を考えると手漕ぎ式井戸が2つは必要だった。
「なあノア、プールというプランはいいのじゃがな、今は他にやることがいくらでもあるのではないか?」
畑の方に引き返すと、どれだけはしゃいだのやら髪を濡らしたクラウジヤがいた。
謎のドット絵生物ピオニーの方も、濡れたせいか髪型が少し変わっている。
「そんなことないですよー。だってだって、冷たくて楽しかったです! クラウちゃんも『ウフフ、アハハ~ッ』って言ってたですよー?」
「そ、そんな笑い方はしておらん! ワシが言いたいのはだな、ここに同胞が集まる前にこの不思議な畑を増やすとか、他に、やるべきことが――」
うん、それは正論だ。そのためにここ最近全く取れていないミミズさんを集めるのも大切だ。
だけどね、クラウジヤ……。
「水に濡れたせいかな、君……ちょっと匂うよ」
「んな……っ!?」
「汗の匂いがする」
「な、なんじゃとぉっ?!」
「乾燥している土地だから今日まで気にならなかったけど、今はかなり匂う。肌の汗が溶け出してるんだろうね」
「うっ……?!」
「ノアちゃん、女の子にそういう言い方しちゃダメです」
「俺は正直に言っただけだよ」
「そうじゃないです。例えばー、こう言うですよー? 『汗の良い匂いがしますね、クラウちゃん♪ 君の匂いはちょっと俺には刺激的過ぎますー♪』みたいに、言わないとダメなんですよー?」
「それ、ただの変態じゃないかな……」
「そうですかー? でもでも、癖になる匂いですよー? スンスン……」
「か、嗅ぐなぁぁーっっ?!!」
犬みたいに鼻を鳴らすピオニーから、クラウジヤがしばらく逃げ回った。
そこまでされたら彼女の中でも、大きな心変わりが生まれていることだろう。
「ってことで、先にプールを作ってもいい?」
「必要じゃっ、今すぐ作ろうっ、ええい寄るなこの犬っころっ!」
「わんわんっ♪ わはーっ、楽しいですねーっ!」
「うん、端から見ている分にはまあまあ面白いね。じゃ、今から大理石を取ってくるよ」
せっかく男ドワーフたちが採集地を見つけてくれたのだから、プールは大理石で作るべきだ。
やるからには徹底的に。文化的な施設をさらに増やして、ここを俺たちの安住の地にしよう。
「集めた石材の数からして何か腹案があるとは思っておったが……とんでもないことを思い付くやつじゃな……」
「わーっ、いいですねっ、大理石の白くてピカピカのプール! 私たち、お金持ちみたいですねーっ!」
そうと決まればさあ行こうと手招いた。
ところがクラウジヤが付いてこない。彼女は何かを考えるように腕を組んで、不思議そうに見る俺たちに首を横に振った。
「せっかく水が手に入ったのじゃ、ワシは残って家事と掃除をしておこう。ピオニー、ノアの見張りは任せたぞ」
「お掃除ですかー? でもでも、クラウちゃんと一緒の方が、ずっと楽しいのに……」
「クラウジヤって家事とかできたんだね。なんか意外だ……」
「あっ、わかりますわかりますっ」
「ワシをなんだと思っているのじゃ、そなたらは……」
「ごめん。だってそういう印象が全くなかったから……」
「ノアちゃん、クラウちゃんはとってもいい子なのですよー? 明るくてー、かわいくてー、しかもちっちゃい上に、おっぱいが大きいてかわいい子なのですよーっ!」
立て続けにかわいいと2回も言われて、クラウジヤはくすぐったそうにしていた。
それが俺と目が合うと、何を誤解したのか胸を隠された。
俺だってソレには興味がある。だけど元貴族の気品を失う気はない。なので興味が全くない振りをした。
「いいから行けっ、家から倉庫の壁まで、全てピカピカに磨いておいてやるっ!」
「ありがとう、助かるよ」
クラウジヤのお言葉に甘えて、俺たちは西の荒野へと旅立った。
いつかクラウジヤに掃除のやり方を教わりたいな。
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【インベントリ】
荒野の土 ×47 /9999999
石材 ×3 /9999999
→ ×53(採集)
→ ×13(採集後、井戸に)
石炭 ×19 /9999999
→ ×23(採集で)
ミミズ ×40 /9999
芋(野生種) ×14 /9999
木綿生地 ×45 /9999
ハム ×45 /9999
干し魚 ×48 /9999
??????の魂 ×1 /?
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【倉庫・石の倉庫】容量:75キューブ
木材 ×5 /9999999
繊維 ×27 /9999999
→ ×17(井戸に)
アイアンインゴット ×91 /9999
→ ×81(井戸に)
小麦粉 ×200/9999
砂糖 ×50 /9999
精製塩 ×49 /9999
オリーブ油 ×22 /9999
草 ×28 /9999
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