表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生少女はまず一歩からはじめたい~魔物がいるとか聞いてない!~  作者: カヤ
さあ、帰ろう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

293/302

コカトリス再び

次の更新は明後日です

 ハンターギルドの講習のあと、薬草採取の講習をする。そのリズムで何日か過ごすと、評判を聞いたのか、町の人だけでなく東側のテント村からも希望者がやってくるようになった。


「東側にも、東の草原の街道にも薬草は生えていますからね。結界の境目に気をつけて、行ってみるといいと思います」


 もっとも、東の街道に行くより先に、町の北側に行くというやり方もある。

 町の結界は広いので、まだまだ薬草採取の余地はたくさんありそうだ。

 毎日熱心に参加しているのは、クラリッサとなじみの少年少女だが、サラがその場で買い取りをしているせいか、講習を受けずにもくもくと薬草を採取している者もいる。


 セネガも毎回参加して、サラの代わりに講師をやってくれたりしているから、そろそろサラが手を離しても大丈夫かもしれない。

 ハンターギルドの講習のほうも、基礎講座は終わったのだが、クンツの盾を本格的に学びたいベテラン勢が多くなり、アレンもネリーのほうも対戦相手には事欠かないという感じだ。

 サラが薬草講習をやっている午後には、ダンジョンに入って、狩りをしているという。


「講習もそろそろ終わりかな」

「うちとしても、薬草を採取する人がこれだけ増えれば、ずいぶん安心です。何より、上薬草や魔力草の採取が増えたのが嬉しいです」


 セネガも満足そうだ。薬師ギルドの一員としての自覚がしっかりあるのが頼もしい。サラよりちょっと下のノエルの世代も、人材が豊富なようでよかったと思う。


「私が講師をしなくても、セネガがやれると思うと、安心して魔の山に行けそう」

「え、魔の山? 行くんですか?」

「うん。そのためにローザに来たんだし」


 魔の山? なぜ? とはてなが頭に飛んでいるセネガは置いておいて、サラはいつ魔の山に出かけようかと頭を悩ませる。


「クンツの手伝いも、もういらなそうだし、ネリーを誘って、そろそろ行っちゃおうかな」


 アレンとクンツも来てくれればそれに越したことはないが、彼らは彼らでやることがある。


「相談しよう」


 そうしよう。今日の夕食の時に、皆に相談してみようと決めた。


「サラ! サラ!」

「ん?」


 西の門のところから、すごい勢いでアレンが走ってきた。


「特級ポーション! 予備! 怪我!」

「なになに?」


 思わず口にしたものの、特級ポーションの必要な事態だということだけはすぐにわかった。


「おぶされ! 町中は人が邪魔だ」


 サラの前で止まったアレンは、いきなり背中を向けてしゃがみこんだ。


「アレン、セネガをお願い! 私も走るから!」


 ローザという薬師ギルドのある場所で、サラでさえ必要とされるのなら、セネガはもっと必要とされるはずだ。戸惑うセネガをアレンの背中に無理やり乗せる。


「しっかりつかまれ!」

「いったいなにが! うわあ!」


 アレンが町の外壁に沿って、風のように走り始めたから、サラも必死に付いていく。

 サラも、自分は身体強化は得意な方だと思っている。少なくとも、今なら魔の山の管理小屋まで、一泊するだけで行けるはずだ。

 けれども、それは長距離を一定の速度で移動するやり方であって、短距離を急ぐやり方ではない。

 本当の身体強化型のタイプには全然かなわないんだなと気が遠くなりそうな速さに、付いていくのが精一杯だ。ダンジョンから戻る人もまだ少ない時間帯で、歩いている人は少ないが、それでもその人たちをよけながら、しかも背中に少年を背負って走っていくアレンは本当に風のようだ。


 そうしてあっという間にハンターギルドにたどり着くと、アレンの背中からへなへなと床に崩れ落ちたセネガと共に、肩を揺らして大きく息をする。

 揺れをできるだけ抑えてくれたとはいえ、全速力で走る人の背で移動するというのはなかなかにきついものだろうし、サラはと言えばほぼ全力疾走である。


 だが、へなっている場合ではないということはすぐにわかった。

 サラの脳裏に、騎士隊が魔の山から戻ってきた時のことが浮かぶ。

 ギルドの床には、たくさんのハンターたちが横たわり、あちこちからうめき声が聞こえてくる。

 その間を、薬師が慌ただしく行きかう。

 目を左右にさまよわせても、クリスもルロイも見当たらない状況だ。


「いったいなにが?」


 息を整えようとしているサラに、薬師の手伝いに回っていたミーナが気がついてくれた。


「サラ! 来てくれたのね!」

「状況を教えてください!」

「強い魔物のいないはずのダンジョンの上層部で、コカトリスの大きな群れにハンターたちが行き当たってしまって、救援に向かったハンターたちも次々と巻き込まれて。怪我もそうだけど、コカトリスの毒にやられているのよ」

「コカトリスの毒」


 ネリーがコカトリスの料理が好きなので、よく聞く名前だが、強さはガーゴイルや高山オオカミに匹敵する恐ろしい魔物なのだ。

 魔物はたいてい一発で倒すネリーからもアレンからも、毒の話は聞いたことはないが、鋭い歯のあるくちばしに毒があるということは知っている。ただし、通常の解毒薬で効き目は十分のはずだ。

 サラの問いかけに、ミーナは首を横に振る。


「足りないのよ。こんなにいっぺんに解毒薬が必要になったことがなくて、薬師ギルドと合わせても足りないの」


 確かに、サラも解毒薬の調薬はめったにしない。需要があまりないからだ。

 サラは、ざっとフロアの全体を見渡した。

 薬師たちはそれぞれに投薬をしているが、軽症のハンターが治療されている向こうで、怪我の重いハンターが放置されていたりする。そして、誰から手を付けていいのかという迷いが見られた。

 サラが一二歳の頃、騎士たちが魔の山から怪我をして戻ってきた時のことを思い出す。

 あの時、ローザの薬師たちは、テッドを含め、迷いなくやるべきことをやっていて尊敬したものだ。だが、薬師として経験を積んだ今のサラから見ると、現状は非効率で多くの怪我人が放置されている状況だ。


 どうやら指示を出す人がいなくて、手当たり次第に治療をしているらしい。

 サラは空いた場所に、長テーブルをポンと出した。

 その上に、持っているポーション類で必要そうなものをどんどん出していく、


「ハイポーション、ポーション、解毒薬、解麻痺薬も一応出すとして」


 ただし、サラが保管しているのはそれぞれ一〇本ずつである。

 収納ポーチを使えばたくさん入るのはわかっているのだが、いっぺんにそれだけ必要とする事態になることはありえないだろうと思っていた。


「ありえちゃったわけだけどね」


 サラは、その隣に自分の薬草籠も並べる。

 ポーションの現物と共に、同じ数を調薬できるだけの薬草類も持っているのだ。

 サラは緊張しながらも、パンパンと手を叩き、皆の注目を集めた。


 後ろに引っ込んでいたいサラは、胃がキリキリする気持ちだが、こういうときこそ、クリスに学んだことを実践するべきだろう。

 もしここにいるのがクリスなら、ノエルなら、カレンなら。

 自信を持ってやるべきことをやるだろう。サラは大きく息を吸い込むと、落ち着いた声を出すよう努めた。


「動ける怪我人をまず移動させましょう。毒のあるなしにかかわらず、自分で歩ける人は食堂へ移動してください。セネガ、毒以外は治療してあげて」


 講習会を開いて顔が知られているせいか、新参者がと文句を言う人は、薬師にもハンターにもいなかった。セネガは文句も言わず、ポーションの瓶を手に取って食堂へ急いだ。

 ふらついてでも自分で歩けるハンターには職員が手を貸して移動させる。

 この人たちは、かわいそうだが治療は後回しだ。


「すみませんが怪我の重い人の治療を優先します。それから、手持ちに、ポーション、解毒薬などある方は、代金は後でお支払いしますので、この長テーブルにご提供お願いします」


 サラは、ローザの薬師たちを見渡して、年かさの人に声を掛けた。


「一緒に、怪我の重さを判断していきましょう」

「お願いします!」


 なによりも苦しいのは、自分で判断をすることだ。

 倒れて苦しそうなのは一〇人ほどだ。その中の、怪我の重そうな人からざっと見てまずは判断を下し、その後丁寧に見て治療するのは、ベテランの薬師に任せていく。


「腹部の怪我、ハイポーションと解毒薬を同時に!」

「はい!」


 サラは、独断にならないよう、ベテランの薬師と相談しながら、次々と指示を出していった。

 最後に残った三人は、さっと見て怪我がないと判断した人たちだが、全員ぐったりして意識がない。よく見ると、服には血が付いている。


「怪我は治っているけれど、意識なし。この人たちは?」


 一緒に判断していた薬師は、首を左右に振った。


「怪我が一番重かったので、既に治療済みの人たちです」


 治療しても目を覚まさないということは、内部の損傷の可能性が高い。


「ポーションを飲ませましたか?」

「はい、なんとか口を開かせて。ですが意識は戻らず、こんな感じです」


 ガーゴイルが落ちて来てアレンが怪我をした時のことが脳裏によぎる。

 あの時のアレンが、まさにこんな様子だった。

 サラは深く息をする。


「特級ポーションを使うことを勧めます」


 サラの声に、ざわついていたハンターギルドから音が消えていく。


「今までの治療で回復していたら、もっと呼吸が深く、ゆったりとしているはずです。呼吸が弱く、顔色も悪い。内部の損傷が治っていない可能性が高く、このままでは……」

「嘘だろ!」


 食堂に移動していた怪我人が、ふらふらと寄ってこようとして止められている。


「ですが、特級ポーションは薬師ギルドにも一本しかありませんし、取りに行くような余裕はありません」

「ハンターギルドにも一本あるぜ」


 この声は、治療の邪魔にならないように、ダンジョンから戻ってくるハンターを静かに仕切っていたヴィンスのものである。


「私も持っています」


 サラは、長テーブルに移動して、ポーチから特級ポーションの瓶をポンと置いた。

 ミーナが受付の奥から一本、特級ポーションを出していて隣に並べる。


「俺もある」


 アレンが自分のポーチから、特級ポーションを取り出して置いた。

 そうしている間にも、ひどい怪我をしていたハンターたちは、薬師の手によって次々と回復していく。


「特級ポーションは、劇薬です。最悪の場合、投与したことで死に至ることもあります。それでも私は、飲ませることを勧めます」

「む、無理です。飲ませたら死に至るかもしれないのに、薬師にそんなことができるわけがない!」


 サラと共に、投薬の判断をした薬師が叫ぶ。

 これが、特級ポーションの難しさだ。

 特級ポーションを与えなくても、おそらく数時間以内に、このハンターたちの命は失われてしまうだろう。だが、それは薬師が手を下したからではない。怪我が重かったからだという言い訳が立つ。

 だが、ここで特級ポーションを与えてすぐに、亡くなってしまったら?

 それは、与えた薬師の責任ということになる。


 このような場合、薬師が罪に問われることはないが、自分のせいだという罪悪感は、いつまでも薬師を苦しめるだろう。

 サラの声は震えていたと思う。


「そうですか。では私が飲ませます。アレン」

「ああ」


 アレンはテーブルの上の特級ポーションを三つとも取ると、サラに手渡してくれた。

 人の命がかかっている時に、迷っている時間はない。


「待ってくれ! サラ! 私が飲ませる!」

「私もです。今、すぐに」


 その声はテッドであり、テッドに肩を借りているルロイであった。

 いつの間に来ていたのかと思ったが、息が切れているから、本当に今なのだろう。


「話は後だ。サラ、特級ポーションを」


 サラは素直にテッドとルロイに特級ポーションを手渡した。


「私にも、ください」


 それは先ほどできるわけがないと言った薬師だったが、その目には確かな決意が宿っていた。

 サラは黙って特級ポーションを手渡すと、長テーブルに向かう。

 薬師たちも、そしてハンターギルドの関心も、特級ポーションを使われるハンターたちに向いている中、調薬セットを取り出すと、おもむろに解毒薬を作り始めた。


「手伝うこと、あるかい?」

「毒になっている人、あと何人か確認してきてくれる?」


 アレンに確認を頼む。


 今回のことで、ポーションが一〇本ずつでは足りないこともあるということがわかった。ポーションやハイポーションは、持っている人も多いので、他の人からの提供も期待できるが、解毒薬や解麻痺薬はお守り程度にしか持っていない人が多そうだ。


 思い返すと、カメリアでいきなり出くわしたのが、解毒薬が足りないという問題だった。

 その経験があったのに、準備不足だったのは、あの時サラはまだ薬師を志してはいなかったため、自分ごととしてとらえることができていなかったからだろう。

 だが、頭の中で言い訳をしていても、足りないものは足りない。いざ必要となると、今回のように大量に必要になることを自覚するべきだろう。


「そういえば、解麻痺薬もそうだった。解毒薬と解麻痺薬は、薬師としてはもっとたくさん持っていた方がいいよね」


 背後で、安堵のため息が聞こえ、サラもほっとする。

 ゴリゴリと乳鉢ですりつぶし、薬液を作り、魔力を注ぐ。

 その合間に、背後からは聞こえてくるのは安堵だけではなかった。


「なんてことだ……」


 絶望の声とすすり泣き。

 丸まっていくサラの背中を守るように、アレンが後ろに立つ。

 サラだって特級ポーションを使ったのは一度きりだ。

 しかも、天秤は生のほうに傾いてくれた。

 だから、特級ポーションを使って、人が亡くなった経験はない。

 そんな苦しみを、別の薬師に押し付けることになったのではないか。

 サラの胸を、じくじくとした思いが侵食していく。


「できた」


 サラは解毒薬を瓶に入れる手間を惜しんで、鍋ごと食堂に運ぶ。

 ハンターが一人亡くなって、意気消沈しているハンターの前に、鍋を持っていき、職員にカップを用意してもらった。


「解毒薬です。一人ずつ順番に」


 サラは努めて顔色を変えずに、ひとりひとり症状を確かめつつ、解毒薬をカップに注いで飲ませていく。

 セネガがポーションは飲ませ済みなので、解毒薬で完全に回復したハンターたちは苦しさから解放されてほっとした様子だった。


「なあ、あんた」


 声を掛けられて、サラはびくっとしてしまった。

 なぜあんたが特級ポーションを使わなかったのか。持っていて、それを使うべきと言ったのはあんた自身だろう。

 そんなふうに責められる気がしたからだ。

 だが、違った。


「薬師も大変な仕事なんだな。助けてくれて、ありがとう」

「……いいえ。ポーションのきく怪我で、本当によかったです」


 薬師になってよかったと思うのは、こうして感謝された時だ。

 初めてありがとうと言ってもらった、ストックの町を思い出す。

 薬師として信じる道を進んでいくしかない。


「大丈夫か!」


 息を切らせて駆け込んできたのは、ネリーとクリスだった。

 クリスの存在だけで、重い責任も、薬師としての悩みも、ふっと消えてしまうのはなぜだろう。

 誰からも感謝されつつ、怒涛の一日がやっと終わり、その日は泥のように眠ったサラである。



「まず一歩」10巻、11月25日発売です。

活動報告に書影と近況をアップしました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
何だかんだと最近ほのぼの楽しんでいたので久々に涙腺持ってかれました!サラ頑張った!!
脳内出血とか神経中枢内の出血とか血の塊があれば、特級ポーションで急速に怪我が治る事で患部が圧迫されて、更なる損傷発生も考えられるからな。 もっともそこで併用して上級ポーション使ったらどうなるとか、内部…
まだや、まだマウス痛マウスと心臓マッサージがある あと魚捕りの要領で心臓に電撃をビリビリっとな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ