昔の自分のような
「転生少女はまず一歩からはじめたい」10巻は11月25日発売です!
サラはハンターギルドを出ると、町の中は通らず、すぐに門を出て右手の屋台街のほうへと向かう。そのまま進めば町の西側に出る。
「前と物価は変わらないみたい。むしろ少し安くなってる物もある。あ、甘いパン」
サラはグーっとなったお腹を手で押さえた。
ちょうどおやつの時間だ。
最初にアレンと食べた甘いパンを買って道端で食べると、そのまま西の方へ向かう。
「前に薬草を採りに来たことがあるけど、その時は本当に誰もいなかったのに」
テントを盗まれないように収納ポーチにしまう人も多いが、場所取りをするためにわざわざ残している人もいる。
「以前の東側みたいになってる。あ、薬草を採っている人がいるけど、町の人というより、若いハンターかも。ううん、もっと小さいかな」
そう、まるで出会った頃のサラとアレンのようだ。
あの時、サラもアレンもよくここで薬草を採取したけれど、あの時と比べると少し違和感がある。
サラは思い思いに薬草採取している子どもたちを中心に、じっくりとあたりを観察してみた。サラの気配に反応したのか、少し離れたところにツノウサギが現れ、町の結界にぶつかって跳ね返されているのが見えた。そこでやっと違和感の正体に気づいた。
「そうか、町の結界が広くなってるんだ。でも、そんなことってある? ああ、タイリクリクガメがきっかけか」
あの時もサラはローザに来ていたはずだが、町の西側までは見に来た覚えはない。
「町の人を避難させる場所を広げるために、結界を外側にずらしたのかな。どこまで続いているんだろう」
サラは結界に沿っててくてくと北に向かう。一〇分ほど歩くと、結界にぶつかって跳ね返されるツノウサギが急に近くなった。
「ここから前と同じ狭さになってる。結構な範囲、広げたんだな」
狭くなっているところで踵を返し、またてくてくと歩いて戻る。今度は地面を観察しながら進むと、相変わらず魔力草が生えているのが見えた。思わず手を伸ばし、そのまま採取に夢中になっていると、いきなり目の前に人が現れた。
「わあ!」
「わあ!」
サラが驚いて声を上げたせいか、相手も声を上げた。
さっき薬草を採取していた子どもたちのうちの誰かだろう。一二歳くらいの女の子と男の子がいた。サラとアレンもこんな感じだったのだろうかと、思わず目を細めた。
「ごめんね、下を向いていて気がつかなかったよ」
大人なんだから、サラのほうが気をつけるべきだったと反省する。
「ううん、違うの。聞きたいことがあって、近くに寄ってたのは私なの。お姉さん、その手に持ってるの、薬草とちょっと違うよね」
「ああ、これ?」
サラは話しかけてきた女の子の手にある薬草の隣に、サラが持っていた魔力草を並べてみせた。
「私たち、薬草を採ってるんだけど、どうしてお姉さんは薬草じゃない草を採っているの?」
「これも薬草の一つなんだけど、魔力草って知ってる?」
「知らない。知ってるのは、薬草だけ。薬師ギルドが講習会を開いてくれたの。これだけ覚えてくれればいいからって」
その言葉にサラはおおっと感心した。
素人がいきなり何種類も薬草を見分けるのは難しい。一種類に絞って、確実に採取させるのは、薬師ギルドにとっても採取する人にとっても効率がいい。
テッドが始めたはずだが、薬師でもハンターでもない素人が気軽にやるアルバイトとしては、とても始めやすいと感じる。
「教えてもらってとても助かったの。私たち、三層の子だし、そっちの子は、三層ですらないから、お手伝いの仕事もあまりなくて」
代表して話している女の子が、自分たちのことを三層の子と呼ぶのは胸が痛い。
そういうところは、変わっていないんだなと思う。
三層の子は、それでも町の中に住めるからこぎれいな格好をしている。
三層ですらないと言われた子どもは男の子で、少し薄汚れてはいるが、荒んだ感じはない。
「家計の足しになってるって母さんは喜んでくれるし」
「俺は父ちゃんと一緒にテント暮らしなんだ」
少年が振り向いた先にはテント村があった。
「ハンター証がほしいから、一二歳になるまでにはと思って、自分で金を貯めてるとこなんだ。それに、父ちゃんが怪我をした時に使うポーションの材料を、俺が採取したんだぞって言えるのが嬉しくてさ」
ローザにいた当時を思い出して、懐かしさでほんのりと胸が痛む。
「でも、薬草に別の種類があるなら、私はそれが知りたいの。薬師ギルドに納めるときにちょっと聞いてみたんだけど、薬草さえ納めてくれればいいからって、教えてくれなかったの。めんどくさそうな顔をして」
「そうだったな。あんなに暇そうにしてるんなら、教えてくれたっていいのにな」
サラは受付にいた頃のテッドを思い出して、噴き出しそうになった。
暇そうにしていたくせに意地悪だけはするのだ。よく考えたら暇だったからかもしれないが、迷惑極まりない。それがローザの受付の伝統でないことを祈るばかりである。
お金をごまかされたりしなかったよねと、思わず聞いたけれどそれは大丈夫だった。
「そうだね。ちょっとこれを見てみようか」
サラが収納ポーチから取り出したのは薬草一覧である。
主な薬草が書いてあるだけだから、ページ数はすごく少ないのだが、彩色してあるせいなのか、ギルドで買うと結構な値段がすると知って驚いたものだ。それをポンと渡してくれたネリーには感謝しかない
。
「こういうのがあるの?」
「これはギルドの売店で売ってるけど、ちょっとお高いから買うのは難しいかも」
少女と少年は熱心に薬草一覧を眺めた。
「これが、こう。そして私の持ってるのが、こう」
少女は、一覧の図と手に持っている薬草と魔力草を比較し、しっかりと覚えようとしている。
「ちょっと葉っぱをちぎってみて。薬草はわかってると思うから、こっちの魔力草のほう」
サラは自分の取った魔力草の一番下を指さした。
「ちぎって、匂いを嗅いでみて」
「うん。うわあ」
それぞれがちぎった草に花を寄せて、ちょっと驚いた顔をしているのがおかしい。
「少し変な匂いがするでしょ? これも特徴なんだよ」
「私、この匂い、記憶にある!」
何かを思い出した少女は、町の壁のほうに近づくと、しゃがみこんで何かを探し始めた。
「あった!」
魔力草は、岩場や水分の少ないところに育つ。
町の外壁のそばの地面は整備されているから、実は乾燥しがちで、魔力草がよく生えていたりする。サラは感心して少女を姿を目で追った。
「お姉さん、これ、同じじゃない?」
「うん、これは魔力草。高く売れるよ」
「やった!」
「すげえな!」
飛び上がって喜ぶ子どもたちを見て、サラは、少女のほうは薬師になる素質があるなと思う。
もちろん、ちゃんと採取を続けている少年もえらいとは思うが彼はハンター志望だ。
「新しい草を覚えた! お姉さん、今度会うまでに、魔力草を完璧に覚えておくから、そしたら別の薬草も教えてくれない?」
サラは思わず笑みがこぼれた。
「いいよ」
「そしたら、これ」
少女は持っていたかごから、ハンカチに包まれた何かを取り出した。
「おやつのクッキー。お母さんが作って、門のそばの屋台で売ってるの。このくらいしかないけど、お礼です」
「わあ、ありがとう」
サラはありがたく受け取って収納ポーチにしまった。
その収納ポーチをキラキラした憧れの目で見ながら、少年も約束してくれた。
「俺は今なにも持ってないけど、町で会ったら、何か手伝いをさせてくれよ」
「助かるよ。なにかお願い考えとくね」
魔力草について、少年に教えたつもりはなかったし、少年が理解できたかもわからないけれど、二人とも、ちゃんとお礼をしようとしてくれたことが嬉しかった。
「じゃあ、私はこれをあげる。はい」
サラは王都で買ってあったヒツジ飴の入った紙袋を、一つずつ手渡した。
「いいの?」
「いいのか?」
いいんだよとにっこり笑って、サラは手を振って二人と別れた。
王都のなりたてハンターにも薬草の採り方を教えたなあと思い出しながら歩く帰り道は、なんだか胸がほっこり温かかった。
MFブックス12周年記念で、サラのグッズも販売されています。ミニキャラのアクキーなどいろいろあって楽しいので、MFブックスさんのサイトに行ってみてくれると嬉しいです。
また、まず一歩のコミックス7巻が10月14日に、
転生幼女の書籍11巻が10月15日に発売です!




