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転生少女はまず一歩からはじめたい~魔物がいるとか聞いてない!~  作者: カヤ
さあ、帰ろう

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288/302

昔の自分のような

「転生少女はまず一歩からはじめたい」10巻は11月25日発売です!

 サラはハンターギルドを出ると、町の中は通らず、すぐに門を出て右手の屋台街のほうへと向かう。そのまま進めば町の西側に出る。


「前と物価は変わらないみたい。むしろ少し安くなってる物もある。あ、甘いパン」


 サラはグーっとなったお腹を手で押さえた。

 ちょうどおやつの時間だ。

 最初にアレンと食べた甘いパンを買って道端で食べると、そのまま西の方へ向かう。


「前に薬草を採りに来たことがあるけど、その時は本当に誰もいなかったのに」


 テントを盗まれないように収納ポーチにしまう人も多いが、場所取りをするためにわざわざ残している人もいる。


「以前の東側みたいになってる。あ、薬草を採っている人がいるけど、町の人というより、若いハンターかも。ううん、もっと小さいかな」


 そう、まるで出会った頃のサラとアレンのようだ。

 あの時、サラもアレンもよくここで薬草を採取したけれど、あの時と比べると少し違和感がある。

 サラは思い思いに薬草採取している子どもたちを中心に、じっくりとあたりを観察してみた。サラの気配に反応したのか、少し離れたところにツノウサギが現れ、町の結界にぶつかって跳ね返されているのが見えた。そこでやっと違和感の正体に気づいた。


「そうか、町の結界が広くなってるんだ。でも、そんなことってある? ああ、タイリクリクガメがきっかけか」


 あの時もサラはローザに来ていたはずだが、町の西側までは見に来た覚えはない。


「町の人を避難させる場所を広げるために、結界を外側にずらしたのかな。どこまで続いているんだろう」


 サラは結界に沿っててくてくと北に向かう。一〇分ほど歩くと、結界にぶつかって跳ね返されるツノウサギが急に近くなった。


「ここから前と同じ狭さになってる。結構な範囲、広げたんだな」


 狭くなっているところで踵を返し、またてくてくと歩いて戻る。今度は地面を観察しながら進むと、相変わらず魔力草が生えているのが見えた。思わず手を伸ばし、そのまま採取に夢中になっていると、いきなり目の前に人が現れた。


「わあ!」

「わあ!」


 サラが驚いて声を上げたせいか、相手も声を上げた。

 さっき薬草を採取していた子どもたちのうちの誰かだろう。一二歳くらいの女の子と男の子がいた。サラとアレンもこんな感じだったのだろうかと、思わず目を細めた。


「ごめんね、下を向いていて気がつかなかったよ」


 大人なんだから、サラのほうが気をつけるべきだったと反省する。


「ううん、違うの。聞きたいことがあって、近くに寄ってたのは私なの。お姉さん、その手に持ってるの、薬草とちょっと違うよね」

「ああ、これ?」


 サラは話しかけてきた女の子の手にある薬草の隣に、サラが持っていた魔力草を並べてみせた。


「私たち、薬草を採ってるんだけど、どうしてお姉さんは薬草じゃない草を採っているの?」

「これも薬草の一つなんだけど、魔力草って知ってる?」

「知らない。知ってるのは、薬草だけ。薬師ギルドが講習会を開いてくれたの。これだけ覚えてくれればいいからって」


 その言葉にサラはおおっと感心した。

 素人がいきなり何種類も薬草を見分けるのは難しい。一種類に絞って、確実に採取させるのは、薬師ギルドにとっても採取する人にとっても効率がいい。

 テッドが始めたはずだが、薬師でもハンターでもない素人が気軽にやるアルバイトとしては、とても始めやすいと感じる。


「教えてもらってとても助かったの。私たち、三層の子だし、そっちの子は、三層ですらないから、お手伝いの仕事もあまりなくて」


 代表して話している女の子が、自分たちのことを三層の子と呼ぶのは胸が痛い。

 そういうところは、変わっていないんだなと思う。

 三層の子は、それでも町の中に住めるからこぎれいな格好をしている。

 三層ですらないと言われた子どもは男の子で、少し薄汚れてはいるが、荒んだ感じはない。


「家計の足しになってるって母さんは喜んでくれるし」

「俺は父ちゃんと一緒にテント暮らしなんだ」


 少年が振り向いた先にはテント村があった。


「ハンター証がほしいから、一二歳になるまでにはと思って、自分で金を貯めてるとこなんだ。それに、父ちゃんが怪我をした時に使うポーションの材料を、俺が採取したんだぞって言えるのが嬉しくてさ」


 ローザにいた当時を思い出して、懐かしさでほんのりと胸が痛む。


「でも、薬草に別の種類があるなら、私はそれが知りたいの。薬師ギルドに納めるときにちょっと聞いてみたんだけど、薬草さえ納めてくれればいいからって、教えてくれなかったの。めんどくさそうな顔をして」

「そうだったな。あんなに暇そうにしてるんなら、教えてくれたっていいのにな」


 サラは受付にいた頃のテッドを思い出して、噴き出しそうになった。

 暇そうにしていたくせに意地悪だけはするのだ。よく考えたら暇だったからかもしれないが、迷惑極まりない。それがローザの受付の伝統でないことを祈るばかりである。

 お金をごまかされたりしなかったよねと、思わず聞いたけれどそれは大丈夫だった。


「そうだね。ちょっとこれを見てみようか」


 サラが収納ポーチから取り出したのは薬草一覧である。

 主な薬草が書いてあるだけだから、ページ数はすごく少ないのだが、彩色してあるせいなのか、ギルドで買うと結構な値段がすると知って驚いたものだ。それをポンと渡してくれたネリーには感謝しかない

「こういうのがあるの?」

「これはギルドの売店で売ってるけど、ちょっとお高いから買うのは難しいかも」


 少女と少年は熱心に薬草一覧を眺めた。


「これが、こう。そして私の持ってるのが、こう」


 少女は、一覧の図と手に持っている薬草と魔力草を比較し、しっかりと覚えようとしている。


「ちょっと葉っぱをちぎってみて。薬草はわかってると思うから、こっちの魔力草のほう」


 サラは自分の取った魔力草の一番下を指さした。


「ちぎって、匂いを嗅いでみて」

「うん。うわあ」


 それぞれがちぎった草に花を寄せて、ちょっと驚いた顔をしているのがおかしい。


「少し変な匂いがするでしょ? これも特徴なんだよ」

「私、この匂い、記憶にある!」


 何かを思い出した少女は、町の壁のほうに近づくと、しゃがみこんで何かを探し始めた。


「あった!」


 魔力草は、岩場や水分の少ないところに育つ。

 町の外壁のそばの地面は整備されているから、実は乾燥しがちで、魔力草がよく生えていたりする。サラは感心して少女を姿を目で追った。


「お姉さん、これ、同じじゃない?」

「うん、これは魔力草。高く売れるよ」

「やった!」

「すげえな!」


 飛び上がって喜ぶ子どもたちを見て、サラは、少女のほうは薬師になる素質があるなと思う。

 もちろん、ちゃんと採取を続けている少年もえらいとは思うが彼はハンター志望だ。


「新しい草を覚えた! お姉さん、今度会うまでに、魔力草を完璧に覚えておくから、そしたら別の薬草も教えてくれない?」


 サラは思わず笑みがこぼれた。


「いいよ」

「そしたら、これ」


 少女は持っていたかごから、ハンカチに包まれた何かを取り出した。


「おやつのクッキー。お母さんが作って、門のそばの屋台で売ってるの。このくらいしかないけど、お礼です」

「わあ、ありがとう」


 サラはありがたく受け取って収納ポーチにしまった。

 その収納ポーチをキラキラした憧れの目で見ながら、少年も約束してくれた。


「俺は今なにも持ってないけど、町で会ったら、何か手伝いをさせてくれよ」

「助かるよ。なにかお願い考えとくね」


 魔力草について、少年に教えたつもりはなかったし、少年が理解できたかもわからないけれど、二人とも、ちゃんとお礼をしようとしてくれたことが嬉しかった。


「じゃあ、私はこれをあげる。はい」


 サラは王都で買ってあったヒツジ飴の入った紙袋を、一つずつ手渡した。


「いいの?」

「いいのか?」


 いいんだよとにっこり笑って、サラは手を振って二人と別れた。

 王都のなりたてハンターにも薬草の採り方を教えたなあと思い出しながら歩く帰り道は、なんだか胸がほっこり温かかった。


MFブックス12周年記念で、サラのグッズも販売されています。ミニキャラのアクキーなどいろいろあって楽しいので、MFブックスさんのサイトに行ってみてくれると嬉しいです。


また、まず一歩のコミックス7巻が10月14日に、

転生幼女の書籍11巻が10月15日に発売です!

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― 新着の感想 ―
魔力草はあんまり需要ないかもしれないけど教えたっていいのにね…薬草一覧のポスターをギルドに貼り出しておくとかさ…
サラがお姉さんですねえ!
相変わらずの薬師ギルド 残念ながら伝統だね 薬草以外はハンターギルドで扱った方がいいかも 調合できる人まで育ててさ
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