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転生少女はまず一歩からはじめたい~魔物がいるとか聞いてない!~  作者: カヤ
さあ、帰ろう

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大人じゃねえか

 サラとネリーはテントで休んだが、他の人たちはそのまま休んだようだ。


 テントから顔を出すと、クリスとアレンとクンツだけが起きていて、他の人はまだ眠っていた。ヴィンスも含めて、昨日はただただ疲れたのだろう。


 高山オオカミも目に見えるところで寝ていたが、さっさと狩りにでも出かけたらいいのにと思う。料理をしていないから、投げてやる余り物などもないし。


 朝からワイバーンも飛んでいるが、人数が多いせいか襲ってはこないようだ。


「怪我人はどうですか?」


 サラは物音を立てないようにクリスのほうに移動した。


「呼吸は穏やかだし、顔色もいい。賭けに勝ったな」

「本当によかったです」


 サラに手だけ挙げて挨拶をしたアレンとクンツは、そっと結界を出て行ったから、朝からひと狩りしてくるつもりなのだろう。


「おはよう」


 寝ぼけ眼で体を起こし、大あくびをしているのはヴィンスだ。


「アレンとクンツはもう出かけたのか。サラは起きてやがるし、若いってのはほんとに……」


 若さと勤勉さに文句を付けられても困るのだが、なんだかヴィンスらしくてサラはくすくすと笑ってしまった。


「にしても、たった数年しかたっていないって言うのに、サラはすっかり一人前の薬師になっちまったな」

「はい。あちこちでいろいろな経験を積んできました」


 一人前の薬師と言われても、遠慮しないだけの実績は積んできたつもりである。


「あんなに小さくて頼りなかったサラがなあ。まさか薬師になるとは思ってもみなかったよ。近くにいれば成長も見られたんだろうが、いきなり成長した姿を見せられても戸惑っちまうな。ミーナにも教えてやらんと」


 少しばかり声が涙ぐんでいるような気がするが、親戚の叔父さんみたいな気持ちなのだろうか。サラは嬉しくて、でも照れくさいので、あえてヴィンスのほうは見ないようにする。


「さあ、朝ご飯の支度でもしましょうか」

「昨日は出し忘れたが、ミーナからギルドの弁当を預かってきたから、無理しなくていいぞ。こいつらの飯を用意してやる義理なんてこれっぽっちもないんだからな」


 ヴィンスが寝こけている薬師やハンターのほうを顎でしゃくって見せる。


「じゃあ、お湯だけでも沸かしておきましょうか」

「あー、気が利くなあ。ギルドに一人ほしいもの、それはサラだな。ローザのハンターギルドはいつでも受付を募集してるぜ」

「じゃあ、職にあぶれたらお願いします」

「待てよ。サラを雇ったら自動的にアレンやクンツが付いてきて、ネリーやクリスも訪ねてくる。本格的に引き抜くべきでは? いや、トラブルも付いてくるか?」


 ぶつぶつ失礼なことを言い始めたヴィンスは放っておくとして、サラはお湯を沸かしながらのんびりと周りを眺めるのだった。

 あれほど懐かしかった魔の山だが、ここは管理小屋ではない。だが、ネリーとよく遠出の訓練としてキャンプに来ていた場所でもある。


「あ、またワイバーン。さすが魔の山。ワイバーンが多いなあ。ん?」


 くつろいでいた高山オオカミがぐっと顔を起こしたのが見えた。

 ケッケッと高く響く声が、かすかに記憶を刺激する。


「聞いたことはあるような気がする。ええと、鳥の声。ちょっと雉に似てる気がするんだけど」


ちなみにあまり外で活動したことのないサラだが、雉の声は近所の河原で何度も聞いたことがあって、一緒に散歩していた両親から教わったことがあるから、覚えているのだ。

もっとも、姿を見たことは一度もない。


 高山オオカミが視線を動かす先に、白い影が見えた。


「え、なんだろう。こんなところに白い魔物っていたっけ」


 一瞬だけ見えた影は、羽のように見えたが、ずいぶん高い位置にあった。


「高山オオカミより大きい? どこかで見覚えがあるんだけど」


 サラはこめかみにこぶしを当てて思い出そうとする。

 そのサラの視線を追って、クリスがこれはという顔をした。


「ほう。コカトリスか。魔の山とは言え、こんなところにいるなんて珍しい。そもそも森林地帯にいる魔物ではないのに」


 そう言われればと、サラはネリーと卵を獲りに行ったことを思い出した。

 サラがドジってコカトリスに気づかれ、たくさんのコカトリスに追いかけられたのはいい思い出とも言える。


「おいおい。コカトリスだって? 見間違いだろ」


 確かにサラはハンターではないから、見間違いと言われれば自信はない。


「見間違いではないな。コカトリスはネリーの好物だぞ。私がどれだけネフとコカトリス狩りに行っていると思うんだ?」

「クリスとネリーは、今パーティを組んでダンジョンに行ってるんですよ」


 あんぐりと口を開けるヴィンスにサラが説明してあげた。

 サラたちが体験してきた四年間を 、ヴィンスは知らなくて当然なのだ。


「サラが薬師として一人前になってるだけでも驚きなのに、なんで薬師のクリスがハンターのまねごとをしてるんだ。聞かなきゃならないことがありすぎてどこから突っ込んだらいいか、あ!」


 ヴィンスの目が森の一点に止まった。


「一、二、三。四、はいないか?」


 しばらく無言で観察を続けていたヴィンスは、しばらくして大きく息を吐いた。


「すまん、クリス。コカトリス、いたわ」

「そうだろう?」

「見たところ、三頭だったが、なんでこんなところに。まあ、オオカミが動かなかったからこっちに出てくる危険はなさそうだが」


 危険と聞いて、サラははっと気がついた。


「アレンとクンツ! さっき森のほうに行った!」

「なんだって!」


 サラとヴィンスがおろおろしていると、ネリーがふわあとあくびをしながらテントから出てきた。


「アレンとクンツ? コカトリスくらい、平気だろ」

「おいおい、そんなに強くなったのか、あいつら」


 ヴィンスはもう驚くのも疲れたと言わんばかりだ。


「アレンはもう一九だぞ。クンツだって、そう、確か二十、えーっと、何歳かだ」


 アレンはサラと同じ年だから覚えているが、クンツはその限りではないというところがネリーらしいとおかしくなる。

 アレンが一九だというのはサラにとっては不思議でも何でもない。だが、ヴィンスは違ったようだ。


「嘘だろ。立派な大人じゃねえか」


 ヴィンスの目には、サラもアレンもまだあの頃のままに映っているのだろう。


「一頭くらい狩ってきてくれたらいいのだが」


 ネリーにはかけらも心配する様子がないので、サラの心配も落ち着いた。

 よく考えたら高山オオカミもワイバーンも平気な二人なのだ。コカトリスくらいなんということもないだろう。


「そういえば、魔物の分布図みたいなのはないの? 私が薬草分布を作っているみたいに」


 浅層、中層、深層という分け方はよく聞くが、その中でも特定の魔物はこの階のこの部分、というのは、ダンジョンではあまり聞いたことがないような気がする。


「私が魔の山にいた時は、魔物の生息域は割と決まっていたから、特に地図のようなものは作らず、バランスよく狩るようにしていたぞ。サラが来てからは、多少おいしい魔物に偏ったかもしれないが」

「そうだったんだ。ハイドレンジアでも、ギンリュウセンソウの生えている所はワイバーンがいないとか、そういうのはあったよね。それから最近ではガーゴイルがよくいるところとか」

「そうだな。コカトリスとガーゴイルのいるところは絶対に覚えているな、私は。うまいからな。だが、地図を作るほどでもなかったなあ」


 周りを見れば春の陽気に花が咲き、虫たちがぶんぶんと飛び回る。虫の大きさと高山オオカミさえ無視すれば、本当にのどかな光景である。


「そういえば、ブラッドリーはあまりいろいろな魔物を納めてこなかったな。ワイバーンと高山オオカミ、それにオオツノジカが多かった」


 ヴィンスが足元の小さな花を摘み、指の先でくるくると回している。おじさんと花の組み合わせもなかなかかっこいいと思うサラである。


「管理小屋からよく見かける魔物だね」


 何しろ転生初日に出会った魔物たちだ。しかもドアを開ければ目に入るので、なじみが深い。


「それらが一番目立つし、強い魔物だからな。率先して狩るのは間違いではない」


 ネリーも大きく頷いた。


「ハルトは面白がっていろいろ狩ってきたんだがなあ。そういえば、ブラッドリーとは会ったのか?ちょうど王都に戻っているはずだが」

「ああ。少し話せたよ。もう魔の山には戻らないつもりのようだが、いいのか?」


 朝食前にするには重い話だが、どうせしなければならない話だ。


「仕方ねえだろ。やっとネフェルタリを解放できたってのに、今度はブラッドリーに頼りきりでは、同じことの繰り返しになっちまう。管理人の条件をよくして、王都のギルドにも募集をかけようかって検討してるとこなんだが、これがなかなか。予算をどこから出すのかとかな」


 ここにいた一二歳の頃に聞いたならよくわからなかった話も、今ならわかる。


「とりあえず、来週から一か月ほど、地元の大きなパーティが管理小屋に入ってくれる予定なんだ。中堅どころの訓練を兼ねたいってことで、七、八人ほどだな。それだけ数がいれば、心配ないだろ。こいつらもそれまで待てばよかったんだが、知るわけもねえか」


 ヴィンスがそろそろと起き出してきた薬師とハンターを見てため息をついた。

 薬師ギルドとハンターギルドは、同じギルドと名がついていても、その活動にはお互いほとんどかかわりがない。せいぜい魔物が増えた時にポーション類の増産を頼むくらいなものである。


「いや、護衛の依頼をきちんと出してくれれば教えることもできた。やっぱり悪いのはこいつらだ」


 間違いではないがあまり良いことでもないとわかっているからこそ、薬師もハンターもギルドを通さずこそこそと活動していたのだ。


「さ、朝飯食ったら、担架を出さないとな。自分で歩けるようになるまで置いて行くってのは、なしか?」


 ヴィンスの現実的な言葉に薬師たちは顔を青くしたが、クリスは静かに首を横に振った。


「ルロイに関しては数日はベッドの生活だし、一ヶ月ほどは安静にさせたいから、連れて帰った方がいい。ここからなら管理小屋でもいいが、サラがいるからローザまで大丈夫だろう」

「サラが? なんのことだ? いずれにしろ、揺らさないほうがいいんだろ。身体強化は使わず慎重に行くから、帰りが遅くなるって、アレンかクンツを連絡に使わせてもらってもいいか?」

「二人ともはなからそのつもりだろうが、担架は必要ないし、帰りも遅くならないぞ?」


 クリスがサラを確認するように見た。

 サラは張り切った。バリア担架の出番である。


「下り坂も経験あるから、大丈夫ですよ」


 ガーディニアから王都に向かう山道で、おばあさんと荷物をバリアで運んだのはたった一年前のことだ。

 理解できないという顔をしているヴィンスに、サラは見せたほうが早いと判断した。


「ネリー、ちょっと寝転がってみてくれる?」

「おお、担架か? 実は一度運ばれてみたいと思っていたんだよな。クリスがうらやましくてさ」


 ネリーはいそいそと地面に仰向けに横たわった。

 サラはわかりやすくするために、両手を前で構えた。


「まずバリアをネリーの下に作ります。形は担架で、色は茶色」

「おっ。急に地面のでこぼこが消えて、平らになったような不思議な感覚だぞ?」


 ネリーはとても楽しそうだ。


「次に、持ち上げます」

「ハハハ! もっと上でもいいぞ!」


 急に持ち上げられたのが楽しいのか、ネリーがキャッキャとはしゃいでいるが、ヴィンスの口は驚きでぽかんと空いている。


「このまま私と一緒に移動できるんですよ」


 サラは担架の他にもう一つバリアで自分たちを囲んで、結界の外で走り回ってみせた。


「ガウッ」

「ガウッ」

「ハハハ! サラ、もっとだ!」


 高山オオカミたちは驚いて距離を取り、ネリーは楽しすぎて大笑いだ。

 サラもそうしてあげたいのはやまやまだが、そろそろ朝ごはんを食べたいところである。

 結界に戻ってくると、ネリーが不満げな顔をしていることに笑い出しそうになる。


「こんな感じで、バリアで怪我人を運んで戻れます。身体強化も大丈夫です」

「はああ、サラ。すげえな。ワタヒツジの群れに分け入り、騎士隊の攻撃を弾いたバリアが、ここまで進化しているとはな」

「いろいろあったんですよ、いろいろ」


 ヴィンスに答えて改めて、毎年何かしらの事件が起こり、それに巻き込まれているんだなあと実感する。


「後でそのいろいろを聞かせてくれよ。面白そうだからさ。だが今は、怪我人と薬師を早く町まで運ぶのが第一だ」


 サラはみんなで戻るつもりだったが、薬師の人たちがそんなに身体強化が得意ではないとわかり、二手に分かれることになった。

 怪我人のルロイをサラとクリスが、残りの全員を、魔の山に詳しくしかも強いネリーとヴィンスが連れて帰ることになる。


「それにしても、アレンとクンツはいったいどうした? もう朝飯は終わっちまったぞ?」


 そんな時のために、片手で食べられるパンも用意しているサラではあるが、そもそもアレンとクンツは団体行動のとれない人たちではない。ましてや、怪我人がいて早く戻らなくてはならないというのはわかっているはずである。


 サラも心配になって来て、アレンとクンツが向かったという森のほうを背のびして眺める。

 すると、ケッケッという、つい先ほど聞いたばかりの声が響いたかと思うと、その数がだんだんと増えてきているのが感じられた。


「これは、さっきの声?」

「コカトリスだ」


 クリスの言葉を繰り返す。


「そうだ、コカトリス」


 繰り返している間にも、ケッケッという声はどんどん近づいてきている。


ちょっと投稿遅れました

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― 新着の感想 ―
ネリーがキャッキャしてて微笑ましい… ヴィンスが完全に親戚の叔父さんだし、花摘んで弄んでるところを絵でみたいです…
コカトリスを飼って無限卵獲得だ
コッコトレイン?
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