準備万端!
活動報告に書影を出しています。
それから、『まず一歩』書籍9巻は、
3月24日月曜日の発売です。
よろしくお願いします!
「夕方、ギルドは結構な騒ぎになっていたぜ」
「警報が張り出されるなんて滅多にないことだからな」
一日ダンジョンに潜っていたハルトとアレンは、戻ってきてから情報を知ったようだ。
「まさか、峠道を荒らしたワタヒツジの群れが北上して大きな群れになって、そんで南に下りてきたってことかなあ」
ハルトの予想にサラも同意しかない。
「あの時は北上してほっとしたけど、結局面倒なことになっちゃったね」
ため息をつくだけのサラと違って、アレンはエルムと、ワタヒツジをどう狩るかについて話している。
「エルムはあちこち回っていた時、ワタヒツジの群れに遭遇したことはなかったのか?」
「あっても、避けるべきとしか思っていなかったからな」
「じゃあ、対処はどうしたらいい?」
ワタヒツジは、肉も食べられるし、大量の毛も取れるのだが、常に群れで行動しているせいで、一頭だけを引き離して狩るメリットが少ないためか、ほとんど狩られることがない。
「他の魔物と同じだ。急所を突けばいい。だが、心臓は厚い毛に阻まれ拳が届きにくい。剣ならいけるだろうが、身体強化型のハンターとは相性が悪い。狙うなら額。だが、硬いらしいぞ」
アレンがこぶしをじっと見た。いけるかどうか考えているのだろう。
「俺の雷撃なら、広範囲行けそうなんだが、群れを全滅させない限り、暴走させる未来しか見えない」
ハルトなら、全滅させることもできるだろう。なんならサラがワタヒツジをバリアで囲えばと考えそうになったが、怖くてやめた。
「雷は怖いもんね。そうなると、剣だろうが拳だろうが、群れが暴走しないようにハンターの力で減らすのは難しそうだね」
サラたちの考えることくらい、上の人たちも考えていることだろう。
「騎士隊が渡り竜に人手が割かれているタイミングで、面倒なことにならなければいいが」
だが、そういうときこそ面倒なことになる。
もうすぐで騎士隊の教養課程が修了しそうなサラだが、緊急事態ということで薬師ギルドに戻り、毎日のようにダンジョンに潜り、魔力草や特薬草を採取する日々だ。
「結界箱を使い、進路をずらす作戦を行っているようだが、ずらしてもずらしても、王都方面に向かってくるらしい。どうやら、穀倉地帯を目指しているように思われるとの報告だ」
その日採った薬草を収めに薬師ギルドに戻るたびに、チェスターやヨゼフが対策本部からの最新の情報を知らせてくれる。ハンターギルドの警告の張り紙も、いまだはがされていない。
そんななか、ついにサラたち招かれ人が招集されることになった。
業を煮やした騎士隊の仕掛けた攻撃によって、ワタヒツジが暴走し、予定より早く王都にたどり着きそうだからという理由だそうだ。
「ここまでよくもったよな」
これがハルトの正直な感想である。
「今までなら、私たちが王都にいるとわかったらすぐにでも呼び出されて、なにかやらされてたもんね」
サラも実は意外だった。もっと早くに何かさせられるだろうと思っていたからだ。
「俺は今回、サラのそばにいても役に立たなそうだから、ハンターギルドの方針に従って作戦に参加するよ。きっとハンターにも依頼が出るはずだ」
「俺もだ」
アレンとクンツは、あっさりとハンターギルドに行ってしまった。
「私は騎士隊で待機してます。まだ役に立たないけど、きっと裏方の仕事があると思うから」
アンもきちんと所属の場所で頑張る予定だ。
「もう留守番はいらないな。では、私もハンターギルドへ行こうか」
エルムもハンターギルドへ。
そしてサラとハルトは王城へ向かった。
王に宰相、ハンターギルドと薬師ギルドの長、それから騎士隊長が顔をそろえる作戦会議で、地図の張られた黒板の前にリアムが立っているところまで、いつかと同じだとサラは思う。
だが、今回は違うところがある。
薬師ギルドの長はサラの上司だし、ハンターギルドの長は気軽に声をかけてくる知り合いだ。騎士隊長は前回とは違っても変わらず遠い人だが、リアムはもはや敵ではない。
「王都手前で進路をずらそうという作戦はことごとく失敗しました。言い訳にはなりますが、渡り竜討伐の季節の真っ最中で、人手を十分に割けなかったことが敗因です。また、少しでも数を減らそうと攻撃すると、群れ全体が暴走し、やはり手に負えませんでした」
失敗とはっきり言えることが、リアムの成長なのだと思う。
「ワタヒツジの群れは、王都の東に広がる穀倉地帯を目指していると思われます。北部では秋に収穫が終わっている小麦ですが、王都から南は収穫が春、つまり、ワタヒツジの群れにやられたら、来年の食糧不足さえ懸念される。何としても東の穀倉地帯を迂回し、王都を越えたところの南の草地に誘導したい」
いよいよ招かれ人の出番かと、サラはお腹に力を入れた。
「幸い、この春から騎士隊では、招かれ人サラのバリアを元にした、クンツの盾と呼ばれる盾の魔法を習得するものが増えています。この盾の魔法は、ワタヒツジを弾いて、進路を変えさせるのに有効でした。ですがそれでも、数が足りません。ハンターギルドはどうですか」
クンツがいたらやめてくれと言いそうなリアムの発言だが、そのリアムはまずはコンラートの発言を求めたので、サラの緊張はふっと解けた。
「ハンターギルドでも、かなりの者が盾の魔法を使えるようになっている。怪我をするハンターの数が減る傾向にあり、ありがたい限りだ」
「協力は要請できますか」
「もちろんだ。戻り次第、緊急要請を発動する」
「ありがたい」
ほっとしたような顔のリアムは、今度はチェスターに顔を向けた。
「薬師ギルドは、特級ポーションと魔力ポーションを中心に、各種ポーションを増産中だ。必要なら現場に薬師も派遣する」
「こちらもありがたい」
リアムはとんとんと進む会議に安堵している様子だ。
「人数の確認をしたら、結界箱、騎士隊、ハンターをそろえ、魔法で盾を作り、ワタヒツジを弾きながら群れと共に移動していく作戦を基本とします」
クンツの盾がこんなに便利に利用されるとは思っていなかったサラは、ひたすら感動している。
「リアム、君に作戦を任せたが、なぜそんな迂遠なことをする。そこにハルトがいるではないか。こんな時こそ、招かれ人の力を借りればよかろう」
騎士隊長からの、いきなりのハルトへの指名である。
「ハルトは範囲攻撃魔法を持っていたはず。それでダンジョンで大騒ぎを起こしたこともあるほど、強力なものだったと記憶している。それでヒツジどもを一気に倒してしまえばいいではないか」
騎士隊長はそこで辞めず、今度はサラのほうを見た。
「あるいはもう一人の招かれ人。タイリクリクガメの時に壁を築いたのは君だろう。ヒツジどもは背が低い。低い壁なら作るのもたやすかろう。渡り竜討伐に大変な時期だ。この二人に任せてしまえばいい」
騎士隊長は代替わりをしたが、まるでコピーしたかのように考え方は同じだ。
サラの隣で、ハルトがぎゅっとこぶしを作り、それから諦めたようにその手をだらりと下げたのが見えた。
できるかと言われれば、ハルトもサラもできるだろう。
壁を作るというのならば、あらかじめルートを選定したうえで、もっと前に言われていれば、余裕を持ってできたと思う。
だが、サラは静かに待った。騎士隊長から直接話を振られたわけではないからだ。
リアムが苛立ちをこらえるかのように、静かに息を吐いた。
「隊長。事前に報告しておきましたよね。今回は招かれ人頼みにせず、騎士隊にハンターギルド、それから薬師ギルド、そして王都民で対応することにしたと。渡り竜討伐も、今年はほぼ騎士隊だけで何とかなるようになったではないですか」
騎士隊で意思統一してきたはずなのに、リーダーに足を引っ張られるのはつらいだろうなと思う。
「では、なぜ今日はここに招かれ人を呼んだのだ」
「それは……」
これから順番に話を進めようとしていたはずである。サラはリアムを気の毒に思うと同時に、何を求められているのかが分かったような気がした。
リアムは、招かれ人が自らできることを提案してほしいのだと思う。
自分たちにはこれだけの手札がある。そのうえで、招かれ人はそこにどう加わってくれるのかと、そう言いたいのだろう。
だが、サラが口を開く前に、リアムは言葉を続けた。
「まず、ハルトに全体魔法を頼むのは、一番最後の手段にしたいと思っているからです。理由は、ワタヒツジが大量にいなくなることで、草原の魔物のバランスが崩れる可能性があることです」
サラは驚いてリアムのほうを見た。
確かに、ことあるごとに生き物のバランスについては口にしていたが、それをリアムがちゃんと理解しているとは思わなかった。
「また、サラの壁については考えないでもなかったのですが、いくら魔力が無限に続くとは言え、一人では負担が大きすぎます。事前に時間が十分にない限り、かなり難しいと判断しました」
サラと同じ考えでありがたい。
「それでは、招かれ人がいる意味がないではないか」
「招かれ人は役に立つために女神に招かれたのではありません」
リアムは女神の意思をきちんと代弁してくれた。
「そのうえで、我らでは思いつかないような案を出してくれるのではないかという期待があって来てもらいました。ハルトにしろサラにしろ、どのくらいのことができるのかを、そもそも私たちは理解していないのですから」
リアムはサラが騎士隊でバリアを披露して初めて、サラの力を知ったのだろう。
「ワタヒツジの対策は、王都民で行うが、それに加えて君たちにできることはあるだろうか」
サラの予想通りの質問が来た。
サラはハルトと目を合わせ、頷いた。
自分たちが何ができるかを、事前に相談していたのだ。
騎士隊長やリアムが期待している内容については、サラたちも考えていたし、できるがやりたくないというのが本音だ。では、できることとは何か。
数日前のこと、招集を予期して集合したのは、夕方のハンターギルドだった。
サラは薬草採取から、そしてアレンとクンツとハルトは狩りから。
ちょうど戻ってくる時間に待ち合わせた。
「私ができることと言えば、やっぱりバリアだな」
「実際、カメリアの町に来るカエルを防いだことがあるもんな」
アレンが当時を思い出して懐かしそうだ。そしてぶるっと体を震わせた。待ち合わせた後、暗くなりかけの草原に足を運んだから、実際に寒い。空を見ると、はるか遠くに渡り竜の小さな影だけが見える。
「あの時は、バリアと同時に地面を凍らせてただろ。あれは寒かったよな」
体が冷えてつらかったことも同時に思い出したらしい。
「広範囲のバリアに加えて、冷却する魔法、それなのにリアムが邪魔をしてくるから、集中するのが大変だったんだよね。待って?」
サラは自分自身に問いかけた。
「今までバリアをいろいろな形で応用してきたけど、バリアをシンプルにバリアとして使ったら、いったいどこまで守れるんだろう」
最後に大規模なバリアを使ったのは、二年前のガーディニアだ。
「あの時は、広範囲でもあったけれど、一番大変だったのは、長時間バリアを張り続けたことだったなあ」
「よく頑張ってたよ」
褒めてもらうのはいつでも嬉しい。
「俺はサラのバリアを真似することはできるけど、実践で使ったことはほとんどないんだよ。サラほど大きくもできないし、飽きっぽいから長時間張り続けることができるかどうかもよくわからないな。わかんないってことはさ」
ハルトは草原に向かって、大きく手を広げた。
「とにかく、どれだけでかくできるかやってみるしかない!」
「そうだね。やってみようか」
バリアは意識しなければお互い干渉しないし、体に感じることもないから王都民にもわからないだろう。
「バリアの対象が目で見えたほうがいいから、王都に体を向けよう」
「だな。ばれたくないから、色は付けないぞ」
日はほとんど落ち、王都の建物が影絵のように草原に浮かぶ。
遠くに見えるのが王城だから、その手前にはウルヴァリエのタウンハウスがあり、薬師ギルドがある。
さあ、どこまで届くだろう。
「バリア」
「バリア」
期せずして声が重なる。
もう障壁とは言わないのかと思うと、少しおかしくて少し寂しい。
サラを中心にして、バリアが広がっていく。目には見えないはずの、町の人が家路を急ぐ息吹が感じられるような気がする。
さっき別れたばかりのノエルを越え、薬師ギルドを通り過ぎ、もうアンが戻っているかもしれないタウンハウスから貴族街へ、そして王城へ。
「なんてこった! 私、王都の西側のイメージがつかめないよ。かろうじて城までしかバリアが広げられない」
おそらくバリアは城までは覆ったと思われる。だが、王都の西側すべてが入ったかというと、それは自信がない。
「嘘だろ。俺、今、かろうじて町の大通りまでしか広げられていないと思う。それも、町の外側の建物を目印にしてるから、それを半径に考えたらそんなもんだという推測に過ぎないしさ。これ以上広げたら、絶対バリアが消えてしまうのがわかる」
しょっちゅう使ってると、やっぱり成長するものなんだなとサラは思う。
「維持するのは大変そうか?」
アレンの質問にはすぐに答えられた。
「うーん、一度張ってしまえば、休んでいても大丈夫っていうのは、クサイロトビバッタの時経験しているから、何時間かはもつんじゃないかな」
「すげえな。俺、しゃべってるとバリアがなんだか不安定だし、長時間もつ気がしねえ。ちょっと動いてもいいか?」
「動いてもいいよ。歩いてもバリアは自動で付いてくると思うから」
「うおっ! ほんとだ。なんでだろう、動いてた方がバリアを張り続けるのが楽だぞ」
じっとしているのが苦手な人は、体のどこかが動いていた方が作業しやすいと聞いたことがあるから、ハルトもそういうタイプなのだろう。
そんなハルトがしばらく草原をうろうろ歩き回っている間、サラはぼんやりと町を眺めた。
「今、サラを中心としてバリアが張られてるってことは、サラが王都の中心部にいたら、王都中をすっぽり覆えるってことだよな」
「うん、できそう」
「それ、正直に言うつもりか?」
アレンの言葉は少し重い。
「やめとけよ。俺のときみたいに、利用されるのがオチだぜ。なにかの大発生があるたびに、王都に呼び出される羽目になる」
ハルトの声は暗い。
「今の騎士隊は、前に比べたら全然いい。もう、俺のことおだてて、何かやらせようとしないし、頼みごとがあるときはきちんと意思を確認してくれるしな。けど、このままそうだって保証はない」
話しながらもバリアは維持できているようだ。
「だんだん慣れてきたぞ。バリアの輪郭がはっきりしてきた感じだ」
「すごいな、ハルト。クンツの盾なんて呼ばれてるけど、サラみたいな丸いバリアを張ろうとしたら、もう魔力切れだ、俺は」
クンツもひっそりとバリアを張ってみていたようだ。
「魔力のそう多くない奴でも使えるからすごいんだろ、クンツの盾は」
ハルトの言葉に、サラもアレンも頷く。
「こうやって見ると、サラのバリアだけで何とでもなりそうだが、俺が王都のためにできることは何だろうな」
利用されるのが嫌だと言いながら、王都のために何ができるか考えているハルトは、自分が矛盾していることに気がついているだろうか。
複雑な気持ちを持っていても、ハルトはきっと、王都の人たちが大切なのだ。
「決めた!」
サラは、両手を空に伸ばす。
「最初から、招かれ人頼みだったら、言われたことだけ協力する。ちゃんと自分たちで対策を立てていて、そのついでに助力を頼まれたら、バリアを提案する。もし何も頼まれなくても、こっそりバリアを張る。私は最終的には王都を守るよ!」
その決意が、バリアをいっそう強いものにする気がした。
「ちぇっ! 俺が優柔不断な奴みたいじゃん!」
ハルトが空に向かって叫んだ。
「俺のバリアは! 弱いから! 最初はサラの補助に回ってバリアを張った後! 騎士隊がどうしようもなくなったら! 雷撃でワタヒツジを全滅させるぜ!」
遠くに飛ぶ渡り竜が、ちらりとこちらを見たような気がした。
「この国はさ、トリルガイアはさ、俺に自由をくれたんだよ。転生させてくれたのは女神かもしれないけど、ハンターになることを後押ししてくれて、好きに動かせてくれた。ギャラガー家もさ、俺が西谷じゃなくて、ギャラガーを名乗ろうと思うくらいに、俺によくしてくれたんだ」
ハルトは、自分が利用されて、誰かを傷つけてしまったことが悲しかっただけなのだ。
「俺はもう大人で、誰にも好きに利用なんてさせない。王都を守ることにもためらわない。サラにだって、負けないんだからな!」
「全然大人じゃないじゃん」
思わずサラが突っ込んで知っても仕方がないと思う。
「守る! 守るぞ!」
「もうわかったから!」
すっかり日の落ちた草原に若いハンターの声が響いたのは、ほんの数日前のことである。
それから数日、ハルトはダンジョンに潜りながらバリアの練習をし、サラは王都の西側までイメージできるように、ちゃんと歩いて見に行ってきた。
ついでにアレンと屋台の食べ歩きもしてきた。
だから、リアムの要請には、自信を持って提案できる。
「私は、バリアを張りたいと思います」
サラの宣言に、リアムをはじめ、会議の面々は少しがっかりしたような表情を浮かべた。
「バリアなどという、ありふれたものしか提案できないのか」
騎士隊長に至ってはこれである。
今のところ、安定してバリアを張れるのはサラとハルトしかいないというのに。
サラは苦笑するしかない。
「まず、リアムの作戦がうまくいけば、王都の戦力だけで、ワタヒツジを通過させ、穀倉地帯と王都を守ることができます。では私たちができることは何かといえば、作戦が失敗した時の保険ということになります。つまり、まさかの場合でも、私がバリアを張れば、ワタヒツジは王都にも穀倉地帯にも入ってこられません」
リアムもコンラートも、騎士隊長以外はごくりと唾を呑み込んだのが見えた。
「まさか、サラ。君のバリアは」
「はい。王都くらいなら覆えるようです」
「それなら、対策は招かれ人一人でよかろう! 騎士隊だけでなく、ハンターに薬師ギルド。いったいいくら無駄な予算がかかっていると思うのだ!」
そう考える人もいるだろうと、サラはわかっている。
「俺もバリアを張ることはできますが、サラよりずっと規模が小さい」
騎士隊長を無視して、ハルトが発言する。
「だから俺は、騎士隊と共に前線に出て、万が一戦列が崩れた時、あるいはワタヒツジが暴走した時に、王都方面にヒツジが流れないように阻止する役割を果たそうと思います。そして」
ハルトには、サラとは違って攻撃力がある。
「ワタヒツジの暴走が、本当にどうしようもない事態に陥ったときは、俺が責任を持って雷撃で全滅させます」
「それは最初に私が言った作戦ではないか! できるなら最初からやったらどうだ!」
苛立つ騎士隊長を止めたのは王の一声だった。
「騎士隊長、やめよ」
「はっ、しかし」
「副隊長を信じて作戦を任せたのであろう。作戦に何ら矛盾はなく、その作戦に招かれ人が快く協力してくれる、これに何の問題があるというのだ。災いはいつの時代にも起こるが、招かれ人がいつの時代にもいてくれるとは限らないのだぞ」
「はっ」
こういった対策会議にはいつも王と宰相が同席するが、意見を言うことは滅多にない。いつも許可を出して終わりだと思っていたサラはちょっと驚いたが、面倒くさい言い合いにならなくて助かったと思う。
「背後は招かれ人が守る。我らは、ワタヒツジに全力を尽くそう」
リアムが宣言して、会議は終わった。
ワタシツジの群れは、もうすぐそこまで来ている。




