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転生少女はまず一歩からはじめたい~魔物がいるとか聞いてない!~  作者: カヤ
すれ違う二人

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目覚めた後の

 サラが招かれ人だということは広く知られているが、特別な魔法の使い方をするということは、近しい者しか知らない。何もないところに怪我人を浮かべて運ぶなど、町の人から見たら不自然極まりないだろう。


 クリスやネリー、アレンが心配ということももちろんあるだろうが、サラのことも気遣ってくれる気持ちに、もう少し頑張ろうという気持ちが沸き上がる。


「それで、いったいどうしたの。クンツの説明で基本的なことはわかったけれど。特級ポーションを投薬したということが本当だとしたら、サラ、あなた大丈夫?」

「はい、いえ。あまり大丈夫じゃないかもです」


 サラ、大丈夫という短い言葉が、これほど胸に響くとは思わなかったサラは、言葉を詰まらせた。カレンは、特級ポーションを使う難しさを知っているということなのだろう。


「作るまではいいのよ。草が違うだけで、作り方は普通の薬草と同じだから。でも、使うときは、誰かが生きるか死ぬかの境目の時で、しかも使ったことでかえって命を失うかと思ったら、簡単には使えないものだものね」


 カレンは、後ろについてきている薬師にも聞かせようとしているかのようだった。


「アレンに使ったのね」

「はい。それでも、エルムがいてくれなかったら、私は特級ポーションを使うということすら思いつかなくて、どっちにしろアレンにちゃんとしてやれなかったかもしれないんです。だから、後悔はしていません」

「そう」


 しばらく、黙ったまま急ぎ足で屋敷へと急ぐ。


「私もね、何度か特級ポーションを使ったことがあるのよ。もちろん、自分にではないわ。あの時は騎士隊だったわね」

「騎士隊。もしかして渡り竜ですか?」

「そう。その年はいつもより渡り竜が多くて。騎士隊が渡り竜討伐にこだわるのは、その年のせいかもしれないわね。特級ポーションで助かった騎士も、死が早まった騎士もいたのよ。あの時、本当に薬を使うべきだったのか、今でも答えが出ないの」


 クリスは、カレンだけは特級ポーションを作ったことがあると言っていた。作っただけではなく、使って苦しんだこともあったということまでは、さすがに想像もできなかったサラである。


「使うべきだったのだ」


 とつぜん、後ろから声がした。


「クリス様! 大丈夫ですか!」


カレンが慌てて駆け寄ったので、サラはいったん立ち止まる。幸いなのは、町を抜けてもうすぐライの屋敷というところまで来ていたことだ。


 宙に浮かぶ担架の上で、空に向かって話しているクリスの姿は、普段なら笑ってしまいそうなほど奇妙だった。だが、目覚めてくれた喜びのほうが大きい。


「サラ、歩き続けてくれ。なかなかよい乗り心地だ」

「はい」


 もうすぐお屋敷だ。ちゃんとベッドで休めるなら絶対そのほうがいい。そして、話し方がいつものクリスだなあと安心する。


「クリス様」

「サラに特薬草を見せてくれたそうだな。助かった」

「たいしたことではありません」

「おかげで、私が手を出すことは一切なく、採取から特級ポーションづくりまで、ダンジョンの中で達成できた。サラの卒業試験は、文句なく合格だ」


 目が覚めて最初に話すことがそれですかと、サラは後ろの二人に突っ込みたくなるが我慢する。


「合格すると思っていましたよ。ハイドレンジアの薬師は皆優秀です。サラだけでなく、皆合格するに決まっています」

「違いないな。サラは特薬草をたくさん採取していたから、皆にいきわたるだろう」


 こんな時なのに、ほのぼのしすぎではないか。だが、担架に付いてきてくれた薬師たちもうれしそうだ。


「本当は、特級ポーションを使う機会などないほうがよかった。だが、仕方がない。使うか使わないか迷った時は、使うべきなのだよ」


 クリスはサラに言い聞かせているようで、カレンや他の薬師にも語りかけているようだった。


「生死を分ける判断など、誰もしたくはない。その重い判断を背負えた薬師を、私は尊敬する」

「クリス様……。ありがとうございます」


 カレンの声には涙が混じっているような気がした。


「ところで、重病人のような運ばれ方をしているが、私は単に寝ていただけだ。とてもすっきりした」


 寝不足が解消しました的なセリフに笑いが起きた。クリスだって一度意識を失っているのだから、病人扱いでもいいはずなのだが、こんな時こそ、笑いが必要なのかもしれない。


「カレン、屋敷に着いたらアレンのことを見てやってくれ。かなりひどく内臓をやられていた。治療が長引くかもしれない」

「わかりました」


 屋敷に無事着いた後、カレンをはじめ薬師ギルドの薬師たちが、ネリーとアレンに交代で付いてくれることになり、サラは休むようにと追いやられた。


 お風呂に入る気力もなく倒れるようにベッドに倒れこんだサラは、夕食も取らず、ライが帰ってきたことにも気づかず、次の日の朝まで熟睡してしまった。


「ふわあ、よく寝た」


 さわやかな目覚めはこの世界に来てからいつものことである。


「おはよう、サラ」

「うわあ!」


 部屋を別にしたはずのネリーが、サラのベッドの横に優雅に座ってお茶を飲んでいた。


 いろいろ突っ込みどころはあるが、驚いている場合ではない。


「おはよう! ネリー、起き上がっていて大丈夫なの?」


 そもそも意識不明で担架で運ばれてきた人である。確かにクリスは、昨日中には目を覚ますだろうと言ってはいたが、それでも数日は休むべきではないか。


「よく寝たせいか、いつもより調子がいいくらいだ」


 言っていることがクリスみたいで、似たもの夫婦だなと笑いそうになるが、言うべきことは言っておかなくてはならない。


「だめ! 心配だから、ちゃんと休んでほしいの」

「ハハハ。まあ、そうだな」


 少なくとも、サラの願いに対してごまかさずにちゃんと答えてくれた。


「さすがにガーゴイルが重すぎたな。ちゃんとよけていれば今頃ローストガーゴイルが食べられただろうに」

「あれはおいしいよね」


 思い出すと思わず口の中に唾が湧いてくるほどだ。


「そうだ! アレン!」


 食欲に負けている場合ではなかった。ネリーは回復した。次はアレンだ。


「先ほど様子を見てきたが、まだ目覚めぬようだぞ」

「うん! でも見てくるよ」


 サラは急いで着替えると、客室に向かった。といっても、アレンがお屋敷に泊まるときの部屋は決まっている。


 部屋の前まで来てノックをしようか迷っていると、ドアが内側から開き、お盆を持ったカレンが現れた。


「カレン」

「あら、サラ。おはよう。アレンは変わりなしよ」


 お盆にはポーションの空きビンと、コップが乗っている。


「でも、素直にポーションと水は飲んでくれたわ。そうね、ちょっといらっしゃい」


 カレンはそのまま部屋にサラを招き入れ、アレンのベッドの横の椅子に座らせた。


「でもね、これからが少し大変なの」

「後遺症が残るんですか?」


 大怪我した人は、回復するのに時間がかかるというのがサラの感覚である。


「それはないと思う。手足にもきちんと反応があったし」


 クリスが手足まで丁寧に診ていたのはそれだったのかと納得する。サラはそこまで丁寧に患者を診た経験はない。


 ふと、テッドはどうなのだろうと頭によぎった。カメリアでも、王都でも、テッドはちゃんと薬師の仕事をしていた。もしかして、サラ自身は満足していたけれど、自分は薬師としては三流なのではないかという疑問が浮かぶ。


「特級ポーションは生死を分ける、使いどころの難しい薬だというのまでは聞いたわよね」

「はい」

「使用後のことは、特級ポーションを作った時にでも、他の皆と同時に学ばせようと思っていたの。まさか作ってそのまま使うことになるとは思わなかったわ」


 使用後。つまり、アレンの今後ということになる。きちんと聞かなければならないと、サラは背筋を伸ばす。


「特級ポーションの使用後、完全に回復したいと思うならば、ほぼ一ヶ月、日常生活以外のことをせずに、朝昼晩と適量のポーションを飲み続けるの」

「えっと」


 どんな副作用があるのかと身構えていたサラは、どう反応していいかわからなかった。


 少し大きな病気をした人が、普通にする養生と変わらないような気がするのだが。


「フフッ」


 カレンがサラの反応を見て少し吹き出した。


「そうよね、普通の人なら問題ないのよ」

「普通の人。あ」


 サラはピンときた。


「そう。特級ポーションを使う羽目になる人たちの仕事、わかるでしょ?」

「はい。ハンターか、騎士ですよね」

「正解よ」


 体を鍛えて仕事をする人たちだ。訓練するな、狩りに行くなと言われても、絶対に無理をする。


「確かに、アレンもすぐに無理をして鍛錬を再開しそう」

「ハンターってそういうものよね。でも、その一ヶ月で無理をすると、以前の力に戻らなくなることがあるの。つまり、力の総量が減ってしまう、といったらいいのかしら。いくら訓練しても前ほどの力がつかなくなるというか」

「そんなことがあるんですね」

「体にある生命力を無理やり引き出すからと言われているわ。その生命力がまた満ちるまで、大事に過ごさなければならないのよ」


 正直サラは、今回の卒業試験のことを、ダンジョンの深層に潜るというイベント付きの、気軽なものだと思っていた。


 特級ポーションについてもちゃんと最初から説明してくれればとも思うが、その話を聞いたら怖くて絶対使えなかったかもしれないとも思う。


「全盛期の力じゃなくたって、生きていればいいじゃないって、私たちなら思うわよね。でも、ハンターや騎士にとっては違うみたい。どんなに訓練しても前の力に戻らない苛立ちは、次第に心を蝕んでいくの。そしてそれは焦りにつながり、結局命を無駄にする。本当に難しい薬だから、薬師ギルドでも調薬の経験を無理には積ませないのよ」

「そうなんですね」


 サラは、アレンが目を覚ましたら、絶対無理はさせないようにしようと意気込む。


 そうして順調に回復したアレンが目を覚ましたのは次の日、つまり怪我をしてから二日後のことだった。


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― 新着の感想 ―
1か月でいいなら楽勝じゃん 半身マヒとか欠損だったら死ぬまでやぞ
成長期だからよけいに辛いね。 医者は助かる確率が少しでもあるならそちらを取るべき…と思うけどその後を思うとわからないよね。 でもアレンは感謝してくれるとおもうな…
回復魔法はこの世界にないのかな?
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