表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

プロローグ


気づけば私は夜行バスに飛び乗っていた。


一番のキッカケは、東京の音楽事務所へ送ったデモ音源に返信があったことだった。スカウトから電話もあり、「上京の許可が降りるのであれば事務所一丸で特別のサポートをしていきたい」という熱烈なお誘いの言葉は、高校に行けなくなってしまった私にとって、なによりもの励みになり、また、推進力となった。


それからは田舎の安いアルバイトでコツコツ貯金をして、念願の目標50万円を達成。続いて、最大の懸念だった宿も、センパイのトモダチ経由でルームシェアの許可をゲット。


金あり、宿あり、夢のアテがあり・・・。つまり、あとはもう上京するしかないわけだった。


(東京! 東京! TOKYO! TOKYO! トーキョー! トーキョー! トーキョー!!)


狭苦しいシングルシートに座りながらも、頭の中はすでに東京一色。都会をテーマにした名曲の数々を頭の中で流して、私はずっとライブモード全開でテンションがアガりっぱなしだった。Welcome to TOKYOとは、まさにこんな感じだろうか。


だけど、スマホに届いていた1通のメッセージに気づいてしまうと、そんな気持ちは一気に盛り下がってしまった。


『このバカ娘。もう知らない』


母親からの返信内容――それは、最後の最後まで"上京を認めてはいない"という、反対の意志に他ならなかった。


いきなり行方不明になると心配するだろうから、念のための連絡だった。でも、こんな不快な気持ちになるなら黙って去れば良かったとも思う。


(なんで大人って、ああなんだろ……。だれが何を言ったって、私は絶対にこうするんだから、ムダなことなのに)


ヘッドホンを外すと、シャカシャカと漏れる音が、暗い車内に小さく響いた。ちょっとイヤなことを思い出すだけで、あんなに盛り上がっていた気持ちがガクーンと一気に下がるのだから、心というやつは不思議なものだった。


それから窓の景色をぼうっと眺めていると、やがて車内は就寝の時間になっていた。他の乗客たちが眠る準備を始めており、自分も同じように毛布をかぶって、シートの上で器用に横たわってみる。どうやら、いつもの布団の寝心地と違って、熟睡はできそうにない。だけど、そんなことは二の次のことでしかなかった。


照明の落ちた暗闇の中、じっと天井を見つめて、私はあらためて決意を固める。


(絶対、歌手になろう)


今も昔も変わらない夢。ただそれだけを願い、想い、行動することが私にとってのすべてだった。


だから、この時に手を伸ばしてしまったのも、そのため(・・・・)だったのかもしれない。


――あなたに決めたわ――


「え?」


突然、聞こえてきた声に驚いて、そう声を漏らすと――


(なにこれ……夢?)


思わず、目を疑う。なぜなら、その一瞬の戸惑いの間に、周囲の景色が綺麗サッパリなくなっていたからだ。そこに存在していたはずの乗客やバス、さらには外の景色までも、そのすべてが消えており――どこを見渡しても、ただ真っ白い空間だけが広がっていたのである。


そして、ふと頭上を見れば、そこには"光の渦"が浮かんでいる。ところどころ銀色の小さな粒子がキラキラと散っており、なんだか、とても神々しい輝きを発している。


――時間がないの。おねがい。来て――


頭の中へ直接響いてくる声は、あきらかに女の声だったが、その姿はどこにもまったく見当たらない。どうやら、こことは違う、ずっと遠くの場所からささやきかけているらしい。


(もしかして女神様とか? って……そんなわけないよね?)


――あなたの願いは分かっている。大丈夫。それを叶えることも――


どうやら向こうの声は一方通行らしい。こちらの気持ちなどお構いなしだった。


(フツーに考えたら、こんなの怪しいだけなんだけど……)


いつもであれば無視を決め込むべき場面ではある。しかし、この時には、一つの直感が、常識というブレーキを完全に壊してしまっていた。


まさに今、自分が夢に向かって動き出したタイミング――そんな時に起きた超常現象なのであれば、きっと良い方向へ繋がることに間違いない、と、何の疑いもなく、本気で信じ込んでいたのである。


さらにいえば、頭であれこれ考えるより先に、身体のほうが勝手に動いてしまっていたのだから、これはもう、どうしようもないことだった。


そうして夜行バスに飛び乗っていた時のように、気がつけば手を伸ばしており――歌手を夢見る少女、オリハラ・ナツは、その光の中へ消えていったのだった。


すごく久しぶりに"なろう"へ復帰しました。

また、ぼちぼち書いていこうと思いますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ