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15/21

15:頼っていいですか

またお待たせしてしまって、大変申し訳ございませんでした。



 土曜日。時刻は午後4時。ただいまの状況……誰か教えて下さい。どこで間違えてこんなことになっているのか。


 ここは私の部屋。私がいるのは当然として…


「おい、この位置でいいのか?」


「あ、うん。そこにお願い…」


 白鳥もいる。


 おかしい。予定では今日は買い出しだけだったはず。うちに来ることになるのは日曜だった。なぜだ? なぜ、コイツはすでにここにいるのだ? 何が悪かった?






 今日、私たちは午前中から買い出しに出た。白鳥は車で隣の県にある家具の大型チェーン店まで連れて行ってくれた。


「買うものは何だ?」


「えっと…大きめの書棚と、カーテン。」


 ここは、少しおしゃれな家具を扱っているので人気が高い。週末の今日、店内は若い人を中心に賑わっていた。


「大きめってどのくらいだよ。」


「幅100×高さ120×奥行30が理想。」


「…けっこうでかいな…。」


「色はブラウン。」


 私の部屋は、家具はブラウン、布製品はベージュ、オレンジ、グリーンと決めている。だから、ナチュラルやダークブラウンの書棚ではだめなのだ。


「これなんかいいんじゃないか?」


 白鳥が見つけたのは、組み立て式の書棚。色もサイズもお値段もお手頃。お、こりゃいい。でも…


「…組み立て式…」


 自慢じゃないけど私はぶきっちょ。私が組み立て式の家具を作ると、必ずネジが数本余る。ひどい時は板が余る。開き戸の取っ手は内側に付けちゃってるし、底板と上に来る化粧版を逆につけてるなんてよくあることだ。

 結果、最初から組み直しになる。“製作所要時間およそ1時間”なんて説明書に書いてあるけどあれは嘘に違いない。大体3倍はかかる。


「高いか?」


 眉間にしわを寄せて「う~」とうなっている私を見て、予算オーバ-と勘違いされたようだ。違います。ハードルが高いんです。


「…組み立て式…」


 もう1度呟く。これいいんだよね。色といい、大きさといい、値段といい。パーフェクト。でも、せっかくの家具も完成しなければ意味がない。費用を払えば配達時に組み立ててもらえるのだろうけど、それはなんだか悔しいのよね。組み立ての費用を払うくらいなら、少し高くても組み立て不要のを買った方がいいような…


「組み立ては俺がやるから。これ買って帰るぞ。」


「うん!」






 てなわけで、白鳥おススメのおいしいパスタ屋さんでランチを食べてから我が家に来たのだ。そうだった。悪いのは自分。全てはぶきっちょなのが悪いんだ。


 組み立ててくれるありがたさに目がくらんで、それがどういうことか考えが及ばなかった。くっそ~! あの時は後光が差して見えたくらいだったのに! 


 書棚はけっこう重いし、組み立て式とは言え大きさもそれなりにある。車に積めるギリギリの大きさだった。それを白鳥が部屋まで運んでくれたんだから、感謝すべきなのは分かってる。分かってるんだけれども!


「棚に入れるものはどこだ?」


 部屋に自ら狼を招き入れてしまった軽率さにやっと気が付いてオロオロしている私をよそに、白鳥はテキパキと組み上げた書棚を設置している。それに伴う家具の移動も含めてここまでの所要時間2時間ちょっと。奴は電動ドライバーという素敵なアイテムまで持参していた。最初からこの展開を予想していたに違いない。


「…この箱の中にある。」


 今回、書棚を買い替えたのは、私の趣味の本が増えすぎて収まりきらなくなったせい。私が指さした段ボールの中身を見ると白鳥の目が輝いた。


「お前、これ! 全巻あるのか!?」


 白鳥が手にしたのは、世紀末を舞台に、胸に7つの傷をもつムキムキの男が闘う漫画。…お恥ずかしながら、私は少年漫画ファン(グッズを買ったりはしないのでオタクとは違うと信じている)。


「そろってるよ。」


「わ! これもあるのか!?」


 続いて手にしたのは赤い髪のヤンキーの男の子がバスケットにハマる漫画。いずれも幼いころテレビのアニメで見て(闘う方のアニメは再放送で見た)ファンになった。自分でお金を稼ぐようになってから大人買いしてしまったのだ。


 他にも、死神のノートを拾った少年の漫画、海賊になりたい男の子の漫画など、有名どころは抑えてある。


「…そりゃ、映画に誘ってもだめなわけだよな…」


 白鳥がボソッと呟いた。ああ、あの「興味ない」って断った映画ね。だって、あれ悲しいラブストーリーだったんだもん。どうもああいう話には入り込めない。感動しないわけじゃないけど。


 私が一番好きなのは、主人公が仲間を見つけたり、その仲間との悲しい別れがあったりしながら成長していくような物語。仲間とは最初は反発しあいながらも徐々に打ち解けていく感じだったりしたらサイコ-。


「ファンタジーとか、せめてアクションならよかったんだけど。」


「…覚えておく。」




 それから30分くらい、黙々と漫画を棚に並べた。並べ方にはこだわりがあるのよ。出版社別、なおかつジャンルごとになっていてほしい。バトルものとか、スポ根ものとか。


「ちょっと! 何読みふけってんのよ!」


 あともう少しで終わるね、と声を掛けようと横を見ると、白鳥は漫画を読んでいた。すでに2巻に突入している。


「これ好きだったんだけど、ラストがどうなったか覚えてないんだよ。」


「それが収まらないと終わらないでしょ~!」


 手伝ってもらっている身分なのも忘れて、白鳥の手から漫画を取り上げる。そそくさと棚に収めてっと。よし、終了!


「…俺の漫画…」


「読みたかったら後で貸してあげるから持って行きなよ。」


「いや、ちょくちょくここに通うからいい。」


「通わなくていいから。」


 あとで紙袋に入れて用意しておこう。


「それより。ずいぶん頑張ってくれてありがとう。お疲れ様。コーヒーでも淹れようか?」


 休憩なしで動いてくれたおかげで、思ったよりずいぶんはかどった。あとはカーテンの付け替えくらいだから、明日1人でできそうだ。


「ああ、もらおうかな。」




 コーヒーを淹れて持っていくと、白鳥はソファーに座ってくつろいでいた。なんか変な感じ。いつもは自分しかいない部屋に男の人…しかもイケメン、がいるなんて。


「はい。ブラックで良かったよね?」


 テーブルの上にカップを置いて自分は向かい側に座る。床に座ることになるけど、ラグがフカフカだから気にならない。あの、2人掛けのソファーに並んで座るのは勘弁願いたい。


「なぜそこに座る。」


 早々に突っ込まれた。いえ、おかしくないです。ここでいいんです。


 目を合わせないように顔を横に向けてコーヒーをすする。うん。我ながらおいしい。


「華蓮。」


 声音が変わった。ビクッとしてカップを落としそうになってしまった。このラグはベージュ。コーヒーのシミは作りたくない。


 恐る恐る白鳥の顔色を窺うと…案の定。黒いオーラをまとってらっしゃる。しかも笑顔なのに目が笑ってない。


 白鳥が無言でポンポンとソファーの空いてる部分を手で叩いた。…ここに来いと、そうおっしゃってるのでございますね?


「…私はここでじゅ…」

「俺は不満だ。」


 ここで十分なのに…。




 結局、白鳥の迫力に負けて隣に移動した。ううっ…落ち着かない…。このソファーは2人掛けの中でも小さい方だ。私1人が腰掛けるには事足りるけれど、2人で座るとキッツキツ。ってかラッブラブ?

 私も白鳥も体格がいいものだから、密着度はマックス。肩から腰に至るまで触れていない箇所は皆無だ。


「このソファーいいな。」


「…1人ならね。」


 白鳥はかなりご満悦のようで、ちゃっかり腕を肩に回してきた。勇気を出して払いのけてみる。戻ってくる。払いのける。…戻ってくる。………諦めた。


 こんなに近いとドキドキが聞こえちゃったりしないかな?


「きょ、今日は色々ありがとね。おかげさまでほとんど片付いたから、明日は1人でできるよ。」


 自分の胸の音をかき消すように大きめの声で早口に喋る。この距離で声を張る必要なんてないけれど。


「遠慮するな。明日も手伝うから。」


 そう言いながら、白鳥は空いていたもう片方の腕も私の方へ延ばしてきた。急に視界が暗くなる。目の前に広がるのは…白鳥の胸!!


 え!? 抱きしめられちゃってない!? 


 振りほどこうともがもがしてみるけど、白鳥の腕はびくともしない。片方の腕で私をしっかり抱き寄せて、もう片方の腕で後頭部を撫でている。


「華蓮。」


 頭の上から私を呼ぶ優しい声が降りてきた。さっきの黒い声の呼び方と違う。愛しいものを呼ぶときの温かい声…。


「何でも自分だけでやろうとするな。お前はもっと、俺を使っていいんだよ。」


「使う?」


「そうだ。帰りは送らせていいし、ご飯もおごりでいいし、力仕事は俺に任せればいい。俺にはそれが嬉しいんだから。」


「嬉しいの?」


「そうだ。自分の好きな女の役に立てるのは嬉しいんだ。」


 今まで、何かを誰かに頼んだりするのは極力避けてきた私にとって、その言葉は衝撃的だった。


 私の周りは常に女の子が多かった。だから、力仕事や高いところの作業、果てはボディーガードまがいまで色々と引き受けてきた。それを当然だと思ってた。体も大きいし。


 本当にいいのだろうか? 私みたいな見た目も中身もたくましい女が甘えて。


「…頼って、いいの?」


 顔を上げて伺うように白鳥の目を見る。白鳥も私の目をまっすぐ見つめていた。


「いいんだ。そうして欲しいんだ。」


 その返事は力強かった。そして何よりその眼差しが言葉以上に「いいんだ。」と物語っていた。



「…ありがとう。…一樹。」



 嬉しかった。私にこんな言葉を掛けてくれた人は初めてだから。嬉しくて恥ずかしいような…。照れ隠しに白鳥の胸に顔をうずめた。白鳥の胸は広くって。並んで歩いた時と同じように、自分が小さく感じて居心地が良い。


 ずっと頭の後ろを撫でていた白鳥の手が止まり、そのまま頬に回された。そっと私の顔を上に向かせる。もう1度目が合った。きっと、私は顔だけでなく、耳まで赤く染まっているだろう。


 そんな私の顔を白鳥はしばらく眺めていた…。やめて下さい。この至近距離で耐えられないです。



 視線を外し、顔をそむけようとしたその時 …白鳥の唇が私の唇の上に降りてきた。












   

気が付けば、お気に入り登録の数が800件を超えておりました! 

励みになりますありがとうございます。

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