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第25話:おやじの形見

 咲季ちゃんからドライブに誘われて、そこで咲季ちゃんの考察と今後の予想を聞いた。彼女の考察によると「何者か」が俺の周囲の人間関係を断って行っている、と。


 元嫁、大学時代の友達、職場の仕事仲間。そして、咲季ちゃんも別に目が向くように仕向けられた経験があるとのこと。


 そして、おやじとの関係を壊しにかかってくるって……。


(ピンポンピンポンピンポン)


 このグイグイ来る感じ、間違いなくマコトだ。


(ガチャ)「なんだよ」


 そこにいたのはやはり、マコトだった。


「心配して来てくれたのか?」

「まぁな。なんたって刺されたろ? 一応」


 やっぱりマコトはマコト。悪いけど、色々言ってたのは咲季ちゃんの気のせい。取越苦労ってやつだ。


「一応、食材買ってきてやったんだ。ほら」


 マコトは手に持ったガサガサビニール袋を持ち上げて見せた。袋には色々買ってきてくれたであろう品が入っている。


 俺はマコトに家の中に入るよう促した。


「悪いな。金払うよ。そうだ、これまでの分も。ありがとな」

「ふっ、気にすんな。俺のほうが金持ちだ。負けといてやる。それより病み上がりだろ。座ってろ」


 うちでは客が働くシステムのようだ。俺がソファに座って、マコトがキッチンで料理を始めてしまった。


 そして、マコトは料理が美味い。マコトが女なら嫁にほしい。


 ……いや、しばらく結婚はいいや。


「良い鶏レバーが手に入ったんだ。甘辛く炒めたらフォアグラみたいになるぞ?」

「俺、レバーは苦手だ」

「まあ、食ってみろって。日本酒に合うんだ。そうだ、日本酒も持ってきた。博多百年蔵のやつだ」


 マコトチョイスなら安心だ。料理も美味いが味覚のセンスもある。マコトのおすすめなら間違いない。


 俺はマコトとの会話はそこそこにテレビに目がいっていた。ちょうどローカルニュースをやってたのだ。


 俺が刺されたのは一応事件になるし、ローカルのニュース番組くらいなら出ないかな、と思っていたのだ。


(ガシャーン!)


 派手にガラス系のなにかが床に落ちた音がした。猿も木から落ちる、弘法も筆の誤まり、河童の川流れ。


「はでなおとがしたな!」

「すまん、お前が大事にしてたぐい呑を割ってしまった」

「ぐい呑……?」


 キッチンでマコトがなにかを落とした。音からして割れた。いや、大破した感じ。嫌な予感がした。


「マコト、今落としたのって……」

「すまん、ガラスのお猪口みたいなやつ……。手が滑ったんだ」


 嫌な予感は的中。おやじの「博多切子」が粉々になって床に散らばっていた。


 それを見たとき目の前がぐらんと回った気がした。気を失うときってこんな感じか。「頭を殴られたような感じ」って表現も理解できる。


「まっ、マコト! お前、何やってんだよ! その『博多切子』はなぁっ!」


 俺はブチ切れた。


「ジュウ、そう怒るなって! 悪かったから!」

「お前なら知ってるはずだろ! これがどれくらい俺にとって大切かを!」


 殴りたいのだけど、マコトは運動神経もいい。俺が掴みかかるとするりとすり抜ける。


「すまんすまん。ぐい呑はいいやつを弁償するから許せ。高級なやつのほうがいいか?」

「そんなんじゃねぇ! これはなぁ!」


 俺がマコトの胸ぐらを掴むとマコトがくるりと回す感じにおれの手をすり抜ける。


 肩を掴むと腕を回すみたいにして手を離す。カンフーの格闘シーンの1シーンみたいになってる。


「分かった! 分かったから! すまんって!」


 そう言ってマコトが帰って行った。「弁償する」とか「偶然だ」とか最後まで言っていた。


 正直、咲季ちゃんに言われてなかったら「博多切子」のことはショックが大きすぎただろう。まあ、ショックはショックだった。でも、それよりも大きな問題が目の前にあったのでそちらのほうが気になって絶望とまでは行かなかった。


 結果的に咲季ちゃんが言っていたことが現実になった。マコトと咲季ちゃん、どちらの言うことが正しいのか。もしくは、両方共信じられる? いや、逆か? 両方信じられない?


 もうなにを信じていいのか分からない。俺は床に座り込んでしまった。人はこう次々と事件が起きたら心が追いつかない。


(ピンポーン)


 マコトが帰って1時間ほどして、俺も少し落ち着いたころ、外で待機していてくれた咲季ちゃんがチャイムを鳴らした。


「結果から言うと、咲季ちゃんの言った通りになった」


 彼女をうちに招き入れて、事の経緯を正直に話した。


「まさか、目の前でお父様の形見の『博多切子』を割るなんて……。そこまでは私も予想外でした。マコトさんとしては、申し訳ないていで哲也さんと距離を送ってわけですか」


 全く持ってその通りだった。その日からマコトがうちに来なくなったし、連絡もして来なかった。


 壊した「博多切子」のことがバツが悪くて顔を出さない……そんなストーリーだろう。しかし、辻褄も合っている。


 マコトはずっと俺のことを助けてくれていた。付き合いも長いし、信用もおける。社会的信用度も高い。嘘をつくようなやつじゃない。


 一方、咲季ちゃんは俺の義理の妹……いや、元義理の妹。はっきり言って他人だ。付き合いも短いし、あった回数もそこまでじゃない。嘘をつくような人とは思えないけど、正直詳しくは知らない。


 判断ができない俺は二人の両方との関係を断った。俺から連絡しない。連絡が来ても取らない。メールやLINEも無視。


 俺は益々孤独度を増していった。


今日の更新はここまでです。明日の更新は朝6時の予定です。

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