PAPER 13-New World Order-2
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「聞く処によると、お前のせいで、運命が狂わされた者達は結構、多いんじゃないのか?」
デス・ウィングは、帰りの列車に乗ろうとする魔導士ロタンに向かって、訊ねていた。
傍らにいる骸骨騎士と、所々に包帯を巻いた、汚い軍服姿は困惑していた。
「お前のせいで、半端にボロボロになった国の一つが、今、独裁国家化しているそうだぞ? それに関して、どう思う?」
ロタンは、デス・ウィングの問いに答えない。
「他にも、お前の力によって、死人ばかりの国になった場所もあるそうだ。そうだな、お前のようなタイプが、終わらない災厄を作り出すんだろうな?」
デス・ウィングという深淵は、この世界に落とされた力を持て余す災厄の瞳を覗き込む。
彼は答えない。
デス・ウィングもまた、彼の“物語”に興味を持つ事を止めた。
しばらくの間、互いの間で、黙示が生まれる。
二人は、互いの“物語”が交わらないように、お互いを振り返る事なく、路上で道を訊ねた通行人のように、お互いの興味を失っていく。
†
デス・ウィングは、ほくそ笑む。
彼女は今、この凍えるような、全体主義国家の中を歩いていた。この国を支配している主要人物達が殺されたらしいのだが。この国が果たして、何か変わるのかどうかは分からない。そもそも、国民の大多数がこのような国家の制度を求めて、この制度を憎む者達は、殺され、あるいは収容所の中に死体にされ、死体はゾンビとして使われていったのだから。そう、この国の在り方は、国民自らも共犯者として望んだものであり、一人の独裁者など、何処にもいないのだから。
永遠に終わらない、昨日を望み、明日の光なんて求めない。
支配される事、搾取される事、家畜のように扱われる事が極めて平凡で、日常的な事なのだと、この国の者達は考えているのだ。
そのような、灰色の心の人間達によって、この国は形成されているのだろう。全ては、狂気ばかりが蔓延し、席巻している。
彼女はこの国の国民達に興味が無い。
魅力を感じない。
みな、番号によって管理される家畜や機械の部品にしか見えないのだから。
人間は何の為に生きて、何処に向かうのだろうか?
この一%の者達が支配する、新たなる秩序の中で、みな何処へと向かうのだろうか? この世界のルールに立ち向かう者は現れるのだろうか?
彼女はそれらに干渉しない。
ただ、傍観者でいるだけだ……。
†
『ザ・ステート』に希望の芽は生まれるのだろうか?
それは、誰にも分からない。
人間の歴史は何千年経っても、大して変わらない。支配者と被支配者によって分かれていき、平和な状態こそが、むしろ不自然なのかもしれない。
ボブは、アビューズは、希望を求めた。
何が、正しい答えなのか分からない。
「もう、この国を出られるのですか? アイーシャさん」
「ああ」
彼女はお供にしている、バイアスと共に、この国を去る事にする。
日の光は、とてつもなく眩い。
あの地下の冷たい闘技場とは対照的だ。
この国はよくなるだろうか?
痛みを伴う革命が必要なのかもしれない。けれども、ジャーナリストであるボブが言うには、国、国家という概念を超えて、大企業や武器商人達が世界中の経済を回し、国の一つ一つの政治家達を支配しているのだという。
一人一人の力はあまりにも弱過ぎるのかもしれない。
もうすぐ、オリンピックが取り行われる。
バークス議員は死亡し、多くの大企業の社長や、武器商人達が殺害されてもなお、この大イベントは、この国で執り行われるのだろう。それによって金儲けが出来る者達は絶えないし、国民自らが医療保険や子育て支援などの税金を捨ててでも、このイベントを望んでいるのだから。自分達の人生の優先順位を、ただ一度の大会につぎ込んでいるのだから。
何もかもが、下らなくて滑稽な“劇場”なのだ。
残酷で、愚かなショーなのだ。
「さて、もう行くぞ。バイアス。メビウス・リングから金を受け取らなければな」
しばらくの旅の資金を、能力者ギルドの主から報酬として貰おうと思った。有り余る程の金くらい出してくれるだろう。これで、彼女の人生は一応、安泰になる。
灰色の景色が、未だ、ザ・ステートという国には広がっていた。
あるいは、未来永劫、この国の国民達は、奴隷……家畜である事から抜け出せないのかもしれない。……未来の運命なんて、何も分からない。
わずかな希望の光を夢想し、アイーシャはこの狂気に満ち溢れた国を後にしようと思った。
END




