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カタコンベ  作者: 朧塚
37/41

PAPER 11-1

 高級ホテルの中だった。


 バークス議員は上機嫌で室内カラオケに興じていた。

 この部屋の中には、武器商人もいれば、コンピューター会社の社長、マスコミ関係者、それから他の与党議員もいた。

「バークスさん、バークスさん、こんなに良いもの食べていいんですかねえ」

 最近、選挙で与党議員になった初老の男が、度数の高いアルコールを飲みながら言う。

「いい、いいに決まっている。どうせ、全部、国民の金だ。ほうら、みなさん、ドンドン、ドンドン、食べてくださいね」

 4DK程もある部屋の中で、最高級の料理が、シェフによって、運ばれていく。


 部屋の隅では、トモシビが、腕を組みながら、要人達をガードしていた。



 バークスは大あくびをしながら、タクシーに乗る。ここから、自宅まで数キロくらいだろうか。

「ふふっ、夜中の四時を過ぎたか。しかし、ヴェンデッタめが、何故、メールを返さない」

 彼は、これから愛人の家に向かう途中だった。


 ごろりっ、と。

 何かが、タクシーの窓ガラスに飛んできた。

 丸い物体だ。


 バークスは、それをまじまじと見る。

 それは、生首だった。

 当てつけのように、細切れにした手足なども添えてあった。

「はあ?」

 バークスは、裏返った声を出す。

 その生首達は、彼が先程まで、会食を済ましていた者達だった。

 傍らにいたトモシビが、戦闘態勢に入る。


「バークス様、敵です」

 彼は、腰元に差している刀を引き抜く。そして、顎髭をさすった。


「今なら、私の方が、早い」


 蜃気楼のように、夜の闇にその人物は現れる。

 全身を、赤いローブでまとっている。赤いずきんをかぶっていた。血のように赤い色の服だ。実際、返り血を沢山、浴びてきたのだろう。

 

「俺の名はアビューズ。ジョージ・バークス。この国の癌細胞。お前を始末しにきた」

 トモシビが、無言で突撃していく。


 アビューズは、左手の刺身包丁によって、斬撃を受け止める。

「右腕、両脚を負傷しているな?」

 何処となく、カラスを思わせるような男は、にやり、と笑う。


「ああ、おい。バークス、聞こえるか?」

 タクシーの中にいる老人は、眉間に皺を寄せる。

「なんだ? 小僧」

「お前のボディーガードである、ヴェンデッタは、俺が殺した」

 それを聞いて、しばらくの間、バークスは無言になる。

 そして、高笑いを浮かべた。

「くくっ、くくくくははははぁあああぁ、役立たずが。このわしに、媚びの一つ出来ず、仕事を怠けてばかりいた小娘が。なんなら愛人の一人にしてやって、将来の地位を、権力を、富を約束させてやろうと思って、可愛がっていたんだがな。やはり、ただの小娘だったか、おい、トモシビ。お前は、ウキヨごときのチンケな会社の社長のボディーガードなぞせず、わし専用で働かないか?」

 トモシビは、刀に体重をかけていく。

 アビューズは右手にも刺身包丁を手にして、反撃しようとする。だが、刀を斜めにズラされて、アビューズの右手は虚空へと向かう。

「バークス様、何処か遠いところに、この男。重症を負っているとはいえ、中々の猛者ですよ」

 トモシビは、冷や汗を流していた。

「出来れば、“例の場所”に向かいませんか? もし、私が敗れた場合、貴方さまは、死霊術師達に守って貰った方がいい」

「お前がそう思うなら、そうする」

 そう言うと、バークスは、運転手に支持を出す。

「おい、トモシビ。そいつを始末した後、そいつの生首をわしのところに持ってこい」

「承知しました」

 金属同士の火花が散る。



 バークス議員は、舌打ちを何度も、繰り返していた。

 ……ヴェンデッタを殺した? あの小僧がか? わしの専属ボディーガードを?

 ハッタリなんじゃないのか? とも思った。

 だが、先程まで会食を繰り返していた連中は、首だけになっていた。


 研究施設。

 その中に、彼は入る。

 中には、研究者と、死霊術師が数名いた。

「おい、会食を襲撃された。あの場所には34名の要人達が集まっていた。たった一人でやったとすれば見上げたものだ。あの小僧も私の下に欲しくなったな」

 彼は、にやにやと、下卑た笑みを浮かべる。

「そうだ。ゾンビとして使えないか。おい、お前」

「はい」

 バークスに声をかけられて、死霊術師の一人は答える。

「ヴェンデッタが殺されたそうだ。奴の死体が見つかれば、ゾンビをして再利用する事は可能か?」

「超能力ごと、再利用は可能だと思います」

 それを聞いて、バークスは楽しそうな顔をする。

「何も問題が無い。どんな人材が死のうが、わし……私が、この国を支配出来る、何も問題は無い。たとえ首相でさえ、わしの手腕には逆らえん」

 バークスは、自信たっぷりの笑いを浮かべていた。



 トモシビは、かなり焦っていた。

 確実に、自分の体力が削られていっている。


 彼の胸元にあるスマートフォンから着信が鳴り響く。

「…………失礼する」

 彼は、アビューズから距離を取り、刀で牽制しながら電話に出る。相手は飼い主であるウキヨだ。出ないわけにはいかない。

<あのうですね。トモシビ。少し頭を冷やしなさい。お前は僕の大切な右腕だ。私のナンバーワンだ。お前に死なれては困る>

「ですが…………」

<なあに。ジョージ・バークス氏との契約なんて無視すればよいのですよ。そこにいる相手は、お前には荷が重い。いくら負傷しているとはいえ、かなり強力な使い手ですよ。もちろん、素性も知っています>


<バークス氏は惜しい人材を失ったなあ。ヴェンデッタは人目見て、是非、我が社の社員になって欲しかったものですが。彼は、彼女の才能を生かす事が出来なかった気がしますね>


 アビューズは、両手の刺身包丁をトモシビに向ける。

「電話が終われば、お前に突撃するぜ。電話は待っておいてやる」


<直言します。僕は、このザ・ステートとのビジネスを諦める事にしました。そこにいる、御使いのアビューズさんは相手が悪い。僕が目をかけていた、ヴェンデッタさんでさえ、敗北した相手なんですよ? トモシビ、僕はお前の能力を買っているが。ヴェンデッタさんや、ましてや、御使い屈指の実力者であるアビューズさんに勝てるとは思えない。僕はこの国とのビジネスは諦める事にしました。まあ、損はすぐに取り戻します>

「で、ですが…………」

<もう一度言います。引きなさい>

 そう言って、ウキヨは通話を切った。


 トモシビは、両腕が震えていた。

 全身から、汗が止まらない。アビューズといったか、彼の攻撃の一撃、一撃が、とても重いのだ。使っているものは、ただの包丁でしかないのに。

「ウキヨからの電話か?」

 彼は訊ねる。

「あ、ああ……」

「はっきり言うぜ。俺は手を抜いていた。能力を使わずにいたからな。バークスの手前、お前の面子を立ててやったんだぜ。少しは感謝する事だな」

 そう言うと。

 アビューズは、再び、包丁の一本で、トモシビの刀に触れる。

 すると、まるで、野菜か何かでも切れるように、いともたやすく、トモシビの刀が綺麗に折れる。

「う、うう…………」

「バークスのいる場所は、大体、見当は付いている。例の場所ってとこはな、俺はそこに行く」

 後には、トモシビが地面にへたり込みながら、顔を蒼ざめていた。


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