トーナメント 4-2
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この選りすぐりの八名のネクロマンサー達は、この死の国の競技場における、メイン・ディナーのようなものだ。みな、真摯に試合に注目する。三日に分けて、開催される。以前は16名だったり、32名だったり、無差別戦だったりしたという。だが、八名という絶妙な数字、七回の戦い、というのが、食傷気味にならず、他の競技を相対的につまらないものにさせない数字として、固定する事になったと聞く。
クジによって、それぞれの対戦相手が決まる。
参加者の一人が死亡してしまった為に、運よくトーナメントに潜り込む事が出来た男だった。
全部で七回の試合に、みな賭けを行っている。
闘技場の第一試合だ。
「私はアイーシャ。この戦い、勝ち進めさせて貰う」
彼女は大剣を手にする。
13.サーティーンと名乗った男は、スーツを脱ぐ。
気のせいか、体格が少し変わったように見えた。筋肉が隆起しているように見える。
「ああ、エドゼット。俺がやるよ」
彼は何やら、独り言を呟いていた。
最低一体は、ゾンビを使わなければならないのが、この試合のルールだ。みな、死体が動くのが見たいのだ。アイーシャは、全身に装甲をまとった機械ゾンビを一体、連れていた。アイーシャは、先程の“死体のフライドポテト”を見て、胸糞が悪くなり、出来れば一人で敵を片付けるつもりでいた。ルール上は何の問題も無い。
「ああ、ありがとう。ビアンゴォ。代わってくれないかなーあ?」
アイーシャの機械ゾンビは、アイーシャと同じデザインの大剣を手にしていた。審判である、骸骨兵のレフェリーが旗を振り上げていた。
<第一回戦、第一試合。はじめぇぇぇぇぇぇっ!>
「やはり、私一人の方が戦いやすい。集中しやすいからな」
そう言うと、彼女は自身の作り出した機械の装甲のゾンビを待機させるように命令する。
そして。
アイーシャが、問答無用で、13へ向かって剣を向ける。
一撃で、首をはね飛ばすつもりでいた。
大きな鉄の塊を、男は白刃取りの要領で受け止めていた。
「中々、中々、やりますねえ」
13は笑っていた。
しばらくの間、アイーシャの剣の攻撃を、13は素手でさばきながら戦う、という攻防が続いた。観客の中から、ネクロマンサーとして戦えっ、といった野次が飛んでいく。死体が弄ばれるのを見るのが好きだ、やれ、とも。
このトーナメントのルールの一つとして、必ず一度は、ゾンビを使う事。それが条件だった。13はただ格闘技術によってアイーシャに応戦しているだけだ。このままだと、仮に13が勝利したとしても、彼の負けとなる。
「代われよ、ゼルゼド」
そして、闘技場内に転がっている死体のうち、二つに触れる。
二つの死体は起き上がる。
死体は全身が燃え上がり沸騰していた。
肉の焼ける臭いが、会場に広がっていく。
「俺はゼルゼド。放火犯……、いや、テロリストだ」
13の顔付きが変わった。気のせいか、別人に見える。
「動け、死体共っ!」
高熱を帯びた死体達が、次々に、アイーシャの下へと襲い掛かっていく。
観客席から、殺せ、ぶち殺せ、どっちも内臓をぶちまけろ、などといった叫び声が聞こえてくる。彼らは血を見る事を望んでいる。
燃え盛るゾンビ二体を、大剣によって、斬り伏せる。
瞬間。
爆裂する。
闘技場に爆弾が落とされたような状態になっていた。
13は笑っていた。
「ははっ。ひひひひっ。ゼルゼドは人体を爆弾化させる事が出来るんだよ。今度はこの俺、ルキャーナ様が相手してやるよ」
くきっ、くきりっ、と、13の首が鳴り、回る。
「おい、ルキャーナ。この俺にやらせろよ、殴り殺して止めを入れてやる。俺様がだ、俺様がだ」
13の全身が、ガクガクと震え始める。
「ビアンゴォ。お前は殴って蹴るだけだろぉ? 後はプロレス技かあ? もう一度、このゼルゼド様が攻撃して、止めを差してやるぜ」
審判をしていた、骸骨兵士は全身が吹き飛ばされてしまった。新しい審判の補充である兵士が闘技場へと向かっていく。
「多重人格か……」
炎の中から、アイーシャが大剣を構えて現れる。ほぼ無傷だった。
「で、お前らは、もしかして、いくつも超能力を持っているのか? 一番強い奴で戦いにこい」
「このビアンゴォ様が一番、強ぉぉぉぉおおおおおぉぉぉいぃぃいっ!」
首が、ぐきり、となる。
「違うな、この俺、革命家でもあるゼルゼドだ」
「…………、もういい。一番、マトモに会話が出来る奴を出せ……」
「僕はエドゼットと申します。我々は10以上の人格があるのですが。主に僕が表に出て、一般生活を送っています」
「そうか」
「子供、女性、同性愛者の人格もいます。ちなみに主要人格、元となった人格は、酷いPTSDの為に眠っていますね」
「そうか……、で、お前が私と戦うのか?」
「……僕達の中で、一番、能力が強く。更に、この試合のテーマに相応しいルキャーナでしょうね。非戦闘用の人格達とも話し合って、貴方と戦う所存です。しばし、お時間を頂けませんか?」
「……構わない。準備が出来たら、言え」
アイーシャは、大剣を地面に突き刺して、腕組みをする。
数分の間。13は微動だにしなかった。
そして、13は、背筋を伸ばして、アイーシャを睨む。
「ルキャーナだ。この俺が相手だ。貴様も、この俺のアンデッド(不死者)の列に加えてやろうっ!」
そう言うと、13は跳躍した。
いつの間にか、闘技場の外側に散らばっていた死体達が立ちあがって、アイーシャへと襲い掛かっていく。既に、ゼルゼドが爆弾化していたゾンビ達なのだろう。彼女の下へと一斉に襲い掛かる。
「ふん」
アイーシャは機械の両手を変形させる。
彼女の両手の指先に、孔が生まれる。
「『バルカン・ショットッ!』」
アイーシャの指先から、炎の弾丸が撃ち込まれて、ゼルゼドの作り出したゾンビ達を爆破していく。闘技場は大破していった。
ゾンビの一体が、空中を跳躍していた。
肋骨や刃物のように飛び出し、内臓が縄のように広がっている。何体かが、アイーシャへ向かって襲い掛かっていく。
彼女は。
掌に、炎のエネルギーを生み出す。
「『カラミティ・ボムッ!』
灼熱の炎の火球が、変形したゾンビ達に命中していき、闘技場の外にまで、熱気が立ち込めていく。
煙の向こう側に、13が立っていた。
彼は、ゾンビの腕を手にしていた。
どうやら、銃のような形状に変わっている。
「この俺、ルシャーナは。ゾンビ達を好きなように改造して武器化する事が出来るんだぜ」
彼は勝ち誇った声で、引き金を引いていた。
距離は遠い。
アイーシャは、咄嗟に自身の両腕を変形させて、盾へと作り変えていた。銃弾が次々と命中していく。更に……。
全身が沸騰しているゾンビと、全身が武器状に変形しているゾンビの二種類が、アイーシャへと襲っていく。13……ルシャーナまでの距離は遠い……。
彼女は地面に突き刺した、大剣を手にしていた。
そして、それを13に向かって、放り投げる。
「無駄な事を……っ!」
二種類のゾンビ達が、何体も、アイーシャへと襲い掛かる。彼女は攻撃を防がなければならなかった。
13……ルシャーナは、投げられた大剣を、間一髪で避ける。
「駄目だね、お前は、これでおしまいなんだよっ!」
「お前の負けだ」
突然。
剣が分解されて、複数の鉄の塊になる。
まるで、蛇のようだった。
分解された鉄の塊の真ん中に、細長い鉄線のようなものが入っていた。それらはうねり、13の全身にまき付きながら、彼を闘技場の外へと吹っ飛ばしていく。
闘技場の場外の壁に、13は勢いよく、激突する。
アイーシャは、両脚をジェット噴射の形状へと変えて、ゾンビ達の一斉攻撃を逃れた。……しばらくして、13の操っていたゾンビ達は、次々に地面に崩れ落ちていく。
おそらくは、主人が、気絶をしてしまったのだろう。
審判が現れて、裁定を考えているみたいだった。
<アイーシャさま。このトーナメントの規定では、必ずゾンビを使わなければならないルールがあります。貴方さまは別の能力だけで勝利しました……反則負け、という事になりますが……>
「いや、よく見てみろ」
気絶している13にまき付いている鉄の塊、大剣だったものの柄を操っているものがいた。それは機械の装甲をまとった鳥だった。
「おい、審判。あの剣を操っていた鳥も、死骸から作ったゾンビだ。私は何の反則もおかしていない」
骸骨頭の審判はそれを聞いて、頷く。
<第一回戦、第一試合。勝者、アイーシャッ!>




