PAPER 6-生きるに値しない命 Lebensunwertes Leben-3
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「何故、バークス議員の事を探っている?」
路地裏だった。
アビューズが、会食クラブの周辺で、バークスや彼とビジネスを行っている者達を探っているのを、どうやら見つけられてしまったらしい。
ある程度は、想定済みだった。ボディーガードにブチ当たるだろう、と。
「お前は明らかに嗅ぎまわっている。分かるな?」
女の声だ。
どうやら、得物は拳銃みたいだった。
「怪しいものは、始末しろ、と言われている」
「想定内だよ」
アビューズは、腰元から、自身の得物である刺身包丁を振るう。
背後にいたものは、その攻撃をかわす。
刃物が激突した壁を、刃物がバターナイフのように通過していく。
相手は気付いたみたいだった。
「お前も私と同じ超能力者…………っ!」
「そうだ」
拳銃の攻撃が襲ってくる。
そんなもの、全て動体視力だけで、叩き切って、こんな女など簡単に殺せる筈だった。だが…………。
迷っている…………。
迷いがある。
エンプティを、裏切る事になるだろう。自分は、まだ戻れる…………。
アビューズは、逃走する事を決めた。
女は追ってくる。
「お前、名は?」
「アビューズ…………」
「私はヴェンデッタ(血の復讐)、と呼ばれている」
「覚えておく」
二人は夜の市街地を走っていた。
背後から、何度も、引き金が引かれる。アビューズの赤い服をかすめていく。彼はとにかく、逃げた。
「お前は刃物を使えるんだな?」
アビューズは答えない。
二人は、走り続ける。
走っている車のボンネットの上に、アビューズは着地する。中に乗っていたサラリーマンは驚きの声を上げる。そのまま、歩道橋の上へと飛び移る。追撃の弾は乱射されていく。
「手加減してやったっ!」
女は叫ぶ。
「次、出会う時は、必ず殺す」
少しだけ、彼女の声に、安堵が混ざっているように思えた。
†
「ポッパ、大好きだよ。うん、これから、貴方の部屋に行きたい」
清楚系のファッションは、今日も、ばっちりだ。
彼に嫌われる要素なんて、何一つ、作りたくない。
ヴェンディは、謎の赤いフードの男が何者であるかを、バークスに伝えようかと考えていた。……正直、面倒事は増やしたくない。その場で見逃した事を咎められる可能性もある。
「私は大切な日常を送る。これから、ポッパの部屋に行かないと」
沢山、可愛がって貰おう。頭を撫でて貰おう。
女子大生らしい生活。
それを、必ず守らなければならない。
「今日はすきやき作ってあげよう。後……そうだ、……産婦人科に行ってきた事、ちゃんと伝えないとなあ。口酸っぱくして、やっぱり男女同士、お互いの身体のこと考えて、やるべき事はやらないとなあ」
空は、排気ガスで、少し淀んでいた。




