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カタコンベ  作者: 朧塚
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PAPER 6-生きるに値しない命 Lebensunwertes Leben-1

自分の辞書から私は言葉を一つまた一つと抹殺していった。大虐殺の済んだあと、たった一語、災禍を免れた言葉があり、それが孤独というのであった。満足して目を覚ました ―シオラン―




 昔、この国には戦争があった。


 それに反対した人達は、秘密警察によって捕えられて、酷い拷問を受けた。

 それは陰惨な拷問で、彼らのリーダー的な中心人物から拷問がはじまった。

 

 捕えられた反戦派の人達は、自分達のリーダーが日に日に変わっていくのを見て、ついに愛国心を叫んで、檻から出して貰えた。リーダー的な人物達も、拷問に耐えきれず、愛国心を叫んで、戦争の正しさを認めようとするが、お国に従う政府は許さずに、リーダーは延々と拷問を受けた。


 おそらく、地獄というものがあるのならば、こういうものなのだろう。


 やがて、戦争は終結して、その歴史は葬り去られた。



 傷痍軍人(しょういぐんじん)の館で、看護士をしていた年配の女性が聞かせてくれた話だった。

 彼女の皺は、深く、そして悲しみに満ちていた。


「先の大戦から、この国の人達は何も学んでない、というわけですね……」

 ボブは、そう呟く。

「あんたも、気を付けて。今もどこに秘密警察が潜んでいるかわからんからねえぇ」

 彼女は、ボブの右手を、両手で強く握り締める。

「ありがとうございます。とても貴重なお話を聞かせていただきました」


 隔離施設である館の中には、死なせて、殺して欲しい、といった言葉がこだましている。ボブはこの館を後にする。この国の新興宗教『繁茂の館』は、強い権力を手にして、政治家達の中に入り込み、愛国プロパガンダ、愛国心の宣伝活動を担う為に、マスコミにも強く働きかけているのだ。


 それにしても、まだこの国に“反戦”を訴えたい、と思っている者達がいる事に、感激を覚えた。全てが画一化されて、統一された場所だと、失望に駆られていたからだ。


 この国の六法全書などにも、触れていった。

 デモはこの国では、犯罪になり、暴動などを起こそうとする者達は、思想犯罪因子の段階で、摘み取られる。他国からも、この国の体制は悪名高い。



 ファントム・コート、ボブ以外にも、この国の調査をしたがっている他国のジャーナリストは存在した。もうすぐ、オリンピックがこの国で行われる、その水面下で行われているものは、医療や教育、福祉予算の削減、解体だ。それによって、経済団体連合は儲かり、彼らの言いなりになっている政治家達にも多額の金が入った。

 そういった、事情を調べたがっているジャーナリストは、ボブ一人ではなかった……。



「地道に調査してきた甲斐があったもんだ」

「これを我が国の出版社に持ち込もう。飛ぶように売れるぞ」

「ベストセラーも夢では無いな」


 三名は、この国に紛れ込んだフリーのジャーナリストだった。

 それぞれ、このステートの闇を暴く為に、潜入した者達だった。

 それぞれ、三十代から四十代で、民主主義色の強い国から潜入してきた、正義感も上昇志向強い者達だった。この国の事を調べ上げて、記事にして、本にでもすれば、一山稼げるだろう。


 三名はホテルのロビーから出ていく処だった。


「少し、バークス議員の要望には応えられそうに無かったわねえ」

 気だるそうな声を、三名は受け取った。

 まだ、二十代の若い女の声だった。


「余計な仕事と邪魔が入って、この件も終わらせておくんだった」


 マグナムの引き金が引かれる。

 ジャーナリストの男の一人の頭が吹き飛ぶ。

 他の二人は、何が起こったのか分からなかったみたいだった。


 二度、引き金が引かれる。

 三名共、物言わぬ骸に変わる。


 ………………。

 ヴェンディは、硝煙(しょうえん)を眺めていた。

「さてと」

 そして、スマートフォンで、バークスとその傘下の清掃員に連絡を入れる。

 クセモノは始末した、と。



 彼女は、大学卒業後は、普通のOLとして就職しようかと考えていた。

 勿論、バークスや他の自分の力を利用したい者達のコネを使って、大企業に就職するのも手かもしれない。

 ポッパはもうすぐ、就職活動をしなければならないな、と愚痴っている。


 普通の主婦になれる、というイメージが湧かなかった。


 自分の力を誇示すれば、この国は自分を有用なものだと認めてくれる。全ては利害の一致だ。この国の官僚、権力者達と敵対する理由は何も無い。彼女は悪事を暴くとか言って、この国に刃向かっているジャーナリストやテロリスト達を強く軽蔑していた。



 ……私は上の命令に従って、従順に生きる事が幸福だと思っているし、正しい事だと考えている、ヴェンデッタ、お前もそうだよな?

 バークス議員は言う。

 私も同じ考えで御座います。この国家の指示に従うべき。我々、特権階級はそうするべきです。

 と、バークスから“圧倒的武力”と呼ばれている女は述べている。

 

 このような価値観の中でしか生きられない。

 それ以外の思想や国家制度といったものを、彼女は知らない。とにかく、自分は安全な立場、という場所を維持するしかないのだろうと思うわけだ。



 これから、この国で、他国のアスリートを招いてオリンピックが開かれようとしている。

 オリンピックを開く事によって、大企業が儲かるだろう。これによって、天文学的な数字の予算に膨れ上がったが、貧困に苦しむ国民の生活を更に破壊して、国家の一つのブランドとして、オリンピックは開催されようとしていた。


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