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カタコンベ  作者: 朧塚
16/41

トーナメント 3


 天井が開く。

 この日の為に、天井を改装していたのだろう。


 まるでフライドポテトのように、人間の死体の山が闘技場へと落下していく。滑り台のようなもので滑り落ちていく。数は最初、十数体だったものが、次々に増えていき、数十体、数百体へと変わっていく。ついには、死体の山へと変わっていた。男もいれば女もいた、老人もいれば、子供もいた。

 新鮮な死体だ。つい、数時間前に死んだ者達ばかりだろう。腐臭のようなものは漂っていない。


<ではネクロマンサーの皆様っ! 会場の皆様、これより試合を開始します。第一試合はこれらの死体を使って、対戦相手に挑んで貰いますっ! ネクロマンサーの皆様には、勿論、独自が持参した、あるいは召喚するゾンビを使って対戦相手の方のゾンビに挑んでも構いませんっ!>

 アナウンスが流れる。


 異様なまでの熱狂が繰り広げられていた。

 大きな旗を振り上げている者達もいた。


 会場の中では、ロック・ミュージックが大音量で流れていた。


 デス・ウィングは観客席にいる、人間種族達の顔に眼をやる。

 彼らはポップコーンやチョコレートを頬張り、ビールやコーラを飲んでいた。そして、死体の山を観て、ゲラゲラ笑っていた。そう言えば、彼らは前座である剣闘士の殺し合いの時も、とても楽しそうな顔をしていた。


 聖職者らしき服装をしている者達は愉悦に満ちた顔をしていた。

 ビジネス・スーツに身を包んだ者達も嬉々とした顔をしていた。

 まるで、彼らのファッションは、彼らが権威を示しているように思えた。普通のカジュアルな格好で来れば良いのに、何故、仕事着で来るのだろうか? ビジネス・スーツの男達の時計やネクタイを見ると、ブランド物が多かった。高い地位にいる者達なのだろう。


 右に座っていたミノタウロスの男は、極めて不快そうな顔をして、頭を抱えていた。そして、彼は席を立つ。

「どうしたんだ? ギアル・ギウス」

「イカれてやがる……。俺には理解出来ない残虐な見世物だ。此処にいる奴らが化け物に思えてきた…………。帰らせて貰う……」

 ツイン・ヘッドの方は、しばし熱狂に困惑していたが、彼もまた手を上げて、これから舞台に立つ選手二人に対して、声援を送っていた。


 デス・ウィングは、このショーを見続けようと思ったが、ギアル・ギウスの事に少しだけ興味を持ち、彼の下へと付いていった。

 通路に辿り着くと、彼はトイレの方へと向かう。

 彼はトイレの中で、盛大に嘔吐していた。


「最悪だ。……蛮族共め。化け物共が……」

 トイレから出た後、彼は悪態を付いていた。

「どうしたんだ? ギアル」

 デス・ウィングは訊ねる。

「どうしたもこうしたもじゃない……。気持ち悪いんだよ。なんなんだ? このショーは。とにかく、俺は帰らせて貰う。デス・ウィング、お前はどうする? お前はとても楽しそうな顔をしているじゃないか……」

「お前の故郷は人間共に蹂躙されたんじゃないのか?」

「………………。それは確かだ。奴らは我々のような異種族を怪物と判断して殺したがる性質を持っている。だが、彼らは言葉を話して、知性がある。ならば、過去の遺恨も対話が可能なんじゃないかと思っている……」


「人間を憎いと思っているんだろう? 奴らはゴミだと。何故、そう考えない? 奴らの死体を使って、最高の見世物を鑑賞する事はお前にとって不快なのか?」

「お前もイカれているんだな……」

 ミノタウロスの男は深く、溜め息を吐いた。



 デス・ウィングは、黒い感情が止まらない。

 大抵の人間は、ゴミクズにしか思えない。幸せそうな者を見ると、その人間を不幸にしたくなってくる。苦しんでいる者を見ると、発狂へと導きたくなる。


 人の姿をした、怪物になる前の、人間だった頃からそうだった。

 黒魔術や拷問や処刑に関して、興味を持ち続けて、今、闇の品物を売る店を細々とやっている。

 デス・ウィングは自身が、無敵である事を知っている。

 強大な力を持つ、能力者ギルドの主である、メビウス・リングと戦っても勝利する自信がある。



 闘技場に落とされた人間の死体は、致死の毒ガスで一度に大量に殺害したらしい。なるべく死体に損傷が無いようにしたかったみたいだ。



「どうする……、選手の一人であるベルト・バウンドの死体らしきものが見つかったが」

「会場の者達に説明するか?」

「ブーイングの嵐だろうな」

「アクゼリュスさまは、もしもの時は“例のもの”を放って、補充しろ、と言っていた。このようなトラブルも想定済みだろう」



「しまった……、私が少し運命を操ってしまった」

 デス・ウィングは、心の中で強く舌打ちする。


「今回は完全に傍観するつもりでいたんだがなあ」

 彼女はにやにやと笑っていた。

 そして、自身の失態に付いて、ほんの少しだけ自己嫌悪に浸っていた。



「間に合ったんですね、僕……」

 彼はまるで場違いな気弱な声で呟く。

「運がいいな。だが、一応、審査はさせて貰う。部屋まで来て貰うぞ」

 ひ弱そうな顔の男は、兵士の一人によって、控室へと連れていかれる。

 しばらくして、彼が参加資格を得た事を改めて、他の七名と、会場の観客達に告げられた。


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