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カタコンベ  作者: 朧塚
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PAPER 4-1

 人間はカリスマ性がある者や、自身の人生において何かしらの希望や救済を与えてくれた存在、生活苦などから助けてくれた相手に対して、大なり小なり、盲目的に信仰し、色眼鏡で見てしまうような性質、弱さがあるんじゃないのだろうか?



 また、人間は、文化……芸術といったものに弱く。

 自分自身を形成してきた映画や音楽や小説や漫画などといったものが伝えようとしている思想、イデオロギー、人生観などを簡単に洗脳され、盲目的に信仰してしまう性質があるのだと思う。


 たとえば、尊敬している映画監督やミュージシャンなどが、“戦争を奨励したり”、“権力者を絶賛する”ような事などをすれば、尊敬しているクリエイターなどの色眼鏡を通して、間接的に権力者の支持するようになるわけだ。たとえ、そのようなクリエイターなどが、権力者達から莫大な金を貰って、権力者の言葉を代弁するような事をしていたとしても、幼少期の頃や少年期、青年期の頃に尊敬、崇拝していたものの言っている事が虚実、ペテンだとしても、盲目的に受け入れる性質を持っているのではないのだろうか。


 つまり、文化や芸術といったものは、人間の自己形成、人格などを根源的に形成してしまうものだと思う。


『伝道の書・執筆者・ウォーター・ハウス』



『伝道の書』と呼ばれる書籍が、出回っている。

 凶悪な大量殺戮者である超能力者、ウォーター・ハウスが書いたものとされて、各地に散らばっている。

 伝道の書という名前の元ネタは、旧約聖書からだろう。

 内容は、その悪名高い超能力者の考えてきた事を、詩篇、断章の形として残した散文的なものだ。出版社不明で本屋や古本屋で売られている事もあるし、路上のフリーマーケットに置かれている事もあるという。


 謎に満ちた本だと言える。


 アビューズは、たまたま、その書籍を入手する事となった。

 エンプティから譲り受けたものだ。何冊か持っているからといって、その一冊を、アビューズに譲ってくれた。ちなみにエンプティ自身が、本人から貰ったものだと言っていた。ウォーター・ハウスは能力者ギルドのメンバー達からは、死亡した、と伝えられている。


 エンプティは、その異質な能力者については、あまり深く語らない。アビューズもあまり興味が無い。だが、彼の書いたとされる『伝道の書』については、たまに読み返したりしている。内容はアビューズにとっては、難解だったり、そもそも意味不明だったりする事が多い。その時、その時に考えていた事を書き散らしていた感が、どうしても否めない。


 エンプティは、その『伝道の書』と呼ばれるものは、相当な分量があり、渡されたものは、その一部だと言っていた。ならば、他の“作品”も、各地に散らばっているのかもしれない。いずれにせよ、ウォーター・ハウスという人物は、出版社などを通して自費出版などをせずに、色々な人間に自身の考えていた事を形にした書籍を大量印刷して、手渡ししていた、と。


 表紙は羊皮紙になっており、中は普通の紙だ。クリーム色でそこら辺の小説やエッセイなどに使われている上質紙、といった処だろうか。

 何の変哲も無いが、何故か、本屋や古本屋の片隅にも置かれていると聞く。出版社を通さなければ駄目なんじゃないのか? と、知識の無いアビューズにも分かるが、よく分からない。


 アビューズは、別に読書家といったような人種ではない。

 だが、たまに、この魔人の書いた書物は、パラパラとめくって、読んでしまう。


 勘ぐってしまうのは、この書物自体が、この謎の人物の何かしらの超能力ではないのか? と、思ったりするのだ。読まずにはいられない、何かがある。まるで、アビューズの心象風景を代弁しているような気分になってくる。


 おそらく、この伝道の書と名付けられたものを読んでいなければ、アビューズは、エンプティに従うだけの、機械的な殺し屋だったのだろう。


 感情や情緒のようなものが芽生えた、と言ってもいい。

 自分でもよく分からない、心の不安定さ、均衡の崩れが襲ってくる。




 エンプティが言うには、ウォーター・ハウスは“思想というウイルスを世界にまきたい”と述べていたという。エンプティ自身も、彼の書いている書物の内容は、一部しか分からないと言っていた。だが、感覚的に、アビューズには、エンプティの分からない断章が理解出来、また、エンプティの理解した内容は、アビューズが理解するとは限らない、と言っていた。


 超能力の産物……。


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