第1章 第12話 宣戦布告 2
「……で、お兄さん。どういうことか説明してもらえますか?」
「まーくんまーくん、かんぱーい!」
「かんぱーい!」
「いいから質問に答えなさいよ酔っぱらい共!」
さっそくリビングで二次会を始めようとしていると、彩ちゃんが何か騒ぎ始めた。ん……? 彩ちゃん……?
「もう夜だろー。未成年はさっさと家帰れー」
「誰のせいだと……! コトちゃん一人にしておけないから今日は泊まることにしたんです。親には報告済みです。はいあやは答えたから次はそっち!」
「だからさー、焔は俺と一緒に仕事したいんだって。でも俺はコトの家庭教師だから見捨てるわけにはいかない。だったら焔が俺たちのグループ入れば全部解決! ってわけ」
「全部解決って……まぁそうかもだけど……。ほむら様はそれでいいんですか?」
「だいじょーぶだいじょーぶ、元のチャンネルは続けるから。ほんとなら完全にまーくんの方に移行したいんだけどスタッフも抱えてるしねー。そう簡単には辞められないのよー。それともあやちゃんは私と一緒だと嫌?」
「いえあやは……ほむら様のファンですし絶対そっちの方が伸びるからむしろありがとうございますなんですけど……」
「……わたしは反対」
自室の中から扉を開け、毛布にくるまっているコト。
「わたしはわたしの好きな人たちと好きなことをしたいだけ。……あなたは好きじゃない。だから一緒になんてやりたくない」
その表情は酔っぱらっている俺では見えないけれど、今はそっちの方がいいと思った。
「コト、話を聞いてくれ」
「……いや。酔っぱらってまともじゃないおにぃとなんて話したくない」
「……ごめん、その逆。酔ってないと言えないんだ。コトの幼馴染でも、家庭教師でも、大人でもない。ただの北条正義の言葉を聞いてほしい」
返事は返ってこない。聞きたくもない話だということはわかっている。だから今まで言えなかった。俺自身のことは何も。
「俺も同じなんだ。コトと同じで、特にやりたいことはないけどビッグになって幸せになりたい。でもさ……そんなこと言えないじゃん。もう二十歳だよ。何にでもなれる子どもなんかじゃない。だからまだ取り返しのつくコトを幸せにして夢を託そうと思った。でも……でもそれだけじゃ満足できないんだよ! 俺も幸せになりたい! 誰にも馬鹿にされたくない! 浪人生なんて見下されたくない! ちゃんと俺も幸せだぞって言ってやりたいんだ!」
あぁ……駄目だ。自分でも何言ってるかわかってない……。それに……なんかかっこ悪い。こんな恥ずかしいこと言いたくなかったんだけどな……。
「だから大学に行く! なんか世間からすごいって言われる仕事に就く! コトも焔も彩ちゃんも幸せにする! 全部、そう……全部! 全部やってやる! 駄目だったらその道は諦めたらいい!」
小学校で友だちを作り、中学校で恋をし、高校で失恋を経験し、大学で四年間遊び、就職して数年で結婚し、子どもを作って出世して家を建てて定年まで働き、静かな老後を過ごし、そして穏やかに死んでいく。それこそが誰もが想像する普通の人生だ。
だが最近強く思う。そんな普通の人生を歩める人は、どれだけ特別な人間なのかと。
一度の失敗も許されず、ドロップアウトしてしまえば二度と戻ることのできない王道。それは決して普通ではなく、努力と運に恵まれたエリートしか歩めない道。
俺はそこから落ちてしまった。もうその王道は歩めない。それでもまだ俺には残っているものがある。
「道は一つじゃない! 道は無数に広がってるんだ!」
もう同級生は立派に働いている者もいれば、大学で夢のために勉強している者もいるし、次の世代のために子どもを育てている者もいる。だが俺は何でもない。やっていることは不透明だしやりたいことも特にない。だから。
「コト! 焔! 彩ちゃん! 俺が絶対に幸せにするから! 俺を……幸せにしてほしい! 俺もめちゃくちゃがんばって協力するから俺がビッグな男になって幸せになるのに協力してほしい! それが今の俺の夢だ!」
かっこ悪く、情けなく、大人らしからぬ社会不適合な願い。それが北条正義20歳浪人生の、心からの叫びだった。




