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いじめられて引きこもった少女と、浪人生の俺。時間を持て余しているので超人気配信者になります。  作者: 松竹梅竹松


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第1章 第10話 社会不適合者たちのプライド

「きたきたきたきたきたわよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」



 焔とのコラボ動画をアップした約一週間後。学校終わり午後四時頃。合鍵を使ってコトの家に入ってきた彩ちゃんが大声で騒ぎながら、リビングにいた俺たちの前に現れた。



「あれ、今日バイトじゃなかったっけ」

「辞めてきた! もうそんな下積み生活はしなくていいの! 人気者のお金持ちになれるの! ……ていうかあんたたち、チャンネル見てないの?」


「編集してたから……」

「ダンスの練習してたから……」



 俺もコトも真面目にチャンネルのためにがんばっていたのに、彩ちゃんはやれやれといった様子でスマホを見せてきた。



「あやたち、バズってます!」



 見てみると、確かにこの間まで一万前後だったチャンネル登録者が十万にまで届いている。でも……おかしいな。



「焔とのコラボ動画、コスメ試させてもらうやつあんまり伸びなかっただろ」

「それは視聴者層のせいじゃないかな」



 リビングの扉が開き、あの時以来会っていなかった焔が入ってくる。完全な不法侵入である。



「さっき彩さんに会ったの。まーくんのチャンネルでやってるのってふりふりのかわいい服着て踊ったり話したりする系でしょ? そもそもネットのおもちゃになったコトさんが加入して人気に火がついたチャンネル。視聴者層的には男性の方が多いんじゃないかな。そこにいきなりコスメの動画上げたって見られないよ。対してうちのチャンネルで上げた対談動画。美容系のチャンネルだし、かわいい女の子が出たら見にいってくれる。それで見にいった先の美少女はいじめられてるとか不登校とか、暗いこと言ってるんだもん。普通に生きてる女子からしたら勝った気になる。いい意味でマウント取れて気持ちいいんじゃないかな」



 焔のその推測は当たっている気がする。というよりまぁあんたほどの大物が言うなら、って感じだ。それはそれとして、コトや彩ちゃんに対して失礼極まりないが。



「それよりまーくんさ、どうして何回も連絡してるのに返信してくれないのかな。私は……」

「ごめんなさい! コトちゃん……ちょっといいかな」



 焔の言葉を制し、彩ちゃんが俯いているコトの前に立つ。



「学校でも話題になってる……コトちゃんが配信者になってるって。ほむら様ともコラボできるくらい人気になってるって。それでコトちゃんをいじめてた子たちの肩身は狭くなってる。……今じゃないかな。学校に行くとしたら」



 そう語る彩ちゃんの顔は。コトを配信者に誘った時と同じくらい……いやそれよりも強く、真剣だった。



「痛いって馬鹿にされてたあやの立場も強くなってる。今ならコトちゃんを助けられると思う。元の道に戻れるとしたら、今しかない」

「……行かないよ。学校なんて」



 だがそれに対し、コトもまた真剣な表情で明確に拒否した。



「だって今幸せだもん。おにぃがいて、彩ちゃんがいて、褒めてもらえて、大好きなものだけに囲まれて……。今さら学校になんて行きたくない。最初だけちやほやして、飽きたらまたいじめてくることなんて目に見えてる。嫌いな人が手のひらを返してくるのなんてイラつくだけ。わたしはわたしのことを好きな人がいる世界で生きていきたい」

「……言っちゃなんだけど、言いたくないけど。そうはさせないけど、この人気はあんまり続かないと思う。そう、コトちゃんの言う通り飽きられる。その時ずっと引きこもりだと……」

「もう戻れないの!」



 彩ちゃんは初めて聞くだろうか。コトの大声に身体をびくりと震わせてしまう。



「彩ちゃんは何もわかってない……ほむらさんもそう。おにぃから聞きました。昔、ずっと一緒にいるって約束したそうですね。だからわたしたちとコラボして、おにぃを引きずりだそうとしたんですよね」

「……退屈な動画を見てたらまーくんの声がちっちゃく入ってたからね。まーくんにはもっとふさわしい場所があるし。で、何がわかってないって?」



 さすがは長く活動しているだけあって、コトの剣幕にも動じない焔。あえて刺々しいことを言ってコトを煽る。……コトが何を言おうとしているかはわかる。だが言ってほしくない。せっかく俺も、夢の中にいるのだから。



「わたしたちにだってプライドがある。……負け犬にだってプライドがあるの。成功した人を見ると劣等感で押し潰されそうになる。幸せなそうな人の傍にいると悔しくて死にそうになる。……わかりますか? だめなんです、もう。一度落ちたら、這い上がれないんです。普通だったわたしたちを知ってる人に会うと恥ずかしくてどうしようもなく感じて、だめなんです。……だから帰って。もう辛いんです。何もしてないけど、つかれてもう立ち上がれないんです……!」



 いつしかコトの俯いたままの顔からは水滴が零れており、焔も彩ちゃんも何も声をかけられずただ無音の空間が訪れていた。彩ちゃんは夢に向かって突き進められる。焔は成功を収めている。俺たちとは違う人種だ。



 俺やコトはもう駄目だ。一度道を踏み外して、今も迷いながらもそれでも幸せになろうと藻掻いているだけで、心の底から幸せになれるとは思っていない。ただ今の平穏を守りたいだけ。どうせ無理だからと本気を出さない理由を探しているだけだ。でも……そうだな。



「焔、この後時間あるか? この前言ってたお酒、付き合ってほしいんだけど」



 それでもコトには幸せになってほしいから。あんなことを言ってほしくないから、俺は現実に向き合うことにした。

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