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奴隷商人は嘘をつかない  作者: 狼子 由
第3章 Causing a Commotion
36/184

10 黙っていたこと

 出発が夜明け前だったので、しばらく歩いたところで、日が高くなってきた。

 眠そうに眼をこすりながら、サクヤが寝袋を出してくる。

 基本的にこの人、大雑把で不器用だが、さすがに旅慣れてはいるらしい。街道からは見えないように、うまく辺りを整えている。


 まだ怪我が治りきっていないというのもあって、眠そうにしている様子は、幼い少女のようだ。あくび混じりに、高い声で囁く。


「……じゃあ、この辺で、夕方まで寝ようか」

「――え? 先に飯食うだろ」


 当然のように、アキラが言い返した。就寝前の飯の時間は、肉食ディファイ族にとっては譲れないらしい。


 その言葉で、サクヤがはっとした顔をする。

 アキラではなく、オレの方に向けた視線からすると、完全に失念していたのだろう。


 実を言うと、今までも、結構な頻度で飯の時間が忘れ去られることがあった。

 本人に指摘したことは、なかったのだけれど。

 この表情からすると、もしかしたらサクヤは、本当に飯を食わないのかもしれない。


 しかし、その詮索は後として。

 まずは、さっきからキュルキュル鳴っている、アキラの腹の虫を何とかしてやらねばならない。

 オレは荷物の中を探って、イオリから預かっていた弁当を、アキラに差し出した。


「お、イオリ、弁当作ってくれてたのか! やったぜ!」

「サクヤの分も、一応は作ったって、言ってたけど……」


 目を向けたが、サクヤは黙って首を振った。

 オレ達の会話を待たず、アキラはさっさと蓋を開ける。


「やった! 照り焼きサンドだ。そいつの分はおれが貰った!」


 聞いていないのかとも思ったのだが、さりげなくサクヤの分を自分のものと定めてしまう辺り、話は聞いているらしい。

 食欲優先なので、興味がないのだろう。

 サクヤの様子を全く気にせず、さっさと食べ始めてしまう。


「お前も食えば? イオリは料理上手いぜ。このサンドイッチも、甘辛いタレとマヨネーズの比率が絶妙!」


 いや、確かに、そのサンドイッチは旨そうだけどさ。

 今まで何度も機を逸していたので、今度こそ、はっきり聞いておきたい。


「先に食ってて」


 返事をしておいてから、サクヤの背中を軽く押した。

 サクヤはちらりとオレを見てから、歩き出す。戸惑いもなく、森の奥に踏み入る様子からすると、オレが聞きたいことについて、予測はついているのだろう。

 アキラに会話が聞こえないくらい、距離を取ってから、その背中に向けて尋ねた。


「なあ、ちょっと聞きたいんだけど」

「『内緒にする』と宣言したことについては、答えられないが。多分、これから聞かれるのはその他のことなんだろうな……」

「多分そうなんだろうね。あのさ、あんた、飯とか食わないの?」


 やはり、予想通りの質問だったらしい。くす、とサクヤが笑った。

 そりゃそうだ。いくら鈍いサクヤでも、この流れは読めるだろ。


「もう、気付いてるんだろ」


 振り向いた視線は、オレの問いを肯定していた。

 肯定は予測済み。

 ただし、その理由はさっぱり分からない。

 困惑しながらも、重ねて尋ねる。


「『リドルの姫巫女』だからなのか? いや、でも、ディファイの長老のトラは食ってたぞ」

「トラも同じだ。食べられないということもないが、固定された身体で、食べる必要があるかと言えば、特にない」

「腹減ったりしないの?」

「もう長いこと、食事ってものを取ってないから……。空腹の感覚自体が分からない」


 サクヤが、小首を傾げて、答えを返してきた。

 あんたがそう言うなら、それが事実なんだろうけどさ。


「食べれなくないなら、食べればいいんじゃないか? だって、人間の三大欲求だぜ。無理に我慢しなくても」


 良く考えれば、この人、三大欲求のうちの1つを、姫巫女の第二誓約で自制してるのだ。

 満たせる欲求不満は、積極的に発散した方がいいんじゃないだろうか。


 それでも、サクヤの答えは、簡潔だった。


「誓ったんだ」

「は? 何を?」

「奴隷になっている同胞を全て救うまで、食べないって」

「何だ、それ? 願掛けみたいなものか?」

「……それに近い気分だったのかな。まあ、後からもうちょっと考えれば良かったと思った部分もある。でも宣言してしまったから、もう覆せない」


 口に出してしまったから。

 モノを食えば、第一誓約に引っかかると。

 ……バカじゃなかろうか、この人。

 何で、わざわざ、自分で自分の縛りを増やすんだ。


「何で、そんなことしたワケ?」

「今この時も、同胞が苦しんでいるのに、自分だけが楽しむつもりになるか? 少し早まったかなとも思ったが、気持ちとしては今も変わらない」


 早まったとか言っているが、結局は。

 自分の言動に、さして問題を感じていないようだった。

 きっと今、もう一度選択し直すことが出来たとしても、同じように誓うのだろう。

 驚きを通り越して、もう、呆れるしかない。


「――やっぱ、あんた、バカだ」

「これに関しては、そう言われても仕方ないな。どちらにせよ、このことは、俺も言わなきゃいけないと思っていた。悪かったな、飯の時間、何回もすっ飛ばしてただろ」

「あんたの金で勝手に食糧買ってあるから、オレはいいんだけどさ……」


 何だって、そんな、意味のないことをするのか。

 オレには全く理解できない。

 だって、あんたが食わなかったからって、その分が、あんたの大切な同胞の所に行くワケじゃないんだぜ。


 ――と、言ってやりたかったが。

 知りもしないことに口を出すな、と言われたことを思い出した。 


 このことこそ、サクヤの好きにすればいいことだ、と思ったので。

 これ以上は、何も言わないことにした。


 その代わりに、ちょっと気になっていたことを、聞いてみようと思った。


 目の前の細い肩を掴んで、逃げも誤魔化しも出来ないように、瞳を覗き込む。

 突然近付いた距離に、サクヤがびっくりして目を見開いた。

 その紺碧を見ながら、尋ねる。


「なあ、サクヤ、あんた……年は幾つなんだ?」


 サクヤの瞳が、一瞬揺れた。

 沈黙とともに、視線が逸らされる。

 オレは、手を外さなかった。

 ひたすら、その顔を見つめ続ける。

 

 サクヤは、迷っているように、しばらく黙っていたが、オレのしつこい視線を受けて、諦めて口を開いた。


「そもそも、教えるつもりもなかったんだが……」

「言えよ」

「正確には覚えてないけど……」


 この期に及んでも、言いよどむ。

 オレは、急かさずに、次の言葉を促す。


「大体でいいよ」

「……リドルの島が襲われて、一族全てが捕われたのが――」

「うん」

「50年以上前の話で……」

「ごじゅう?」

「……姫巫女を継いだのは、150年は前だ」

「ひゃ、ひゃくごじゅう……」


 ――150歳オーバーだった。

 見た目通りの年じゃないだろう、とは思っていたが。

 予想より、遥かに年上だ。


 ――頭が、くらくらしてきた。


 血も繋がらぬ同胞を探しながら、たった1人で、50年を彷徨う。

 その長い時間を想像すると、ひどく、胸が痛んだ。


 あまり、自分には馴染みのない、この感情は。

 同情。憐憫。哀れみ。不憫。

 ……可哀想に――。


 ――やばい。

 オレのこんな同情心が、サクヤにバレたら、へそを曲げられてしまう。

 自分が無表情を保てているか、気になった。

 顔に手を当てて確認しようと、サクヤの肩から、両手を離す。


 ――離した瞬間に、サクヤが、眉をよせた。


 あれ。何で、今、そんな顔をした?

 まるで、どこか痛いような。

 

 その表情を良く見ようとしたが、すぐに、オレの視線を遮断するように、フードが下ろされた。


 視線をフードに遮られてから、ようやく。

 サクヤの気持ちが読めた。

 今のは、手を離すべきじゃなかった。

 ――だけど、もう遅い。


 すぐに、サクヤは身体を引いて、オレから離れた。

 フードの下からちらりと覗く、綺麗すぎる唇が、小さく呟く。


「……このことを知ると、人間に、拒絶されることがあるんだ」


 沈んだ声が、以前に同じようなことがあったと、何より雄弁に表していた。

 だから、同じ傷を恐れている。

 だから、オレに秘密にしていた。


 同情を見透かされるより、こんな勘違いされる方が、問題だ。

 よりによって、この大事なポイントで、対応を間違えるとは。

 すぐに、「今のは、拒絶じゃない」と否定しなければいけないのだが。

 何を言うべきか、迷って、言葉が出てこない。


 「落ち着けよ」? ――違う。

 「ちょっと、顔が痒くて」? ――ダメだ。

 「もう一度、触らせて」? ――違う、違う。


 ――この、オレが。

 言葉の選択に、迷う日が来るなんて。


 迷いながらも、もう一度、サクヤの方に手を伸ばした。

 それなのに、指が届く前に、簡単に振り払われる。

 目深に被ったフードの下から、抑揚のない声が流れ始める。


「自動再生は、肉体の刻を止める魔法だ。成長も止まるし、何があっても元の形に戻る。お前が思う以上に、この身体は恐ろしい。腕が千切れても、足を失っても、また生えてくるし。試したことはないが、首を斬られても死なないんじゃないかな」


 自分のことなのに、最後の方は、サクヤ自身が、声を震わせていた。

 その怯えに気付いて、踏み込もうとして――。


 その前に、サクヤが続けた言葉で足を止めた。


「――いや、それは正確じゃないな。死なないんじゃなくて、死んでも生き返る(・・・・・・・・)んだ」


 ――それは、どう違う?

 それを問うかどうするかすら、迷っている間に。

 サクヤは、静かに踵を返した。


「……黙っていて、悪かった」


 小さく言い残して、走り去っていく。

 その背中を追おうとしたが、うまく足が動かなかった。


 ……ああ、自覚している。

 全て、後手後手だ。

 最適解を探して、迷ってばっかり。


 普段のオレなら、もっとうまく、サクヤの感情を拾えたはずだ。

 手を握られたいのか、離されたいのか。

 声をかけて欲しいのか、黙っていた方がいいのか。

 どんな言葉をかけられたいのか。


 それが出来るのが、サクヤの見出した、オレの価値だ。


 ――なのに、今。

 大事な時に、それを間違えた。

 間違えたまま、最後まで、触れられなかった。


 それは、多分。

 オレ自身が、迷っているからだ……。

 サクヤにとっての最適と、自分の欲求が交差するから。


 自分の頭の中を、掘り返してみる。

 どれが、求められる行動で。

 どれが、自分のやりたいことなのか。

 ごちゃごちゃになっているが、口に出せば、多少は整理されるだろうか。


 本当は、さっき。

 手を離すんじゃなくて――。


 「……可哀想なサクヤを、抱き締めたかった?」


 ――いやいやいや。

 ちょっと待て、オレ。


 まずいって。今は女でも、アレ、中身は男だから。

 それに、それに。第二誓約があるし。

 更に言うと。師匠の役に立とうって、決意はどうした。


 抱き締められない理由はいくらでもあって、頭の中では理解していた。

 それなのに、気持ちが全く納得できていない。


 理性と感情がごちゃごちゃで、今、何をするべきか決めるのに時間がかかる。

 だから、その場に必要な動きで、咄嗟に対応することが出来ない。


 オレ、昨日まで、どうやって動いてたんだっけ?

 呆然としながら、考える。

 考えるのだが、全く、思い出すことが出来なかった。


 ――しばらく考えて、ようやく思い付いたのは。

 突っ立っていてもどうしようもない、ということだけだった。


 とりあえず、サクヤを追い掛けることにした。

 元の場所へ戻ってみると、そこにいるのは、ひたすら飯を食っているアキラだけだ。サクヤの姿は見当たらない。


 アキラは、オレを見ると、弁当箱を差し出してきた。

 中身は、きっちり3分の2を平らげた状態になっている。

 自分勝手に振る舞っているが、一応、アキラなりに、考えてはいるらしい。


「あいつ、ひでえ顔して帰ってきたぞ」


 アキラが、つまらなそうに顎で指した。

 その方向に、サクヤがいるのだろうが。

 かさりとも音を立てないのは、もう寝てしまったからなのか。


 オレは黙って弁当を受け取ったが、食欲を感じない。

 静かなのが気になって、誰にともなく、呟いた。


「……首を落としても死なないってさ」

「らしいな。お前、知らなかったのか」


 アキラは知っていたのか。

 原初の五種の話と同じで、獣人にとっては常識らしい。

 知らないオレが、バカだっただけか。


「……トラもそうなのか?」

「神の守り手は皆そうだよ。……食わないなら貰っていい?」


 どんだけ食うんだ、こいつは。

 呆れつつ、オレは渡された弁当を、再びアキラに返した。

 アキラは、嬉しそうにそれを受け取る。食べながら、こちらを見ずに、思い出したように呟いた。


「あんたの連れをフォローするつもりなんか、これっぽっちもねぇが、おれにとっては、人間の方が余程怖い。あいつら、おれらより弱いのに、おれらのこと虫けらみたいに扱うんだぜ。どういう精神構造してるのか、さっぱり分かりゃしねぇ」

「あんた、奴隷だったんだっけ」

「そう。だから、あんたの連れのフォローなんかじゃねぇからな。そういう意味では、あんたの連れは最悪だ。人間で、奴隷商人で、しかも自分の一族を守れない守り手だ」


 それは、極端でも、偏見でも。

 アキラという1人の体験から出た言葉だった。

 奴隷というものがどんなモノか、本当に知っているからこそ。


 オレの顔を見て、アキラは皮肉に笑う。


「本当に、酷いもんだったぜ。良く生き残ったと、自分でも思うよ。ほら、見ろよこれ」


 アキラが右手の袖を捲ると、その下は、手首から二の腕まで、綺麗に1センチ間隔で、褐色の横縞が入っていた。

 遠目に見れば、あまりに綺麗に入っているので、そういう布模様の服に見えるかもしれない。


「何だと思う?」

「……刺青か何かか?」

「そんな丁寧なもんじゃねぇよ。おれが失敗すると、焼けた鉄棒をな、こう、押し当てるんだよ。その為の鉄棒を、いつも暖炉にくべてるんだぜ。もう、失敗するから仕置きされるのか、仕置きする為に失敗させられるのか、分かったもんじゃねぇよ」


 よくよく近くで見れば、確かに微妙に盛り上がっている部分や、ひきつれたようになっている部分がある。

 綺麗に治っているのは、むしろ。治して模様にするところまでが、当時のアキラの持ち主の望みなのではないだろうか。

 ついでに、今、これだけ綺麗になったということは、元の火傷はかなり古いもののはずだ。幼い子どもに、こんなことをするとは。

 あまりの悪意に、気持ちが悪くなりそうだった。

 この痕はほんの一部で、きっと、身体中に同じような悪意の結果があるのだろう。


「毎日、『死んでたまるか、絶対生き延びてやる』って、そればっかり考えてた。そういうおれを助けてくれたのが、イオリや長老や、ディファイの皆だ。おれが本当に一族の子かも分からないのに、良くしてくれた。だから、その恩を返すんだ」


 その為なら、嫌いなサクヤにもついていく、と言いたいか。

 その言葉を聞いて、何となく、自分のことを思い出した。


 ――そうだ。オレも、師匠に命を救われたんだった。


 アキラは、こちらをちらりと見て、食い終わった弁当箱を返してきた。

 箱だけ戻されても困る……と思っていたら、中に一切れサンドイッチが残っていた。

 どうやら、食えと言っているらしい。

 アキラはオレの視線を避けるように、すでに、そっぽを向いている。


「……あんたもさ、何かあるんだろ、あいつと一緒にいる理由。おれと同じ匂いがするよ」

「そうだな。もともと別に、サクヤが好きで、一緒にいるワケじゃなかったんだった」


 せっかく残してくれたので、最後の一切れをありがたく頂く。

 甘くて辛くて、濃厚なそれは、確かに、絶妙のバランスだ。

 イオリが、どんな気持ちで作ってくれたのか、それだけで理解できるような気がした。


 あいつ以外のことは、今でも、こんなに理解できるのにな。


 ――師匠と会う前のことを、思い出すのは久し振りだ。

 アキラの言う通り、オレとこいつには、共通点があるのかもしれない。


「人間はさ、獣人にばかり、酷いことしてるワケじゃなくて、人間同士でも酷いことができるんだ。オレもあんたと同じで、親の顔も分からなくて、いつの間にか、そんな子どもばっか集まってさ。皆で色々計画立てて……今考えると、悪いことばっかりだ。騙したり、脅したり、奪ったり」


 ――今だって、あの頃の仲間の顔を、全部思い出せる。

 中には、いつからかも分からないくらい幼い頃から、結局、最期まで、オレと一緒にいてくれたヤツもいる。


 アキラに話しながら、オレは、あの頃のことを思い出す。

 楽しいこと、辛いこと。

 勝ったこと、負けたこと。

 いつも、一緒だったこと。


 別に隠していたワケではないのだが。

 そう言えば、サクヤにはこんな話、しなかったな、と気付いた。


「そりゃ、おれとどっちがどっちくらいの境遇だな。おれには屋根と食い物はあったけど、自由がないし。あんたは、逆だ」

「そうだな。自由だけは腐るほどあった。自由に色々やって、そんで、最後は大失敗した。街のでかいギャングの取引に、知らない内に片足突っ込んだ。オレ以外は全滅だ。師匠がいなきゃ、オレも死んでた」


 最期まで一緒にいたオレの仲間は、今際のきわに「死にたくない」と言った。

 オレも同じ気持ちだった。


 でも、何もかも全部失って。

 この後、生きるのだって、死んでるようなもんだとも思った。


 仲間達の死体を前にして。

 立ち上がることも出来ないオレと、向けられたたくさんのナイフの間に、割って入ったのが、師匠だった。


「師匠はまるで、日の出みたいだった。赤い髪で、刀がキラキラ光ってさ。ギャング達が何かを言う前に、師匠が駆け抜けたら、後は死体しか残らなかった」


 オレの思い出の中では、そういうことになっている。


 良く考えると、師匠が無敵すぎるとは思うのだが。

 多分、どこか見えない辺りにエイジがいて、自慢の弓を引いていたのだろう。

 そうでなければ、あの大勢のギャング達の前に、生身の身体を晒すなんて、あり得ない。百発百中の弓兵がいるからこそ、安心して、囮役をやったに違いない。


 でも、オレの記憶では。

 師匠の刀の一閃で、全てが片づいたことになっている。


 真偽なんてどうでも良くて、あのとき。

 死にたくない、生きたくない、オレを。

 照らしたのが、師匠の愛刀暁あかつきだったのだ。


「それで、弟子入りしたのか?」

「それで、弟子入りした」


 アキラは、単純だ、とは言わなかった。

 オレが、アキラに言わなかったように。

 きっと、似たような思いのはずだ。


「で、今、その師匠はどこにいるんだ?」

「……サクヤと一緒にいれば、いつか会える」


 もともとは、それが目的だった。

 だから、サクヤがどうだろうが、別にいい。

 ――別にいい、はずだった。


 何で追い掛けられてるかも分からないけど。

 美人の連れなら、いてもいいじゃないかと。

 ついでに、上手いこと足を引っ張ってやれと。

 それくらいのノリだった。


 なのに――。


 ――オレは思考を止める為に、アキラに声をかける。


「もう寝ようぜ。こういうのも夜更かしって言うのか知らないけど、サクヤは、決まった時間になったら、容赦なく起こすぞ」

「ああ、あいつはそういう奴だな。むかつくけど」


 アキラは小さく欠伸をして、立ち上がる。

 さっき自分で指した方へと歩いていく。

 オレも後を追ってみると、いつの間にか、寝袋が2つ用意されていた。


 サクヤの姿はない。

 どこか、見回りにでも行っているのだろうか。

 それとも、顔を合わせたくなくて、自分だけ場所を変えたのか。


 明るくなってから眠るのにも、だいぶ慣れたが、それでも何となく変な感じがする。

 勿論、夜行性だというディファイ族には、これが普通のサイクルなのだろうが。

 隣のアキラは、寝ると言ったら、あっという間に、鼾をかきだした。


 オレはもう何も考えたくなくて。

 頭まで寝袋に突っ込んで、ただ、眼を閉じた。

2015/07/11 初回投稿

2015/07/23 誤字修正

2015/08/06 校正――誤字脱字修正及び一部表現変更

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