表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドッペルゲンガーにアイはない  作者: 氷雨 ユータ
アイを知りたい神の子

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

160/173

死は醜さを引き出す

 朝食をのんびり摂取している場合ではない。残る生存者は直ぐに集会所へと向かい、残り人数の算出を開始した。俺、アイリス、お姉ちゃん、泰河、知信、黒龍、春夏、操さん、母の役割を託された奴、流未。残り十人。

 頼りになる大人は居なくなってしまった。場を仕切るのに値する人間が居るとすればお姉ちゃんを置いて他に居ないが、彼女もまた鳳先生の死亡には動揺を隠せておらず、とてもとても冷静に場を仕切るなど無理難題をと言わんばかりの精神状態だ。瞳が震えるとはこういうものかと感心してしまう。

「……んでよお、やっぱこいつがウツシなんじゃねえのか!? 匠与ぃぃぃぃぃ!」

「―――違うが」

「ああ、タクミは違うよ。こいつの家は何故か外から板で抑え込まれてた。ご丁寧に釘を使ってね。勇兄ぃの所にあった奴かな」

「泰河さん! どうしてこいつの肩を持つの!? こんな奴……こんな奴死んじゃえばいいのに!」

「正しい理由がないと殺せない。この場に居る全員、殺人を見過ごしてきただろ!? せめて道理くらいは持ってないと……俺はどうにかなりそうだよ」

 この場の誰も状況を俯瞰しないので、代わりに整理しよう。俺は素知らぬ顔で合流してきた操さんに板を剥がしてもらい、何とか脱出に成功。その後、それぞれの遺体を確認してからここに来た。元々殺人に躊躇のない俺はともかくとして、鳳先生に懐いていた春夏や露骨に頼っていた泰河では話にならない。布団に包まれた死体をそのままの状態でどうにか担ぐのが限界だった。お蔭で余計な重量を運ぶ事になって、筋肉痛を味わっている。

「…………今回のは、普通じゃない。鏡ゑ戯びとはまるっきり違うみたい」

「ウタヒメ。そんな訳ねーだろ。俺達ゃ今まで何やってたんだよ」

「黒龍君。ウツセミ様は……ううん。管神は三つの決まりを守らせてきたよね。それが、英雄さんの所……」

「俺も詠姉に賛成してる。火の代わりにあったランタン、水桶、布団。全てが破壊されてた。ウツシがあんなことをするとは思えない。俺は今回の参加が初めてだけど、そういう事例があるなら鳳先生や両次さんが言ってても無理は無いからな」

「あんな事、無かったよ!」

 忘れがちだが春夏も前回経験者だ。その彼女が言うからには本当だろうが、真実がいつだってこちらに都合の良いものだとは限らない。ウツシの仕業でないとするなら答えは一つであり、ここに集った以上、議論すべきはそこになる。



「だれがだれをころしたの」



 深い意味は無いだろうが今まで発言を避けてきたアイリスが遂に口を開いた。透き通るような声に魅了されたか、知信はいまいち噛みつきが悪い。

「このひとはちがう」

 この人、とは俺の事だ。ゲンガーな彼女は何処までも俺を人認定してくれる。そこに謙遜は必要ない。かえってそれは嫌味になる。何せゲンガーは絶対に人間ではないし、そんな些細な違いがあった所でアイリスに対する想いは変わらないから。

「いよいよゲームとか関係ない感じだね。タク、ウツセミ様は見てないの?」

「知らないってよ」

「…………へえ」

「それよりもハッキリさせませんか? 鏡ゑ戯びが関係なくなったのなら、『火』や『水』の力というのも用無しの筈。そろそろ本物には名乗り出てほしいところね」

 母っぽい誰かがそんな提案をするも、泰河は遂に名乗り出なかった。どうやら全て死人の中に居る事にしようとしているらしい。どうせ使わなくなった力なら無い事にしておいた方が話が早いのは確かだ。何故ここで開示させる必要があるのやら。それは単純に、まっとうに、話をややこしくするだけだろう。

「これがウツセミ様のゲームじゃないならさ、特に使えそうな情報もない訳だから、せーので決めてみない?」

「絶対こいつ! こいつだもん! こいつなんだって! 操ってば!」

「匠与君は違うって話の流れだったと思うけど、まあそれでもいいか。外の世界じゃさ、こういう時に使うのって証拠とか動機を探してくものなんでしょ? そんなものないし、大体夜は皆寝てるし。だったらこっちのが手っ取り早いんじゃないかって思ったんだけど―――絶賛崖っぷちの君はどう思う?」

 彼女が話を振ってきたのは意図的なものだ。昨晩、俺は詳しい事情を話さずに協力を求めた。その翌日にこのような事件が発生すれば何かしらを勘繰ってしまうのは無理からぬ事だ。余所者とはいえ生存者の中では上から三番目の年長者。これまで特別不審な動きも発言も無かった彼女に異を唱える者はいない。

「捜査が必要だと思います。今から一定時間全員で管神を見て回りましょう。それで得た証拠とかを元に、改めて議論する感じで。それでも決まらなかったら操さんの言った通りで良いと思います」

「にんずうはひとりでいいの」

「二人以上でどうでしょうか。相互監視も兼ねてね。二人一組を徹底すれば丁度五組出来るからそれはそれで丁度いいんですけど」

「仕切らないでよばーか! 死ね! お前が犯人だ!」

 そうは言っても、操さんのやり方は乱暴極まる。せーので誰を殺すか決めるなんて、それはもう要らない子を探してるだけだ。やましい心当たりがある人間なら僅かなりとも考えよう。己が選ばれ、殺される様子を。

 特別仕切ったつもりはないが、制限時間を昼までとして俺達は一時解散の運びとなった。少し格好つけて言うなら捜査開始といった所だ。




 ただし捜査したい場所は決まっているのだが。























 天倉鳳鳳の遺した書物の山は、特に手を付けられた様子もなく散乱している。彼から聞き出さねば情報は手に入らないと思っていたが、持ち主が消えたならむしろ都合が良い。この乱雑な並びに反して本の大まかな分類はきっちりわけているようで、知りたい情報を探すのはそう難しい事ではなかった。

 捜査なんて、どうでもいい。

 知りたい事がある。俺の記憶だけではまだ足りない。どうしても気になっていた事がある。気にしなければならない事がある。それさえ解決してしまえば、誰がゲンガーかなんて直ぐにはっきりするだろう。


 ―――アイリスがゲンガー判定を受けてないのはおかしいけどな。


 そこは気を利かせてくれた可能性があるものの、単に話をややこしくしている。ある程度察しているとはいえやめてほしいものだ。

「ほこりっぽい」

「古本のせいだろうな。アイリス。すまないが管神に関係ありそうなのを一緒に探してくれ」

「わかった」

 それにしても不思議なのは、何故ここまでの書物を用意してあるのかという事だ。鳳先生の為だけにずっとここにあるなんて考えにくい。管神はこの地の歴史を隠すかのように文献を現地で保存しないのだ。不思議でならなかったが、鳳先生から聞いた話が真実なら隠したいに決まってる。だから探すべきはこの地というより地域全体についての歴史。或は個人的な手記とやら。タイトルがない本は大抵それなので分かりやすい。

 それらしき本を見つけたら、互いの背中を壁代わりに寄りかかって読み込む。天倉鳳鳳は現地人以上の知識を有していた。本は飽くまで知識の補完として使っていたくらいで、それは明らかに管神の歴史を頭の中に叩き込んでいる証拠だ。

 つまり彼にとって、この本の山は何の意味もない。気のせいだとは思うのだが、ひょっとしてあの男は自分が死ぬ所まで考慮して、誰かの為に残してくれたのではないか。


 そんな気がしてならないくらい、ピンポイントな知識ばかりある。


「なにがきになるの」

「鏡ゑ戯びの開催数だよ」

「こんかいもいれてさんかい」

「それは本当か?」

 一日目の説明会の時から、引っかかっていた。経験者は両次、お姉ちゃん、春夏、鳳先生。それぞれ二回経験、前々回経験、前回、前回となるが―――流石にそれは、少なすぎる。お姉ちゃんが参加した鏡ゑ戯びは俺が幽閉されていた頃だ。そして前回は俺達がこの地を飛び出してから戻ってくるまでの何処か。



 少なすぎるのだ。



 両次の年齢は知らないが、どう小さく見積もっても六〇後半。六〇数年の間でたった二回は文化としての試行回数が少なすぎる。たった二八年の間に三回もあるのに、こんな事ってないだろう。


『ひとへにしの戯びは御三家の間でのみ開かれた遊びだ。しかし水鏡と火翠が居なくなって三年。それが開かれないともなれば私達はどうなってしまうのか』


 多分、そんな感じの事が書かれている。ひとえにしの戯びとは読んだ限りでは鏡ゑ戯びの原型。詳細は秘密にされていたのだろうが村民の間で知られてはいたようだ。続きの文章を読む感じだと、それが開催されないとウツセミ様の加護が消えてしまうそうな。

 なら間違いない。鏡ゑ戯びはウツセミ様へのおもてなしだ。内々で開かれていたのが民衆へ広まった形が鏡ゑ戯びだと。それを裏付けるが如く、古すぎて半壊した手記には鏡ゑ戯びの結果が記されている。当然だが鏡ゑ戯びは三〇回以上も開催されていた。この手記にはその全て。誰がウツシで誰が死んで、誰がどの力を持っていたかまで全てが記録されている。まさかとは思うのだが、審判が居たのか?

 人の生き死にがかかっているのに?

「これはなに」

「ん? どうした?」

 身を翻し、背中から彼女を抱きしめるように顔を出して、その書物に目を通す。アイリスが手に取った本には出血多量の血文字で、



『偏死の戯び』



 それだけが書かれていた。

「…………ひとえにし、か」

「そうさはいいの」

「どうせ証拠なんて言っても相手がゲンガーなら無いだろうな―――ん?」

 ゲンガーなら無いとはおかしな事を言う。アイツ等は人を殺してもなり替わるだけだ。人を殺して殺しっぱなしが許されるなら、ドッペル団は特別な存在とは言い難い。



 ならば何故、三人も死んだ?


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 理解できそうで理解できなくて、ちょっと理解してる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ