アイを求めて
「たくさんかった」
「正直に言ってお前より重い」
家に戻ったオレ達は収穫品を床に置き、ソファに座った。物色するだけとは一体何だったのか。それは当事者にも分からないので誰にも分からない。アイリスの表情は全く変わらないのだが、とても楽しそうに思えて……勢いでこうなった。反省はしていない。
「ねころがる」
「は? あ、お。ちょ」
寄りかかるのを避けた結果、膝枕のような状態になってしまった。顔を下に向けるとそこには紅く輝く瞳を上に向けたアイリスが横たわっている。至近距離で見つめていると彼女は別次元に美しくて、虜になってしまいそうだ。
―――どさくさ紛れは、無理かな。
『ひじ掛けだと思ったら胸だった』理論で鷲掴んだら、ワンチャンス許してくれる可能性……流石にないか。彼女は顔に現れないだけで感情豊かなのはイヤホンを通しての会話で知っている。静かに上下する胸を勘違いでも触ろうものなら鉄拳制裁待ったなし。ところでオレの見立てによるとGカップ以上は固いのでどうか測らせてはくれまいか。
命が惜しいのでやめよう。
「そんな事はいいとして」
「なにが」
「いや……膝枕は普通逆じゃねと思って」
「きもちいい」
「絶対嘘だな。人の膝の上が気持ちいい訳ない。枕の下位互換だ」
どうしても証明したいなら一回チェンジするしかないだろう……という流れに持ち込みたかったのだが、それをするまでもなく彼女は眠ってしまった。イヤホンを片方だけ外して鎖骨の上に置いている。外套からはだけた鎖骨はどうしてこう官能的なのだろう。
『気持ち良く眠れるでしょ』
「あんまり突っ込まなかったけどこれどういう仕組みなんだ? どうやってオレはお前と喋ってるんだ?」
『気にしないで欲しいな』
気になるよ。
追求した所で教えてくれるとも思わない。そういうミステリアスな部分が女性には必要という事だろうか。マホさん然り、山羊さん……にはミステリアスさなんて一ミリも無かった。ミステリアスというよりヒステリアスは言い過ぎ。そこまでではない。
「花暖とは友達だったんだろ。こういうショッピングはよく行ってたのか?」
『ネイムと行ったのが初めてだけど出来れば行きたかったな』
「そこまで予定が……」
言ってて、原因が自分にあると悟った。オレはあの子が好きすぎるあまり毎日デートに誘っていたし、彼女もそれに応えてくれた。短い交際だったが、そこには凝縮された思い出があまりある程に存在する。
「ごめん」
『そこまで気にしなくても花暖が幸せならそれで良かったよ』
オレも嬉しかった。心の何処かでは何となく迷惑を掛けているのではと考えていたのだ。きっと付き合い始めたばかりの頃でも思っていた。それが杞憂だと分かった今、安心して花暖の事を―――
眠る彼女の黒髪に手を置いた。これがもしあの子の作ってくれた縁ならオレは大事にしたい。何者にも代えがたい大切な繋がりを永遠に。
『ネイム』
「うん?」
『今日は楽しかったよ』
「……オレもだ」
ゲンガーのゲの字も気にする必要はない。オレ達はただ普通に過ごしただけ。ただそれだけなのに、この日常が尊い。関係を壊したくない思いがどんどん強くなっていく。偽物の事なんて忘れて、二人でいつまでも幸せに暮らせたらどれだけ素晴らしいだろう。
『いつかと言わずにまた二人で行こうよ』
「また荷物持ちやらされそうだから即答はしたくないな」
『今度は私が膝枕するから』
「オーケー行こうすぐ行こう今行こう」
俄然やる気になったオレのチョロさにアイリスは呆れたような声をあげた。決してやましい気持ちなどない。膝枕は男女拘らずにそう気持ちいいものではないという説を証明する為に乗り気なだけだ。絶対に下心はない。ないんだって。
『いい顔するようになったよ』
「お前のお陰だよ」
自分でも不思議なくらい、安らいでいる。昨日の精神状態など遠い昔の話だ。オレは今まで、何に縛られていたのだろう。何かに縛られていたとでも思わないと不自然なくらい、以前の自分は窮屈だった気がする。
『花暖がネイムを好きになった理由が分かる』
「それは猛アタックしたからだな」
『そうなんだ』
「……違うのか?」
『多分私と同じ理由だよ』
「ずっと。釈然としないの」
私―――霊坂澪奈は近くのレストランで会議をしていた。ドッペル団の面々―――違う。メンバーの一人である明木朱斗と。
「……澪奈部長もかい」
「朱斗も?」
「なんか安易な気はする。確かにあっちの匠君の行動はおかしいから、どう考えてもゲンガーだとは思うんだけど…………」
朱斗は言葉を発しようと努力していたけど。続く最適な語彙が見つからなかったみたい。運ばれて来た水に口を付けて。気まずそうに言った。
「見分け方があれば。こんな思い。しなくていいんだけど」
目下の問題は。草延匠悟のゲンガー問題。暫定的な本物は町中を捜索中。私達は密かに合流して会議をしている。赤の他人なら気にもしなかったのに。匠悟は……だから。これは私から持ち掛けた会議だ。主導権も私にあるけれども名案は無い。
「―――じゃあ、聞きに行こうか」
「何処に?」
「草延匠悟を一番良く知ってる人に」
「彼のお姉さん?」
「違うよ。まあ後のお楽しみという事でさ。多分今じゃないと聞き出せないだろうね。問題はどうやってゲンガーを……いいや。取り敢えず二人の匠君を本物として拉致するかだよ」
切り方思いつかなかったから短めでもう一回出す。




