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ドッペルゲンガーにアイはない  作者: 氷雨 ユータ
禁じられた名

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115/173

虚像意識

 ドッペル団。

 それは歴史の陰に暗躍し続けていた()()()()。最近まで 『死』が本物とされていたのは人類の歴史が始まったと同時に生まれた彼らの手によるものだ。彼等の思想や動機は不明だが、しかし全世界に何世代にも渡って受け継がれていくその役目はさながら人類を表とするなら裏の存在であり、あらゆる手段を尽くして人の命には終わりがあるという虚像を植え付けた事は人類に対する最大の裏切りだ。

 老衰も戦争も病気も事故も全ては彼等の仕業によるもので、実は色々な国が水面下でドッペル団を殺す為に捜索の手を広げているものの、その足取りはまだ掴めていない。


 …………。


 テレビで陰謀論を流すなとか、専門家に殴られそうな意見だとか。色々言いたい事はあるのだが、それよりもまず声を大にして言いたい。

「何もかも押し付けすぎだろ……」

 理屈は分かる。『死』が嘘なのに病死や事故死や老衰死だけは起こりますでは筋が通らない。一度殺人罪を着せたからには他の罪も着せなければおかしくなる。それ自体は分かるが、果たして全ての悪を引き受けるドッペル団とは何処までの組織なのか。俺達は全員で互いの顔を見合わせた。

「……匠悟。あの名前」

「もしかして何処かからパクった?」

「んな訳あるか! テスト終わりに設立された組織なのに何で勝手に歴史を作られなきゃいかんのか俺だって知りてえよ」

 ドッペル団の真実は、テストの打ち上げで焼き肉に行った際に考えた名前だ。人類創生から存在した組織でもなければ、組織から通達があった訳でもない。考案者は俺。二〇年も生きてないような若者こと俺。

 仮に。仮にだが、ドッペル団が今言われた通り役目を次世代へと引き継いでいく方式だったとしよう。それでたまたまドッペル団のリーダーから俺が任命されたとしよう。


 

 所属者三名というのは組織としてどうなのだろうか。



 秘密結社と言われる組織の全てに言えるだろうが、流石に二桁以上の人数はいる。世間に認知されるだけの秘密結社なら三桁四桁と増えていくだろう。これでは世界どころかこの国、この地域の人間すらまともに相手出来るのかも怪しい。

 個人の見解だからと言って好き放題言うのは違うだろう。仮にも情報番組に出るようなコメンテーターならもう少しまともな意見を言ってほしかった。ネットでも俺達と同じ反応をする人間がちらほらと見えるが、それは決して仲間ではない。荒唐無稽な主張について一言モノ申しているだけであり、ドッペル団の存在自体は肯定しているからだ。しかもその認め方が変わっていて、世界はまだその組織を認識出来ていないと。


 ―――え? じゃあどうしてお前は知ってんの?


 というツッコミは野暮だろうか。このアカウントが自分で自分を世界で一番の情報通だと思っている人間の可能性があるから他のアカウントも見てみたが、それで一つ分かった事がある。全員ニワカだ。

 作られたばかりの組織にニワカもクソもないが、よくもまあ根拠のない言い分に根拠のない言い分を被せてさもそれが事実であるかのように語れる。自分は強力な証拠を持っていると言いたげに、証拠を見せろと言われればドッペル団に消されるから駄目だとも。

 パッチワークの嘘に説得力は微塵もない。問題はそんな継ぎ接ぎな嘘を多くの人間が発信している事だ。医療従事者くらいには否定してほしかった。病死や老衰死は実在すると声高に言ってくれれば良いものを、訳の分からない発言をする多数派に迎合するとは見損なった。

「実体とは別にイメージだけが膨らんでるね。こんなの普通じゃあり得ない」

「それはゲンガーも一緒だ。それで一つ思ったんだが多分この噂を広めたのって」

「ゲンガーだろうね。実際のドッペル団は海外まで手出し出来ないからあっちはもう増え放題だ。尤も人口は一人とて減っていないと思うけど」

「何でゲンガーが。こんな事。するの?」

 何故か。

 それを言い出したらゲンガーがなり替わる理由も分からない。朱斗もよく分かっていないのでこの世の誰も詳しい事は何も知らないのではないだろうか。ただ一つ分かるのは侵略だけ。されるがままは嫌だから俺達が抵抗している。こればかりはゲンガーの正体から解明しないとそもそも推察のしようもない。

「そもそもゲンガーって何体居るんだよ」

「そんなの僕に聞かないでよ。世界全体に広がってるんだからとてつもない数が居るに決まってるさ」

「そうじゃなくて、元々だよ。人口と全く同じ数居たら初手で詰むだろ」

 最大数だと最初から終わっているからあり得ないとしても、それ以外のどんな数でも辻褄が合わないのがゲンガー最大の難所だ。アイツ等が一〇〇体居て、一〇〇人分なり替わったとしても後続はどうする。ここの回答は主に二つ。


 ゲンガーは人為的に生み出せるか。

 ゲンガーなんてそもそも存在しないか。


 前者は分かるだろう。無いなら作ればいいだけの事。生みの親がオリジナルゲンガーなのか人間なのかは分からないが、そうして増やせるならこの問題は解決するし、生みの親が居るならそいつさえ消せばこれ以上増える事はないので侵略は一応阻止した事にもなる。問題はゲンガーの存在が科学的ではないという事か。

 後者は、俺達の大義名分を消す考えだ。だから今はしたくない。簡単に言えばさっきの報道の通り、ゲンガーとは特定の役割を担った人間であり、超常現象や怪奇現象の類ではないという事。全く同じ顔の人間が二人いるのも、この世には整形手術という便利なものがあるので誰でも可能だ。お金さえあるなら。

 ただ、こちらはこちらでそれならどうして姉貴やマホさんが知っているのかという問題がある。テレビの通りとまでは言わないが危ない組織の人間ならどうでもいいで片づけられまい。



 美子……。



「もう……埒が明かないな。ちょっと昼飯でも買ってくるか。つー訳で朱斗。付き合え」

「ええーお弁当も一人で買えないの?」

「ああ、買えないんだ。だからついてきてくれよ」

 朱斗は怪訝そうに俺を見つめ、頷いた。

「……分かった。じゃあ澪奈は僕達が返ってくるまでの間に今までの事を纏めておいてよ」

「ええ。分かったわ」




















 燦燦と降り注ぐ光が俺達を照らし、コンクリートを焼き上げる。気温は三〇度を超えており、帽子や日傘を駆使せねばその場で干上がってしまいそうだ。お風呂の温度より低いと考えれば如何にも涼しそうだが、水温と気温は多分違う。熱の伝わり方とか。

 少し遠くに目を凝らせば陽炎が見えるのではないか。そんな風に思ったが、これでも前年比では涼しい方らしい。誤差レベルだ。

「あーっついねえ。黒い服しか持ってなかったら死んでた」

「体育祭とかで先生が被ってる黒いキャップとか触ると尋常じゃなく熱い時あるよな」

「水掛けたら蒸発しそうなくらいのね。あったあった」

 相変わらず男装を続ける朱莉は男物のYシャツを着ており、女性らしい色気など微塵もない。性別を誤魔化したい彼女にとってそれは誉め言葉かもしれないが、たまに一貫性がブレて雑になるのでいっそ開示してしまっても良いような気もしている。

 何やらドッペル団がとんでもない組織になりつつあるし、それに比べたら些細過ぎて全員が流したとしても無理はない。

「話があるんでしょ」

「すまんな。つまらん嘘に付き合わせて」

「いいよ。君と私の仲じゃないか」

 クラスメイトを除けば、彼女だけが中学からの付き合いだ。他の人間は親交も浅かったし今はゲンガーかどうかも分からない。そういう意味では唯一という言い方も出来る。


 ―――何で昔の俺は気付かなかったんだろうなあ。


 朱莉は中性的だ。男にも見えるし女にも見える。どちらにしても美形でやや童顔。しかしながら中学の頃のスキンシップはもっと激しかった記憶がある。当時は男友達だと思っていたから気にしなかったが…………考えれば考える程、身体を触れば女の子だという事くらい直ぐに分かりそうな気もしている。

 制服のお陰とは言うが、釈然としない。 


「お前、何か隠してないか?」


「何かって?」

 飽くまで平然と尋ね返す朱莉。やましい事など無いらしい。

「隠子で立ちションしに行った時、お前もついてきたよな」

「うん。軽犯罪を見過ごす訳にもいかないからね」

「殺人を取り締まれよ―――なあ朱莉。あの時のやりとり覚えてるか?」



『私、一つ思うんだけどさ―――噂は飽くまで噂で、いッ君は利用しようとしてるんじゃない?』

『噂が嘘なら死ぬのもあり得ない。警戒心が消えた所で一気になり替わるつもりか……回りくどくないか?』

『……え? 何で?』

『ゲンガーなんて元々存在知られてないんだからこんなサディスティックな真似する意味がない。でもまあ、噂を利用するつもりなのは確かだな』

『……ええと、忘れてるかもしれないけど、本物の人となりも知らずになり替わったら山本君みたいになるからね?』



「噂を噂のまま利用する可能性。お前はそれについて伝えてきたし、実際そうだったかもしれない。俺達が乗っ取らなきゃな。でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 噂を噂のまま利用する。つまりあの場の全員を神隠しに遭わせないといけない。それはたった一人のゲンガーで行うのは不可能で、もし実現させるならゲンガー同士で協力しないといけない。しかしゲンガーは互いの正体を見破れない。ならばどうやって協力したのか。


 正直に言おう。あの瞬間に俺が確信したのはこちらだ。朱莉は嘘を吐いていたと。


「お前が犯人とは思っちゃいないが、正直に教えてくれよ。ゲンガーは本当に互いの正体を見破れないのか? もし見破れないならどうしてお前はゲンガーは協力してると言わんばかりの発言をしたんだ?」

「気にしすぎじゃない? 私は何となく」

「朱莉」 

 名前を呼んでみる。心を込めて、友情を込めて。同じドッペル団の仲間として。親友として。彼女は少しだけ俯いたが、その沈黙も長くは続かなかった。「分かったよ」と言うと、周囲を確認してからボソっと囁いた。












「ゲンガー同士は見破れない。でも、連絡を取り合うだけなら可能っぽいんだ。どうやってかは知らないけどね」

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