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異世界の魔法言語がどう見ても日本語だった件  作者: トラ子猫
第二章:冒険者編(少年編)
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不満、そして懸念と心配

 シエラと共に、食堂も兼ねた居室(リビング)へ入る。


 メイファンがすでに席についていた。


 入室した俺とシエラに、メイファンが視線を向けてくる。


 首を傾げた。


「あれ? ミィルさんは来ないんですか?」


「……ああ。あいつは、その」


「わたしの料理なんか食べたくない、だって」


 拗ねた口調でシエラが言う。


 どうやら、ミィルが夕食を断ったことに対しかなりご立腹らしい。


 シエラへとメイファンが話しかける。


「シエラさん、どうかしたんですか?」


「……あの女。夕食はいらないって」


「ミィルさんがですか?」


 メイファンも不思議そうな顔をした。


 普段のミィルはよく食べる。ましてや、ダンジョンから戻ってきたばかりだ。


 冒険者稼業はとかく体力を使う。冒険者の中には、食わないやつから死んでいくなどと嘯く人さえいるほどだ。


 だからこそ、ミィルが夕食を断ったなどというのはメイファンからしてみれば想像すらしていない出来事だったに違いなかった。


「ミィルさん……もしかして体の具合が悪いのでしょうか?」


「どうせわたしが作った料理なんて食べたくないだけですよ。あの女、わたしのことなんて嫌いなんです。わたしだってあんな泥棒猫なんて嫌いだけど」


「そうふてくされるなってシエラ。あいつはお前のこと嫌ってなんかないし、それにお前が作る料理は絶品だ。理由もなく、ミィルがいらないなんて言うわけないだろ」


「……でも、わたしだってせっかく一生懸命作ったのに」


「ああ。最近はシエラの料理があるから、俺やメイファンは前よりもっと頑張れるんだ。ミィルだって、きっと気持ちは同じだよ。……でも、今はあいつも色々あるんだよ」


 今日のことはミィルにとっても衝撃だったに違いない。


 だからこそ、あいつにも落ち着く時間が必要なのだと俺は思った。


「そうですよ、シエラさん。ミィルさんは、シエラさんの料理も、シエラさん自身のことも、きっと好きに決まってます!」


「……メイファンさん」


「それにですね、シエラさん。『わたしなんかが作った料理』なんて言っちゃダメですよ? ボク、シエラさんの料理の大ファンなんですから、そんなふうに言われると悲しいんですよ?」


 メイファンがシエラに向かって優しい口調で微笑みかける。


 すると、先ほどまで浮かない表情をしていたシエラが、その面持ちに照れと反省の色を浮かべた。


「うん。……ごめんなさい、メイファンさん。わたし、もう『わたしなんか』なんて言いません」


「はい。そうしてくれると、ボクもとっても嬉しいです」


 落ち込んでいた気分も多少は持ち直したのか、メイファンの笑顔につられてシエラの顔つきも少しばかり明るくなっていた。


「それじゃあわたし、お夕飯の準備してくるね! おいしいの用意してあるから、楽しみにしてて!」


「ええ、とても楽しみです」


「そうだな。俺もいい加減、腹が減って仕方がなくなってきたところだ」


 台所のほうへ向かって駆けていくシエラを、メイファンと二人で俺は見送った。


「……それにしても、ミィルさんは本当に大丈夫なのでしょうか?」


 シエラの背中が台所へと消えたのを確認したところでメイファンが話しかけてくる。


 俺は首をひねった。


「……さあな。ただ、ボアベアとの一件を重く受け止めすぎているように俺には見えたな。正直、どういう言葉をかけてやればいいのかも分からなかった」


「そうですか……」


 ミィルがすぐに持ち直せばなんの問題もない。


 ところが、悩みというのは気持ち一つでどうにもならないから拗れてしまうわけで……。


 ミィルの悩みはどうなるものか、今の状況では予想することなどできなかった。


「まあしばらくは見守ってやろうぜ。俺も注意して見てるからさ」


「そうですね。ボクは前で、ジェラルドさんは後ろで、ミィルさんのサポートをするようにしていきましょう!」


「ああ。そうしよう」


 道場を取り戻して以来、メイファンの実力は着々と伸び続けていた。


 今では、出会った時の頼りなさなど想像もつかないほどであった。


 単純な戦闘力だけならもはやミィルだって抜いている。


 前衛として(タンク)役を安心して任せることの魔拳士だった。


「あ、兄さん。ちょっといい?」


 俺とメイファンが今後の方針を固めたところで、ひょいとシエラが台所から顔を出す。


「カッサンドラさんがまだ二階にいるから、そろそろ夕飯になるって声かけてほしいんだけど、いいかな?」


「ん? ああ……」


 カッサンドラさん、ちょっと苦手なんだよなあ。


 あの探るような目つきとか、俺に向けてやけに胸元を強調してくるところとか。


 ……ま、ご飯になるというのなら、声をかけないわけにはいかないだろう。


「いいよ。行ってくる」


「ありがとー、兄さん。とっても助かる!」


「おおげさだなあ」


 俺は二階へ続く階段へと足を向けた。

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