梶原景時最悪な日
「最悪だ」
私は、この曇天を見上げて呟く。
最悪だ……
そうして、心の中で、もう一度。
見るからに、完全な『嵐』である。
「殿、やはりおやめください。この嵐の中海を渡るなど不可能です!」
「何を言うておる梶原。今進まずいつ進むのだ」
「それは……この嵐が過ぎてからでも遅くはないでしょう……!」
「それを逆手にとるのだ。誰もがこの嵐の中、海から攻めてくるなどと思うまい。それは平家とて同じこと」
「……ですが」
「私に続く者は共に来い!屋島を打ち落とそうぞ!」
「殿!」
私はどうにかやめさせられないかと思案するも、この殿……源九郎義経は一度こうと決めたら曲げない、頑固なところがある。
「梶原……お主は来なくても良い」
「……っ」
「そんなにも己の命が惜しくば、ここで指を咥えて見ておれ」
「……なにを」
「この海を渡るは少数精鋭。この嵐に乗じて一気に海を渡り、平家を叩く」
「……」
そんなこと、叶うものかと殿をにらみつける。
だが……この者ならやってしまいかねない不気味さを携えている。
「では、参ろうか」
私は……たまらず、激しく嵐吹く空を見上げた。




