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ラエムシティ 罪と業に染まった街  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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任務完了

 この計画……カイザー・グロウ作戦は次のようなものだった。

 小林は、剛田が真琴とナタリーに目を付けていることを知っていた。また、自身が剛田の部下に尾行されていることもわかっていた。さらに、加納らの部屋に盗聴器が仕掛けられていることも知る。

 かなり不利な状況である。だが小林は、その不利な状況を上手く利用した。




 まずは、真琴とナタリーには何も知らせず、そのまま剛田との接触を続行してもらった。ここで、ふたりにドタキャンなどされると、剛田にこちらの意図が感づかれるかも知れない。

 結果、真琴とナタリーは囚われの身となる。危険な状況に置かれるが、命までは奪われまい。しかも、ふたりは必ず秘密の隠れ家に連れて行かれるはずだ。そこに、加納の母もいるだろう。小林は、そこに賭けたのだ。

 続いて、プラスチック爆弾による自決……を装った爆破である。小林が死んだことにより、加納と木俣は仲間を見捨てて逃げ出した……はずだった。現に、盗聴していた部屋からは、そのような会話が聞こえていたのだ。

 剛田はともかく、少なくとも街にいる手下たちの気が緩んでいたのは間違いない。


 ところが、ここから状況は急転直下した。

 どうやって調べたのか、剛田の根城を加納が訪問する。もちろん、小林が加納に教えたのだ。真琴とナタリーが、囚われの身になったことにより得られた値千金の情報である。

 もっとも、そんなことを剛田らは知る由もない。何の武器も持たず、たったひとりで現れた加納に、さすがの剛田も完全に意表を突かれた。

 さらに、街中では田淵が自動小銃を撃つはロケットランチャーぶっ放すはの大暴れである。剛田は、動ける部下のほとんどを、そちらに回さざるを得ない。

 直後に現れたのは木俣だ。剛田と真正面から殴り合い、ノックアウトしてしまったのである。剛田にとって、初めての敗北だ。

 剛田にとって、敗北の味はどんなものだったのだろう。優れた人間なら、その敗北を糧にし、さらなる飛躍のきっかけに出来る。だが、剛田にそんな時間は与えられなかった。

 続いて登場した小林は、容赦なくトドメを刺してしまった──




 来夢市の事件から、ちょうど一週間が経った頃。

 小林は、ヘラヘラした態度で加納の事務所へと入っていく。今回の件の報酬を受け取るためだ。しかし、途端に顔が引きつった。

 事務所には、加納と木俣、それに真琴とナタリーがいる。加納以外は、今にも人を殺しに行きそうな怖い表情を浮かべていた。

 その殺意を秘めた目線は、小林に向けられている──


「み、皆さん、どうかしましたか?」


 おずおずと聞いてみたところ、まず口火を切ったのは木俣だった。


「小林……悪いけどな、一発だけ殴らせてもらうぞ。顎を引いて歯を食いしばり、腕で顔面ガードしろ。それでも、腕は折れるかも知れねえけどな」


 言った直後、木俣は拳を振り上げた。その表情を見るに、本気で殴るつもりだ。

 小林は、慌ててかぶりを振る。


「待ってくださいよ! 死んだらどうすんですか? だいたい、なんで殴られなきゃいけないんですか?」


「俺たちまで騙しやがって! てめえを殴らねえと気が済まねえんだよ!」 


 吠えると同時に、木俣のパンチが放たれた。小林は咄嗟に顔をガードしたものの、思い切りブッ飛ばされた。床に倒れ、呻き声をあげる。

 それでも、木俣は収まらないらしい。


「てめえなぁ、あんな作戦たてたなら前もって言えやぁ! 俺がどんな思いで電話きいてたか、てめえわかってんかぁ!」


 吠える顔には、未だに包帯が巻かれ絆創膏が貼られている痛々しい姿だ。そんな状態たが、小林のことを殺すくらいは簡単に出来るだろう。


「す、すみませんでした」


 仰向けの状態ながら、慌てて謝る小林。だが、次の攻撃がきてしまった。


「あたしも怒ってるんだよぉ!」


 声と共に、飛び上がったのは真琴だ。次の瞬間、倒れている小林にヒップドロップが炸裂する。

 当たったのが顔面ならば、ある種の人々には御褒美になっていたのかも知れない。しかし、彼女の尻が着地したのは腹だった。小林の口から、また呻き声が漏れ表情が歪んだ。かなり効いたのだろう。

 しかし、まだお仕置きは終わらない。真琴は馬乗りの体勢で、小林の襟首を掴み顔を近づけた。


「どんな神経してんだよぉ! あんたが死んだって聞かされて、あたしがどんな気持ちだったかわかってんのかよぉ! また同じことやったら、今度はタマを踏み潰すからな! 去勢だ去勢!」


 耳元で怒鳴った後、真琴は立ち上がる。


「木俣さん! すっげームカつくからパフェでも食べに行こ!」


「おう、食べに行くか! 加納さんも、すぐに来てくださいよ!」


 言ったかと思うと、ふたりは怒りも露わに連れ立って出ていった。


「あいててて……それにしても、あのふたり、いつの間に仲良くなったんです?」


 顔をしかめ立ち上がる小林に、ナタリーが苦笑しつつ近づく。


「君という共通の敵が出来たことが、原因かもしれないな。ただ、今回ばかりはやり過ぎの感があったぞ」


 言いながら、小林の肩に軽くパンチを入れた。食らった林は、ペコリと頭を下げる。

 映画『ユーフォリア・サスペンス』に登場する伝説の悪党カイザーグロウ……だが映画のラストにて、そんな者は実在しないことが明らかになる。伝説も、詐欺師によって作られた話だった。この話題は、公園にて加納に話した際に出たものだ。木俣も隣にいたし、聞いていたはずだ。

 そして電話で小林は「飼い猫のカイザーグロウの世話を頼む」と言った。カイザーグロウは実在しない者である。つまりは、この話も全て嘘という意味を込めた。

 常人ならば、数日前の雑談に出てきた映画の登場人物の名など、いちいち覚えていないだろう。ましてや、あの短い時間でこちらの意図を完璧に読み取り、それに合わせた演技など不可能だ。

 しかし、小林は加納を信じた。あの男なら、必ずやってくれる……と。そして加納は、小林の期待に完璧に応えてみせた。


「ところで……あの騒ぎだが、まさか君が仕組んだことではあるまいね?」


 不意にナタリーは、低い声で聞いてきた。同時に、表情も変わっている。目には、冷ややかな殺意が浮かんでいた。室内の空気が、一瞬で変わる。

 あの騒ぎとは、もちろん田淵の起こした事件のことである。彼女は、ああいった無差別テロが何より嫌いなのだ。あの騒ぎを仕組んだのが君なら、今すぐ殺すという意思表示だ──


「いいえ、違いますよ。私は、せいぜい端役ですね。この台本を書いたのは、ペドロです」


 言いながら、小林はすぐさま飛び退いた。

 ナタリーは、戦闘モードを崩さず睨みつけている。が、迷いもあるのは明らかだ。彼の言ったことが本当なのか、計りかねている。

 その時、加納が口を挟む。 


「僕と木俣も、来夢市でペドロと名乗る人物と接触した。僕も、あいつが糸を引いていた気がするね」


 穏やかな口調で言いながら、両者の間にさり気なく体を入れる。

 すると、ナタリーは目を逸らしソファーに座る。どうやら、戦闘モードは解除されたらしい。小林はホッとしつう、加納に向かい口を開く。


「ラエム教は終わりですよ。田淵を拳銃で射殺したシーンが撮影されちまいましたからね。しかも、剛田の所にいた奴隷たちも解放されました。あいつのやったことは、全て明るみに出ています。今、ラエム教は信者からのクレームやマスコミからの取材対応に追われていますよ。もう、長くはないでしょう」


「では、君の念願も叶ったわけだね」


「そうですね。出来ることなら、猪狩寛水のドテッ腹に銃弾をぶち込んでやりたかったですが、その必要もなさそうです」


「そうだね。まあ、今さら君が手を降すまでもないよ。さて、僕らも木俣たちと合流しようか」


 言った後、加納は物憂げな表情で溜息を吐いた。


「それにしても、あのペドロという男……出来ることなら、もう一度会ってみたいものだね。彼なら、僕に本物の恐怖を教えてくれるのかもしれないな」




 






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