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虐げられた男装令嬢、聖女だとわかって一発逆転!~身分を捨てて氷の騎士団長に溺愛される~  作者: 久遠れん
第二章

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第七十九話・夜会の華

 たくさんの話し合いの結果、王太子の座はエクセンお義兄様からデュールお義兄様へと戻ることになったと聞かされた。


 エクセンお義兄様自身が、王太子の座にあり続けることを固辞したのだそうだ。


『罪人の息子が玉座に座るなど、そんなことはあってはならない』


 それがエクセンお義兄様の言い分で、デュールお義兄様は難色を示したそうだけれど、陛下を含めて事情を知る重鎮たちから説得され、王太子の座に返り咲いた。


 普通、王子が二人いれば王太子の座を巡って争いが起こりそうなものだが、その点お義兄様たちは仲が良いのもあって、かなり穏便に話は進んだと聞く。


 第二王妃様は北の果ての修道院に送られた。


 自白剤の効果が切れた後は、最後まで罪を認めず抵抗したというが、陛下も周囲も決して第二王妃様の言葉に耳を傾けなかった。


 実は陛下がデュールお義兄様の伝手を使って呼び寄せた呪術師の老人が、第二王妃様の部屋から呪術の痕跡を見つけ出したことが、最後の決め手になったらしい。


 色々な話がまとまるのに、約一か月がかかった。


 王太子の座を動かすのは、それだけ大変なことなのだ。


 そして、今日は王太子に返り咲いたデュールお義兄様のお披露目の夜会が開かれる。


 私は今度こそパシェン様にエスコートを断れることもなく、朝からずっと準備をしていた。


 念入りに入浴して、隅々までメイドたちに磨かれて、お風呂を上がれば肌の保湿をして、やることはとにかくたくさんある。


 事前に決めていた新しいドレスに袖を通して、髪を結い上げてもらい、化粧を施してもらって、準備完了。


 軽く胃にものをいれることも忘れない。空腹のまま夜会に行ってはいけないと、私も学んだので。


「リーベ、今日も綺麗だ」

「ありがとうございます、パシェン様」


 迎えに来てくれたパシェン様に褒められるのはかなり嬉しい。


 私は差し出された腕に手を添える。


 廊下を夜会の会場へ向けて歩きながら、他愛のない会話を交わした。


「私はデュール王子を誤解していた。謝罪しなければ、と面会を申し込んだんだが、断られてしまったんだ」

「デュールお義兄様、いますごく忙しそうですから」

「そうだな。今までできていなかった王太子教育がすごいスピードで進んでいると聞いた」

「はい」


 デュールお義兄様はエクセンお義兄様が王太子になるまでは帝王学の勉強をされていたらしいが、呪いによって身体を壊したことで帝王学の勉強は滞り、そのまま王太子の座が動いたことで、勉強は打ち切られていたらしい。


 いまはその遅れを取り戻すべく、勉強漬けの日々を送っているという。


 勉強に関する忙しさでは、恐らく私を上回っている。


「帝王学以外も正妃様が生き生きと指導をされていると聞きました」

「あの方は、誰かに物事を教えることを得意とされているからな」

「はい。私もたくさんご指導いただいています」


 帝王学が最優先だが、それ以外にもデュールお義兄様が学ぶべきことはたくさんあるらしく、正妃様はそれはもう嬉しそうに勉強のスケジュールを組んでいる。


 ちらりとスケジュールをみせてもらったが、私だったら泣き出してしまいそうなハードさだった。


 だから、実は私も最近は会えていない。


 お茶くらいしたいなぁとは思うのだが、忙しいデュールお義兄様のことを思うと、言い出せずにいるのだ。


「今度、みんなを集めてお茶会ができればいいですね」

「みんな、とは」

「私とパシェン様と、アミとクルール様と、デュールお義兄様とエクセンお義兄様です」

「すごいメンバーだ」


 苦笑を零した姿に私はからころと笑った。


 確かに、私やパシェン様、デュールお義兄様とエクセンお義兄様は当然ながら、アミとクルール様だって、貴族社会ではそこそこの地位を持っている。豪華なメンバーであることは否定できない。


「ああ、お茶会といえば、今度の四大公爵家のお茶会に、リーベをパートナーとして連れていきたい」


 四大公爵家のお茶会は、その名の通り四大公爵家の公爵たちが情報交換をする場だ。


 それぞれ妻や娘や息子を勉強のために同伴することがあると聞いたことがある。


「よろしいのですか?」

「ああ。ベーゼ公爵令嬢がいたからリーベを呼ぶのは避けていたが、いまはその必要もなくなった」


 なるほど、私に気を使ってあえて誘わずにいてくれたのだ。


 そういえば、ベーゼ様にも処分が下された。


 呪いの品に手を出したことは看過できない重罪とされ、第二王妃様に従う侍女として一緒に修道院送りになったはずだ。


 第二王妃様とベーゼ様が送られた北の果ての修道院は、一度入れば出ることは決してできない監獄のように厳しい場所なのだ、と先日のお茶会でアミが教えてくれた。


 もう二度と悪さは出来ないわね、と肩を竦めていたので、よほどの所なのだろう。


「さあ、ついた。準備はいいか?」

「はい、パシェン様」


 話している間に夜会の会場の前の前についていた。


 私に確認を取ったパシェン様が会場の前の扉を警備する騎士たちに視線を送る。


 騎士たちは静かに会場の扉を開いた。


 煌びやかな空気が肌に刺さる。少し前とは違って、私の悪評も随分と落ち着いたはずだ。


 だって、悪評を流していたベーゼ様がもういないから。あとは自然に噂が薄れていくのを待つしかない。


 一歩、前に踏み出す。


 パシェン様と共に、私は笑顔を浮かべて、夜会の会場へ足を踏み入れる。


 さあ、今日も夜会の華として、見事役目を演じてみせましょう。




 これは、すれ違って傷つけあって。


 それでも互いを愛する、恋人同士の愛の物語。





これにて『虐げられた男装令嬢、聖女だとわかって一発逆転!~身分を捨てて氷の騎士団長に溺愛される~』完結となります!!


番外編を3話ほど更新しますので、そちらも読んでいただけたら嬉しいです。



面白い!  と思っていただけた方は、ぜひとも

お気に入り登録、☆やコメントをたくさん送っていただけたら、大変励みになります!



次のお話もぜひ読んでいただければ幸いです。

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