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虐げられた男装令嬢、聖女だとわかって一発逆転!~身分を捨てて氷の騎士団長に溺愛される~  作者: 久遠れん
第二章

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第七十四話・国王の判断

「この騒ぎは何事だ」


 場を収めるために声を発したのは陛下だった。


 ずっと黙って状況を見守っていた陛下の一言に、私たちは揃って身体を向けそれぞれ淑女の礼と紳士の礼をとった。


「御前を騒がせてしまいましたこと、謝罪いたします。父上」


 顔を上げたデュールお義兄様の言葉を受けて、私たちもそっと顔を上げた。


 ベーゼ様もさすがに陛下に逆らう気はないのか、大人しい。


「事情を説明せよ。デュール」

「ことの発端は、こちらにおられるベーゼ公爵令嬢がリーベ宛てに呪いの品を贈ったことです」


 そっと様子を伺うと、顔面蒼白になっている。それはそうだ。


 仮にも王家の一員である私を呪ったなど、処罰が下らないはずがない。


「初めはバレッタでした。メイドを使って届けられた品はパシェンからの贈り物だと偽装され、リーベの手に渡りましたが、リーベは聖女です。触れただけで呪いを無効化し、事なきを得ました」

「ほう」


 興味深そうに頷いた陛下に、さらにデュールお義兄様が言葉を続けた。


「二度目は床に落ちている、このネックレスです」


 そう告げてデュールお義兄様が身体を屈めて、ネックレスを手に取る。


 ぎょっと目を見開いたのはベーゼ様だ。


 だけど、すでに呪いが解けてただのネックレスになっている品だから、触れても問題はない。


「ベーゼ公爵令嬢は取り巻きの令嬢を使って、リーベの友であるアミ伯爵令嬢へ『リーベ宛てのプレゼント』として贈りました。パシェンの名を使ったバレッタが失敗したからです」

「なるほど」

「唐突な贈り物を不審に思ったアミ伯爵令嬢は品を改めるためにネックレスに触れ、昏倒し意識不明となっておりました。――ですが、リーベが聖女としての力を使い、見事呪いを打ち払ったのです。すぐに呪いも解け、陛下がご覧になっているように回復いたしました」

「アミ伯爵令嬢、まことか」


 陛下の視線がアミに注がれる。緊張を表情に出しつつも、こくりと頷いてその場に膝を折った。


「本当でございます。女神デーアと家紋に誓います」


 祈る体勢は誓いの証だ。


 私も前回の元お父様の断罪の折にしたけれど、この国では女神と家紋に誓った言葉に嘘偽りは許されない。


 発覚すれば、その場で死罪だ。


 だからこその重い言葉。ベーゼ様は唇を噛みしめている。


 握り締められた拳が震えているのが、私からもわかる。


「では次にベーゼ公爵令嬢、其方の言い分を述べよ。女神と家紋に誓って、嘘偽りは許されぬ」

「わ、私、は」

「一度も嘘を申さず罪を認めるならば、トイフェ公爵家の取り潰しは考え直しても良い」


 陛下のその言葉がトドメとなった。


 ベーゼ様はその場にへなへなと座り込んで、俯いてしまう。


 一言も言葉を発することなく沈黙した姿を暫く眺めていた陛下が、おもむろに口を開いた。


「トイフェ公爵、其方の娘の愚行、どう贖う」


 白羽の矢が立ったのは夜会に出席していたベーゼ様のお義父様――トイフェ公爵だ。


 人がさっと避けるように動く。


 突然場に引きずり出されたトイフェ公爵は、けれど落ち着き払った表情で口を開いた。


「愚かな娘ですが、我が娘でもあります。陛下の処罰は、なんなりと」


 そう告げて頭を下げた姿は潔い――と、いうわけではない。


 この場で下手に反論することが、いかに危険かを熟知しているのだ。


 すでに場の空気はベーゼ様の味方が一人もいないことを示している。


 娘だから庇いだてをすれば、トイフェ家の取り潰しだけではなく、父であるトイフェ公爵の首も飛ぶだろう。


 とはいえ、トイフェ公爵家は四大公爵家の一角だ。


 陛下としても、簡単に取り潰したくはないはずで、それを察しているからこそ、従順に娘を差し出す決断をした。


(お父様の時と同じ、四面楚歌ね)


 一番の味方のはずの父君から見捨てられ、私を敵に回したことで連鎖的にパシェン様やデュールお義兄様も敵に回した。


 面白半分で見物している貴族たちが味方になるはずもなく、陛下からの処罰は目の前だ。


 項垂れて動かないベーゼ様を哀れだとは思う。


 恋に目が眩んだ。ただの恋する乙女だった。


 けれど、だからといって手段を間違えた。


 私を呪い殺そうとなどせず、家の力を振りかざすこともせず、正面からアタックするべきだったのだ。


 それでパシェン様が振り向いたかどうかはさておき、こんな結末に至らなかっただろうことは想像がつく。


 少しの憐憫を込めて私は視線を送った。


 ベーゼ様は小さく肩を震わせていた。


 それでも、涙も零さなければ、泣き言も漏らさない。そこに、公爵令嬢として教育された矜持が見え隠れしている。


「この件は後ほど儂が判断を下す。デュール、リーベ、一旦下がるがよい」

「はい」

「畏まりました」


 紳士の礼をしたデュールお義兄様の横で私も淑女の礼を取る。


「エラスティス公爵、アミ伯爵令嬢、オンブレ伯爵家の三男は判断に任せる」

「私も下がらせていただきます、陛下」

「わたしも御前を失礼いたします」

「私も失礼いたします」


 パシェン様、アミ、クルール様がそれぞれ陛下に礼をした。


 陛下は全員が下がる意思をみせたことを確認し、一つ頷く。


「他の者は好きに過ごすが良かろう。ベーゼ公爵令嬢は、そうだな、そこの騎士が連れて行け」

「はっ!」


 指名されたルツアーリさんが騎士の礼を取って、座り込んでいるベーゼ様の腕を取る。


 一切の抵抗をしなかった。

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