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虐げられた男装令嬢、聖女だとわかって一発逆転!~身分を捨てて氷の騎士団長に溺愛される~  作者: 久遠れん
第二章

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第七十二話・証拠の呪いのネックレス

「どう、して……!」


 思わずといった様子で言葉を漏らしたベーゼ様が、慌てた様子で口元を押さえた。


 でも、その反応が何よりの証だ。


 アミが一歩前に進み出て、優雅に淑女の礼をする。


「お久しぶりです、ベーゼ様。先日は高価な贈り物をありがとうございます」

「っ……。いいえ、お気に召していただけなら嬉しいわ。アミ様は将来有望なご令嬢だから、お近づきになりたかったの」


 ネックレスを贈ったこと自体はもう隠せないと判断したのか、そこは素直に認めた。


 エスコートをしているクルール様の視線がかなり鋭くなる。


 今日は着崩した騎士団服ではなく、紳士としての正装に身を包んでいる。


 普段アミは父親にエスコートされているか、そもそもエスコートされずに会場入りすると聞いていたけれど、今日は少しでも後ろ盾があることを示すためにクルール様にお願いしたのだろう。


 クルール様もアミのことを気にかけていたようだったし、結構お似合いかもしれない。


 と、そういう想像は今は横に置いておく。私はまっすぐにベーゼ様へ視線を向けた。


「ベーゼ様がアミ様にネックレスを贈られたことを、お認めになられるのですね?」

「それがどうされたというの?」

「貴方が贈られたネックレスは『呪いの品』でしたので、どうしてそんなものをアミ様に贈られたのだろうと疑問に思いまして」


 にっこり、この上なくいい笑顔で微笑んで見せる。少しだけ声を大きくしたから、周囲にも聞こえていただろう。


 私の言葉に、私たちを取り巻いていた貴族たちから驚きの声が漏れた。


「呪いの品?」

「そんなものがあるのか、現実に」

「だが、アミ伯爵令嬢は寝込まれていたとも」

「馬鹿な、お伽噺だ」

「でも、リーベ様は一応は聖女であられるし」


 好き勝手に言う外野の声を耳に入れつつ、私は引きつった表情のベーゼ様に畳みかける。


「『呪い』は私の力で解けましたが――今思えば、ベーゼ様はパシェン様の名前を語って、私にもバレッタを贈られました。そちらにも『呪い』が籠っていました」


 そのあたりに気づいたのは私ではなくデュールお義兄様だ。


 デュールお義兄様はアミの件があったあと、私の周辺で似たようなことが起こっていないか徹底的に洗ってくれたらしい。


 その中で不審な贈り物として浮上したのがバレッタだ。


 私は気に入っていたけれど、私にバレッタを「パシェン様からです」と私付きのメイドへ渡した他のメイドが、ベーゼ様と裏で繋がっていることをデュールお義兄様が突き止めたのだ。


 すでにそのメイドには謹慎を言い渡していて、ベーゼ様の処分が決まり次第処罰が下されるだろう。


「ベーゼ公爵令嬢、本当か?!」


 パシェン様が眉を吊り上げてベーゼ様を糾弾する。


 私はあまりの剣幕に一瞬きょとんとしてしまった。


「私ではありません。リーベ様の勘違いですわ」


 この期に及んで認める気はないらしい。


 強がっているのか、図太いのか、微笑みながら否定の言葉を口にする。


 隣のデュールお義兄様がゆるりと口を開いた。その表情には笑みこそ浮かんでいるが、眼差しは絶対零度の冷たさを孕んでいる。


「ベーゼ公爵令嬢、トイフェ家に不審な人間が出入りしていることは確認済みだ。貴方が雇った呪術師だろう」

「いやですわ、殿下。そのような根も葉もない噂話を信じられるなんて。殿下の評判に関わりますことよ?」

「あくまで認めないのだね」

「認めるも何も、心当たりがございません」


 しらばっくれる横っ面を張り倒してやりたい気持ちをぐっと抑える。


 デュールお義兄様はどこか楽しげに片手を上げた。


「では、こちらの品を身に着けていただこう」


 合図とともに、第一騎士団の古株であるルツアーリさんが私たちの前に静かに出てきた。


 その手にはトレーを持っていて、トレーの上の白い布の上には呪いのネックレスが鎮座している。


 ああ、そうか。


 私がアミとデュールお義兄様の呪いを解いたあの日、ネックレスにかけられた呪いも同時に解けていると呪術師の老人は言っていた。


 だが、ベーゼ様は私がネックレスの呪いを解いたことをご存じない。


 アミが元気でもネックレスの呪いは健在だと思っているのならば、ネックレスに触れることに抵抗を示すはず。


 それを、見極めようというのだろう。


「ベーゼ公爵令嬢、貴方がアミ伯爵令嬢に贈られた品だ。お返しする。ぜひ身に着けて帰ってくれ」

「……」


 ベーゼ様はネックレスを睨んでいる。その瞳には葛藤が揺れていた。


 ネックレスに込められた呪いの強さは、用意した本人が誰より詳しく知っているだろう。


 触れるだけで呪われる呪いの品だ。実際、アミはネックレスに触れたことで昏睡状態に陥った。


 私たちが真剣なまなざしを注ぐ中、周囲の話を聞いていた貴族たちも興味津々の様子だ。


 娯楽の少ないこの世界では、いまの展開は相当に楽しいものだろう。


「クルール」

「は」


 動かない様子に痺れを切らしたデュールお義兄様が短くクルール様の名を呼んだ。


 騎士の礼をしてアミの傍から離れて、ベーゼ様に近づく。


 事態が呑み込めず戸惑っているパシェン様を脇に置いて、ベーゼ様の手を掴んだ。


「離しなさい!!」

「第一王子デュール様のご命令です」

「いやっ!!」

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