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虐げられた男装令嬢、聖女だとわかって一発逆転!~身分を捨てて氷の騎士団長に溺愛される~  作者: 久遠れん
第二章

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第七十話・呪いの出どころ

 アミのお屋敷の応接室で、目覚めるまで待たせてもらうことになった。


 コーロル夫人は「いつ目覚めるかわかりませんから、一度王宮に戻られては」といってくれたけれど、私とデュールお義兄様は夜が更ける頃までにアミが目覚めなければ帰るから、とお願いして待たせてもらうことにしたのだ。


 応接室で待たせてもらう間、デュールお義兄様と色々な話をした。


 デュールお義兄様は十歳で魔力検査を受けた直後から呪われていたらしい。


 現在二十六歳なので、十六年の間呪いに蝕まれる身体と戦っていたのだという。


「呪われた当初は、ベッドから起き上がることもできなくなっちまってな」


 心配した正妃様や陛下がありとあらゆる国中の医者を呼んだが、治療に効果は出なかった。


 自棄になって十六歳で成人する前――十五歳の時に王宮を飛び出して酒屋に転がりこみ、酒を浴びるように飲んだのだそう。


「そのときに、あの人に出会って救ってもらった。だけど、第一声が『お主、呪われておるな』だぜ。何言われたかわかんなかったな」


 小さく笑って肩を揺らす姿は、少しだけ過去を懐かしんでいるようだった。


 呪術師の老人は「もう儂に出来ることは何もない」といって酒場の二階に帰っていった。「馬車で送れ」といわれたので、私が乗ってきた馬車で送ってもらったのだ。


「で、このままだと成人まで持たないって言われてな。金は出すから治してくれって頼んだんだ。治せはしないが、呪いの進行を遅らせる程度ならできるっつーから、診てもらうために酒場に通い続けた」

「そうだったのですね」

「寿命が延びたおかげでリーベに出会えた。感謝してる」


 私を見つめて優しく微笑む表情に頬に熱が上る。デュールお義兄様のことをそういう目でみていないのに、人たぶらかしだ。


「リーベが聖女として王家の養子になった時は、こんな子供に何ができるんだって思ったが、聖女の力で呪いが解けるとは思わなかったな」

「私も自分の力のことを把握できていなくて……。もっと早くこの力で呪いが解けることに気づければよかったです」


 少しの後悔を滲ませて私が視線を伏せると、にかりと笑ったデュールお義兄様が言葉を紡ぐ。


「気にするな。結果良ければすべて良しっていうだろ」

「はい」


 前向きな言葉には励まされる。一つ頷いた私に、デュールお義兄様は紅茶の注がれたカップを手に取った。


「俺もアミ伯爵令嬢も助かった。それが全てだ、リーベ」

「はい」


 もう一度頷いて、私もカップに手を伸ばす。一口飲むと優しい味が口内に広がった。一年前までちょこちょこ飲ませてもらっていた、懐かしい味。


 こんこんと扉がノックされる。デュールお義兄様が返事をすると、執事が扉を開ける。


「失礼します。デュール王子、リーベ様、アミお嬢様が目覚められました」


 嬉しい知らせに、思わず立ち上がった私の前で、デュールお義兄様も穏やかに微笑んでいた。



 * * *



「アミ! 身体は大丈夫?」

「ええ。まだ少しだるいけれど、気分は落ち着いているわ」


 アミの部屋にお邪魔して、私は足早に駆け寄った。


 ベッドサイドにはイスを置いてコーロル夫人が座っているので、邪魔にならない位置でアミに問いかける。


 落ち着いた声音で話すその表情は悪くない。


 顔色も先ほどより明るくなっている。胸を撫でおろした私の隣に、デュールお義兄様が立った。


「アミ伯爵令嬢、ネックレスを手に入れた経緯を尋ねてもいいだろうか」

「はい。あのネックレスは、リーベへ渡してほしい、と渡されたものでした」


 デュールお義兄様の問いかけに一つ頷いたアミが、静かに口を開く。クルール様から聞いた話と一致している。


「だれから渡されたんだ?」


 さらに踏み込んだ質問をする。戸惑うことなくすらすらと答えた。


「私に渡されたのはムース侯爵令嬢です。でも、恐らく用意したのは――ベーゼ様かと。ムース様はベーゼ様の取り巻きの一人ですから」

「ベーゼ様が……?」

「リーベ、心当たりがあるでしょう?」


 少しの驚きの声を出した私に、アミの桃色の瞳が真摯に訴えかけてくる。


 私はごくりと唾を飲み込んだ。


「……ベーゼ様は、最近パシェン様と親しくされている方です。……私が、邪魔だった……?」


 考え込みながら口にした私の言葉を肯定したのは、隣に佇むデュールお義兄様だ。


「だろうな。リーベはパシェンの婚約者だ。しかもベーゼ公爵令嬢は元とはいえパシェンの婚約者候補だった令嬢だ。リーベのことは目障りだろう」

「でも、だからって。呪いの品で、呪い殺そうとするなんて……」

「リーベ、覚えておいた方がいい。貴族社会では、そういうのは珍しいことではない」


 呪われていた立場のデュールお義兄様が言うと、説得力が違う。


 私は少し血の気が引いた思いで、一つ頷いた。私を慰めるように頭を撫でてくれる。


「だけど、人を呪うならば、相応の報いが必要だ。そうは思わないか?」

「デュールお義兄様……?」


 悪い顔で獰猛な笑みを浮かべたデュールお義兄様の名を呼ぶと、わざとらしい咳払いと共に笑顔の仮面を被った。


「アミ伯爵令嬢、協力しては貰えないだろうか」

「もちろんです。リーベを害そうとする方を、わたしは許しません」


 毅然とした様子で頷いたアミの気持ちは嬉しいけれど、本当に大丈夫だろうか。


 不安が顔に出ていたのか、またもぽんぽんとデュールお義兄様に頭を撫でられる。


「任せておけ、リーベ。悪いようにはしない」

「……はい」


 なんだかすごく楽しげなのが逆に怖いけれど。


 でも確かに、二度目があっても困る。悪事は根源から潰さねばならない。


 覚悟を決めて、私はデュールお義兄様を見上げた。


「私にできることはありますか?」

「そうだな、リーベには一芝居打ってもらおうか」


 ニッとそれこそ悪役のような笑みで笑うデュールお義兄様に、私は一つ頷き返した。

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