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虐げられた男装令嬢、聖女だとわかって一発逆転!~身分を捨てて氷の騎士団長に溺愛される~  作者: 久遠れん
第二章

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第五十五話・加速する誤解

 あ、頭が痛い……!


 朝、目が覚めた私は頭痛と戦っていた。割れるように頭が痛い。気持ちも悪い。吐き気がする。これは、明らかに。


 二日酔いだ。


(王宮を飛び出して酒場に飛び込んだのは覚えている……それで……そう、ジュースと間違えて、お酒を飲んでしまって……)


 初めてお酒を飲んだ身体は、度数の高いお酒に耐えられなかったのだろう。


 寝落ちしたんだと思う。電池が切れたスマホみたいに意識が落ちたことはかろうじて覚えている。


 でも、身体に伝わる感触からして、いま私は王宮の自室のベッドで寝ている。


(でも、いったいどうやって)


 帰ってきたんだろう。それだけが不思議で仕方ない。


 私は二日酔いで痛む頭で、思考を巡らせようとして、ふと手に違和感があることに気づいた。


 右手を、握られている。


 視線をずらすと、端正な顔がドアップで映り込む。


「!?」


 びっくりして悲鳴をあげそうになった。


 辛うじて悲鳴を飲み込んで、私はなぜか私のベッドサイドにイスを置いて、頭をベッドに預けて眠っているパシェン様の顔をまじまじと見つめる。


「ど、どういうこと……?」


 戸惑いが口から零れ落ちた。パシェン様、どうして私の部屋にいるんだろう。というか、なぜベッドサイドで寝落ちをしているのか。


「……綺麗なお顔」


 じっとパシェン様の整った顔を見つめる。


 女性が嫉妬しそうなほど長い銀色のまつ毛に、高い鼻梁、薄い唇に、男性らしい精悍な顔立ち。


 一つ一つのパーツもすごく整っているのに、それらが絶妙なバランスで白皙の肌の上に収まっているから、本当に顔がいい。


 私がパシェン様の顔の造形の良さに、色々と忘れて見惚れていると、もぞりとパシェン様が動いた。


「……ん……。リーベ……? 大丈夫か、リーベ?!」


 がばりと勢いよく起き上がったパシェン様に、ぱち、と私は瞬きをした。そして、同時に襲いかかったのは、酷い頭痛と吐き気。


「っ」

「リーベ?!」

「み、みずをください……」


 死にそうな声で、私は水を求めて訴えた。



 * * *



 私の訴えに慌てたパシェン様がメイドを呼びお水を持ってきてもらった。


 はしたないと思いつつ、たくさんのお水を飲んでひとまずひと心地着いた。


 その間ずっとパシェン様が心配そうに私を見ていて、浮気をされたばかりなのに、私はなんだかちょっとときめいてしまって、そんな自分に嫌気がさしてしまう。


「リーベ? まだ具合が悪いのか?」

「……いえ」


 声が少し低くなった。でもパシェン様は具合が悪いからだと解釈したのか、ベッドで上半身を起こしている私の手を握って、真摯な瞳で見つめてくる。


 いつもならパシェン様の空色の瞳に真っ直ぐに見つめられると、心がときめくのに、今日ばかりはそうでもない。


 ため息を吐きだしたいのをぐっとこらえる。浮気の件は問い詰めたい気持ちが強いが、同時に同じくらい聞くのが怖かった。私は臆病だ。


「教えてくれ、リーベ。どうして第一王子と一緒だったんだ?」

「え?」


 パシェン様の思いもよらぬ言葉に、ぱちりと私は瞬きをした。


 まさか、私をここまで運んでくれたのはデュールお義兄様なの?


 戸惑う私に畳みかけるように、パシェン様が口を開く。


 私の手を握るパシェン様の手が、少し震えているように感じられて、余計に困惑してしまう。


「デュール王子がリーベを運んできた時、心臓が潰れるかと思った。いったい何があったんだ?」


 流石に、男装して酒場に突っ込んで酔いつぶれたとは言えない。


 黙り込んだ私に、パシェン様が言葉を重ねる。


「私には言えないのか?」


 少し責めるような口調に聞こえた。それが、私の癇に触れた。


「パシェン様も、私に黙ってるじゃないですか」

「リーベ?」


 絞り出すように告げた私に言葉に、パシェン様が戸惑いの声を上げる。私は思わず涙目で、パシェン様に向かって叫ぶように口を開いた。


「でていってください! パシェン様の顔を見たくありません!」

「リーべ?!」

「出ていって!」


 そう叫んで私はベッドにもぐりこんでシーツを頭まで被った。


 暫くパシェン様が私に声をかけていたけれど、全て無視して涙をこらえていると、ややおいて諦めたのか傍を離れていく気配がする。


 ほら、傍を離れるじゃない。やっぱり私のことなんてどうでもいいんだ。


 でていってと叫んだ口で、そんなことを思考する。頭の中がぐちゃぐちゃだ。


 大声で泣きわめきたくて仕方ない。二日酔いだけど、もっとお酒に酔って意識を失いたい。


 前者はともかく後者は王宮では無理なので、私はシーツを頭まで被ってベッドの中で声を殺して泣き続けた。

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