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虐げられた男装令嬢、聖女だとわかって一発逆転!~身分を捨てて氷の騎士団長に溺愛される~  作者: 久遠れん
第二章

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閑話・関係が変わった花火大会(パシェン視点)

 城下町では一年に一度、祭りが開かれる。


 浮かれた酔っ払いが続出してそこそこの騒ぎになることもあるので、騎士団は総動員で警備に当たるのだが、去年の祭りではクルールの助言もあって少しだけ警備を抜けてリーベと王城の歩廊から花火を見た。


 クルールの余計な手助けもあって、少しだけリーベと寄り添いながら花火を見上げたのは、いまでは良い思い出だ。


 クルールの手助けは本当に余計だったとは思うが、よくやったとも思っている。


 あの瞬間の相反する気持ちはいまだ胸の奥深くに仕舞っている。


 今年もまた、祭りの時期がやってきた。


 城下町の祭りにリーベと共に赴くことは叶わないが、今年もまた、一緒に花火をみれたらいいな、と考えて、私はリーベに「祭りの日、時間を作るから一緒に花火を見ないか」と誘ってみた。


 リーベは心底嬉しそうに微笑んで「ぜひ!」と楽しげな声音で返事をしてくれた。本当に愛おしい。私のリーベはとにかく愛らしいのだ。


 クルールにリーベと共に花火を見る時だけ警備を抜けたいと相談したところ「やるようになったな」と笑って「任せろ!」と応援してくれた。


 こういうとき、理解のある友が傍に居ると色々と助かる。


 幸い、騎士団長の仕事は全体のまとめ役だ。下っ端のように街に出て酔っ払いの対応はしなくていい。


 ほんの少し私が抜けたとしても、穴埋めとして普段の行動に反して仕事には真面目なクルールに任せておけば問題はない。


 私は久々に少し高揚した気持ちを抱えて、祭りの日を待った。


 一年前、私はリーベに対して距離を測りかねていて、気の利いた言葉の一つも言えなかった。


 リーベが「花火、綺麗ですね」と零した言葉に「ああ」と愛想の欠片もない相槌を打っただけだ。


 あの時だってリーベは「お義兄様、ありがとうございました」といってくれたのに、それにも「気晴らしになったならよかった」としか言わなかった。


 だが、今年は違う。


 リーベと一緒に花火を見たら、花火以上に美しいリーベを褒めたいと思う。


 私がリーベを褒めると、リーベは頬を朱色に染めて恥ずかしがりながらも嬉しそうに微笑んでくれる。


 その表情がたまらなく私の中の庇護欲をそそるのだ。

 

 そうして、カレンダーに印をつけていた祭りの日は、体感時間であっという間にやってきた。


 午前中から騎士団の仕事をいつも以上の速さで片づけ、クルールに「落ち着けよ」とやや呆れられつつも午後の仕事を終え、日が落ちた時間帯に私は騎士団の仕事を抜け出した。


 王宮のリーベの部屋まで迎えに行くとあらかじめ伝えていたので、リーベに会うためにここ一年で通いなれた廊下を通って、リーベの元へ赴く。


 扉をノックするとメイドが返事をして、扉を開けた。


「パシェン様、お待ちしていました」


 そう告げてふんわりと微笑むリーベは、今日はオレンジ色のドレスを身にまとっていた。


 私は貴族の令嬢の流行に疎い。


 リーベが王家の養子になり王宮に引っ越してから、クルールに「リーベ嬢、やっと流行りのドレスを着れるようになってよかったな」といわれた瞬間は衝撃だった。


 クルール曰く、リーベが公爵令嬢時代に来ていたドレスはどれも流行遅れの型落ち品だったという。それを知っていれば、私がドレスの一つや二つプレゼントしたというのに。


 夜会で貴族の令嬢に一切興味がなかったつけだった。


 王女となったリーベは、正妃様が積極的に構ってくれるのだと嬉しそうにしている。


 流行の最先端を作り出す正妃様は流行りのドレスを次々とリーベの為に仕立てていて、リーベは少し困惑しているのだ、ともお茶会の席で聞いていた。


 なんでも、毎日ドレスを変えても余るほど正妃様がドレスを仕立ててしまったらしい。


 正妃様は娘が欲しかったからリーベが養子にきて嬉しいのだと母に零したそうだから、そのせいだろう。


 とにかく、会うたびに違うドレスを見にまとっているリーベは、ドレスのセンスの良さもそうだが、それ以上に愛らしい顔立ちで流行のドレスがよく似合う。


「リーベ、今日も愛らしいな。ドレスもよく似合っている」


 クルールに女性はとにかく褒めろと助言を受けたのもあって、私はリーベに関しては必ず一言は褒めるようにしている。


 リーベを褒めることに抵抗はないし、むしろ本心なのですらすらと褒め言葉がでてくるが、これが他の貴族令嬢が相手だと一切興味も関心もなくただ冷めた目で見てしまうので、愛の威力は恐ろしいものがある。


「ありがとうございます、パシェン様。今日はわざわざ誘ってくださって、とても嬉しいです」

「本当は街の祭りに一緒に行きたかったが、流石に今のリーベを連れ出すわけにはいかなくてな。花火だけでも楽しんでほしい」


 公爵令嬢だった時のリーベならば、まだ気軽に連れ出せたのだが、今は王女であり聖女であるリーベの身辺には本人に気づかれないように厳重な警備が敷かれている。


 いくら私が騎士団長とはいえ、二人で出かけるのは難色を示されるだろう。


 それが、街中ともなればなおさらだ。今のリーベは手練れの騎士を複数配置してようやく外出が実現するかどうか、というとこだ。


「わかっています。パシェン様と花火を見られるだけで、十分幸せです」


 リーベの言葉は、心の底からそう思っているのがよく伝わってくる。


 ふわふわとした口調ではにかむリーベの愛らしさは、この世におわすという女神デーアですら越えられないだろう。

 女神に仕える天使だって、ここまで愛らしくはないはずだ。


 私は微笑んでリーベに片腕を差し出した。


「さ、行こう」

「はい、パシェン様」


 差し出した右腕にリーベが手を添える。夜会をエスコートするようにリーベと隣り合って廊下を歩く。


 他愛もないささやかな話をしつつ、今年は歩廊ではなく王宮の最上階の部屋を許可を取って借りたので、そこに向かった。


 花火が綺麗に見える部屋を借りたい、とエクセン王子に相談したら「じゃあ、オススメはあそこかな」と、普段エクセン王子が息抜きをする際に使うという部屋を教えてもらったのだ。


 前もって借りていた部屋の鍵を使って中に入ると、リーベが目を輝かせて窓際に駆け寄った。そういうところは、まだ少し子供っぽい。そこまた愛おしいのだけれど。


「わぁ、とっても綺麗にみえますね」


 私へと振り返ったリーベの表情はきらきらと輝いている。


 普段、今までできなかった勉強をひたすら頑張っているリーベに、少しの息抜きを、と思っての提案だったが、思っていた以上にリーベは喜んでくれていて、私も嬉しい。


「ああ、とても綺麗だ」


 花火というより、喜んでいるリーベが可愛くて愛おしくて綺麗だ。


 その言葉は流石に口にはしなかったが、私が微笑むとリーベは頬を赤らめて、再び窓へと視線を向けた。


「パシェン様、窓を開けてもよろしいですか?」

「ああ。だが、身を乗り出さないように」

「もう! そこまで子供ではありません」


 少し拗ねたように告げるリーベも可愛らしい。私は小さく笑って「すまない」と謝罪する。


 リーベの隣に佇んで、窓を大きく開けた。夜空には花火という大輪の華が咲いているが、私にとっての華は隣にいるリーベだ。


「ねぇ、お義兄様」


 花火を見上げながら、リーベが口を開いた。懐かしい呼称で呼ばれて、私はリーベへと視線を滑らせる。


 今でもリーベは気を抜いているときに、時折私のことを『お義兄様』と呼ぶ。


 長年の癖なので仕方ないだろうし、私としても悪い気はしないので、あえて指摘はしない。


「私、去年花火を見た際に、来年はきっとないと思っていました」


 リーベがフィーネとして男装して騎士団で働き、公爵家を出奔しようとしていたのは私も理解している。


 だからこその言葉だが、私の胸は酷く痛んだ。そこまでリーベが思い詰めていたのに、なにも気づけなかった無力な自分の過去がただひたすらに恥ずかしい。


「でも、今年もお義兄様と花火を見れました。私、本当に幸せです」


 花火から視線を逸らして、私をまっすぐに見上げて告げられた言葉。小さな唇から紡がれる、その言葉は生半可な愛の言葉よりよほど破壊力を持っている。


 私は少しだけ泣きそうな気持ちになっている自分を自覚しながら、穏やかな笑みを意識して浮かべた。


「来年も、再来年も。一緒に花火を見よう、リーベ」


 そっとリーベに顔を近づける。目をつむったリーベの頬にキスを落とすと、リーベはくすぐったそうに笑った。


 本当は額や頬ではなく愛らしい唇に口づけをしたいけれど、一度その味を知ってしまえば止まれなくなりそうで、私はあえて軽い触れ合いしかしていない。


「パシェン様、私は本当に幸せです」


 繰り返される幸福の言葉に、私もまた笑み崩れる。


 こうやって、日々を積み重ねて。


 過去を取り戻すように、幸せになっていけたらいいと切に思う。

読んでいただき、ありがとうございます!


『虐げられた男装令嬢、聖女だとわかって一発逆転!~身分を捨てて氷の騎士団長に溺愛される~』のほうは楽しんでいただけたでしょうか?


面白い! 続きが読みたい!! と思っていただけた方は、ぜひとも


ブックマーク、評価、リアクションを頂けると、大変励みになります!


次のお話もぜひ読んでいただければ幸いです。

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