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虐げられた男装令嬢、聖女だとわかって一発逆転!~身分を捨てて氷の騎士団長に溺愛される~  作者: 久遠れん
第一章

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第五話・王太子との邂逅

 本日も本日とて元気に労働だ。


 お義兄様の恋は応援する方向で、なるべく早めにお金を貯めて出奔することにした。

 とはいえ、貰えるお給金が突然変わることはない。


 騎士団に入団して二週間の下っ端のお給金とはいえ、多分そこらの下町で働くよりはいいのだろうけれど。


「すまない、君がフィーネかい?」

「はい! なんのご用……で……しょうか……」


 名前を呼ばれて手元の作業を止めて元気よく振り返った私は、視線の先にお義兄様に負けず劣らずの美男子を見つけて言葉がとまった。


 さらさらの空を切り取ったような空色の髪に、太陽を凝縮したような輝く瞳。


 この国の王太子――エクセン・ヴァスリャス王子だ。


(もしかしてエクセン王子?! どうして王子様がこんなところに?!)


 お義兄様に用事だろうか。

 だが、リーベならまだしも『フィーネ』はエクセン王子の名前はともかく顔を知っているのは可笑しい。


 リーベとして私がエクセン王子の外見を知っているのは、以前お義兄様がぽつりと話してくださったからだ。

 お義兄様が口にしていた特徴と、ここまでぴったりと当てはまる人がまさか別人ではないだろう。


 私は引きつる頬を自覚しながら、どうにか笑みを浮かべた。


「ドウサレマシタカ?」

「僕は新しく騎士団に入った新入りなんだが、よければ騎士団の中を案内してくれないかな、と思ってね」


(嘘つけ――――!)


 内心で盛大に突っ込む。


 王子が! それも王太子が! どうして! 騎士団に入団する必要があるの?!


 これはあれか、身分を伏せた視察の一環?!

 お義兄様のリーダーシップが疑われているの?!


(それなら私がお義兄様の良い所をアピールしなくちゃ……!)


 これまた内心で決意を固めて、私は立ち上がった。

 ちなみに現在、庭師のお手伝いで草むしりをしていた。


「大丈夫です! ちょっと待っていてください! 庭師さんに抜けていいか相談してくるので!」

「ああ、大丈夫だよ。話は通しておいたから」


(そんな! 新人は! 普通! いない!!)


 手際がいい。

 内心でまたも突っ込みつつ、私は「ソウナンデスネ」と頷いた。


 でもまぁ、話を通してくれているのなら話は早い。

 私は軍手を外して騎士団の制服のポケットに突っ込むと、にこりと笑った。


「どこから案内しましょうか!」



 * * *



 休憩所、食事処、詰所など、騎士たちが使う場所を一つ一つ丁寧に案内をする。

 二週間前まで私も詳しくなかったけれど、この二週間ですっかり覚えてしまった。


 私がエクセン王子を案内すると、恐らく王子の顔を知っているのだろう古参と中堅騎士たちがぎょっとした顔をした。


 何も知らないのか普通に過ごしているのは、恐らく王子の顔を知らない新米だけだ。

 にこにこと笑顔を浮かべ続ける王子を最後に馬小屋に案内すると、二週間お世話をしていたおかげで懐いてくれている馬たちが私へと頬を寄せてくる。


「ずいぶんと懐かれているんだね」

「騎士団に入団してから、ずっとお世話をしていますので!」

「私は君より歴が浅いんだから、年上とはいっても敬語を使わなくてもいいのに」

「年上の方に流石にそれは」


 というより、王族相手にさすがにそれは、である。

 私が渇いた笑みを浮かべると、エクセン王子はなぜか憂いた表情でそうっと馬に手を伸ばした。


 よく躾けられた馬は嫌がるそぶりも見せず、エクセン王子に大人しく撫でられている。

 躾けもそうだが、エクセン王子の撫で方が上手いのもあるのだろう。


「君は、この国をどう思う?」

「え?」

「私はね、この国の在り方は可笑しいと思っている」

「?!」


 まさかの王国を否定する言葉に、息をのむ。

 慌てて周囲を見回したのは、国に対する批判は死罪にあたるからだ。


 他に聞いている人間がいれば、たとえ王太子だろうとただでは済まないし、私だって巻き込まれて連帯責任で酷い目に合う。


「大丈夫、私たち以外にはいないよ。落ち着いて」


 落ち着き払った声音でそう言われても、怖くて仕方ない。

 私はたしかに公爵家を出奔する資金集めで騎士団にいるけれど、王国の批判なんて大それたことをする気はないのだ。


「私はね、兄から立場を奪ったんだ」

「……」


 エクセン王子の兄、デュール・ヴァスリャス王子。


 本来第一王子であるデュール王子ではなく、第二王子であるエクセン王子が王太子なのは、デュール王子が魔力適正が二属性なのに対して、エクセン王子の魔力適性が三属性であるからだ。


 止めを刺すように、魔力量がデュール王子よりエクセン王子の方が高かったと聞いたことがある。

 この国は、どこまでも魔力の属性と魔力量で人生を左右される。

 その典型的な例の一つだった。


「私はね、兄が好きだ。尊敬しているし、敬愛している。だから、兄から全てを奪った、この国の在り方を憎んでいる」

「……」


 なにも、いえない。なにも、いう資格がない。


 私は何も魔力属性を持たない落ちこぼれだけれど、だからこそ、誰かの何かを奪ってはいないから。

 奪われたとも、思っていないから。


 確かに私に魔力属性がなかったことで、お義兄様には迷惑をかけているだろうし、両親には失望された。

 その結果、惨めな生活をしていると思う。

 でも、私はそれをそこまで気にしていない。


 魔力適正があったとしても、公爵家ではどうせ私は政略結婚の駒だった。

 それが嫌だったら、きっと取った行動は変わらなかっただろうし。


 そうっと私はエクセン王子を見上げた。

 エクセン王子の金色の光を集めた瞳には、怒りがある。


 ああ、すごいな。私は怒りを持つことを、いつの間にか忘れていた。


「……羨ましいです」

「どうして?」


 ぽつりと零した言葉に、エクセン王子が反応した。

 私は視線を伏せて、視線の先で自身の靴先を眺めながら、ぽつぽつと話す。


「僕には――そうやって怒ってくれる人が、いないから」


 リーベにないものがフィーネにあるはずもない。

 騎士団に入団するときに、魔力適性と魔力量はゼロだと素直に申告した。


 貴族では滅多に生まれることのない適正ゼロも、下町の一般人なら稀にあることだ。

 その結果、騎士の仕事とは思えない雑用ばかりやっているわけなのだが。

 お給金は貰えているので文句はなかった。その、はずだったのに。


(……お義兄様)


 お義兄様が、エクセン王子のように憤ってくれたらいいのに、と。

 ないものねだりをしそうになっている自分に気づいて苦笑を零す。

 そんなとき、ぽん、と頭を撫でられた。


「!」

「大丈夫だ、君は一人ではない」


 ポンポンと頭を撫でられる。励まされて嬉しいとか以前にハラハラする。


 だって! ウィッグが! ずれそうで!!


 私が慌ててエクセン王子を止めようと手を上げたタイミングで、突然お義兄様の声が響いた。


「なにをやっている!!」


(た、助かった――!)


 お義兄様、ナイスタイミングです!!

読んでいただき、ありがとうございます!


『虐げられた男装令嬢、聖女だとわかって一発逆転!~身分を捨てて氷の騎士団長に溺愛される~』のほうは楽しんでいただけたでしょうか?




面白い! 続きが読みたい!! と思っていただけた方は、ぜひとも


ブックマーク、評価、リアクションを頂けると、大変励みになります!


次のお話もぜひ読んでいただければ幸いです。

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