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虐げられた男装令嬢、聖女だとわかって一発逆転!~身分を捨てて氷の騎士団長に溺愛される~  作者: 久遠れん
第一章

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第四話・感情の整理

 お義兄様の暴露により、途中から心理的な意味で味がしなくなった夕食を終えて、公爵家の一番日当たりの悪い隅にある狭い部屋に戻った。


 とはいえ、狭いといっても前世で一人暮らしをしていた部屋程度の大きさがあるので、さして不満はない。

 日当たりが悪いのはたまに嫌な気持ちになることもあるけれど。


 干す人間がいないので、若干かびと埃臭いベッドに腰を下ろして、私は真剣に考えこんだ。


(お義兄様が思いを寄せる騎士団の人間……やはりクルール様……?)


 騎士団に入団して二週間。


 下っ端の仕事をしながらも、お義兄様の行動はなんとなく視線で追いかけていたので大まかな人間関係は把握している。


 気難しいお義兄様の補佐をしている人当たりの良い副団長、というのが私のクルール様に対する評価だ。


 先輩たちの話を聞く限り、ただ人当たりがいいだけではなく女性関係にちょっと難ありっぽくはあるのだけれど、それは一旦横に置いておこう。


(でもどうしてお義兄様はそっちに走ったの? たくさんの美女に言い寄られていると聞いていたのに!)


 騎士団の団長を務めるお義兄様は、公爵家時期跡取りの肩書と相まって、将来有望で頼れる男性として貴族の結婚適齢期の女性たちの間で評価が高いらしい。


 ご令嬢の結婚したい人ランキングナンバーワンだというのは、それこそクルール副団長が教えてくれたことである。


「そういえば、なーんか妙に距離が近いんだよなぁ。副団長」


 入団したその日に声をかけられて以来、何かと気にかけてもらっている自覚がある。

 私が女性だから、男性の十五歳より小さく見えるからだろう。


 何かと気にかけてくれるクルール様は、仕事の合間に騎士団の人間に関する雑談を披露してくれることが多々あった。


 その中に、お義兄様の人間関係も含まれていたのだ。

 とはいっても、たくさんのご令嬢に言い寄られている、程度ではあるのだけど。


「う~ん」


 わからない。考えれば考えるほど、本当にわからない。

 お義兄様は元々そっちの趣味の方だったのか、あるいは騎士団に入団したからそっちの趣味に目覚めたのか。

 ぐるぐる玉の中を巡る思考に、唐突にはっとする。


「偏見はダメよ!」


 思わず大きな声が出た。


 私が死ぬ直前まで生きていた日本は、令和の時代にはLGBTに関する活動が活発だった。

 思い込みと偏見は良くない。


 お義兄様が幸せになれるなら、私は義兄がもう一人増える程度、にこやかに受け入れなければ。


 パン、と勢いよく頬を叩く。

 少しひりひりするけど、目を覚ますにはちょうどいい。


「お義兄様の幸せが一番よ!!」


 お義兄様が女性に興味がなくて、男性が好きだというのなら、義妹である私は全力で応援するべきだ。


 ただ、この場合の懸念点は古い価値観を後生大事に抱えているクソオヤジとクソババアたちだ。クソが二つ付くクソったれな両親。


 父も母も、お義兄様がクルール様と結ばれることは絶対に許さないだろう。


 私は騎士団で働いたお金が溜まり次第、公爵家を出奔する気満々だったが、その前にお義兄様の援護射撃くらいしておきたい。

 しておきたい、が。


(私にできることあるかしら~……!)


 現在の私は公爵家のお荷物、ただ飯食らいの欠陥品だ。

 私の言葉でクソったれな両親が納得するとは思えない。


 むしろ、クソったれ両親をお義兄様が見限って私と同様に出奔するのではないだろうか。

 恋する人って強いっていうし。


(お義兄様が出奔するようならくっついていきたいけれど……ダメダメ! 新婚さんの生活に土足で踏み入るのはさすがにダメ!)


 となると、我儘ではあるのだが、できればお義兄様には私のあとに出奔してほしい。

 お義兄様が出奔して大騒ぎをするクソったれな両親の姿にはちょっとだけ、本当にちょっとだけ興味があるが、お義兄様がいなくなったことで私に害がでる可能性の方が高い。


(政略結婚の時期が早まる可能性が高いわよね……お金が溜まり切る前に出奔はさすがにリスキーだし)


 ううーんと唸りながら考える。私がお金が溜まって出奔したタイミングでお義兄様が後に続いてくれれば一番私にとって平和的解決なのだけれど。


「人生って難しいわね……」


 だんだん考えるのに疲れてきた。

 ボスン、と座っていたベッドに横になってごろごろと転がる。


 人間万事(にんげんばんじ)塞翁が馬(さいおうがうま)、なるようになる、かしらね。


「ふあ~あ」


 朝から騎士団で肉体労働をたくさんしたし、夕食は途中から味がしなかったとはいえ久々にお腹一杯食べて、眠くなってしまった。


 ドレスを着替えるべきだとわかっているが、眠気に抗えない。


 そのまま瞼を落とした私は、なぜか夢の中で前世の世界の結婚式で着るようなウエディングドレスを着ていた。

 隣にいて、普段は絶対にしない蕩けるような笑顔で微笑んでいたのは、なぜかお義兄様だった。

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