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虐げられた男装令嬢、聖女だとわかって一発逆転!~身分を捨てて氷の騎士団長に溺愛される~  作者: 久遠れん
第一章

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第三十五話・騎士団長の仕事(パシェン視点)

 リーベが義父上に屋敷に連れ戻されて二週間。


 軟禁されているに等しい環境だが、リーベは気丈に振る舞っている。

 私にできることといえば、毎日騎士団から帰宅したらリーベを訪ねることくらいだ。


 リーベは私の来訪をいつだって喜んでくれる。

 いままでも同じことをしていればよかった、と少しだけ後悔した。


 リーベのことは気がかりだが、それと同じくらい気になるのはフィーネの行方だ。

 この二週間、フィーネは騎士団に姿を見せていない。


 クルールが「俺が退団届を受理した」というのだが、肝心の届け出は「失くした」と言い張っているのだ。

 騎士団の執務室で私は深いため息を吐いた。


 フィーネのことが気にかかる。私の傷が治った後、代わるようにフィーネは倒れた。


 フィーネを医務室に運んだのはクルールで、そのクルールがその場で退団届を受理したといっているが、私にはどうにも腑に落ちない。


 だが、フィーネを探そうにもその時間が今の私にはなかった。


「おーい、パシェン。書類の手が止まってるぞー」


 指摘してきたのは、騎士団に置いてあるソファで寛いでいるクルールだ。

 手元の書類が出来上がり次第、届けてもらうために呼び出したのだが、なかなか私の作業が進まず待たせている状態だ。


「クルール、確かに呼び出したのは私だが、暇があるなら他のことをやったらどうだ」

「やだよ。俺はサボれるもんはサボる主義だぜ」

「私の前でよくいう」


 ため息を一つ吐き出す。


 クルールの態度はいまさらなので指摘する気もないが、こうも堂々と開き直られるとため息の一つや二つ吐きたくなる。


「クルール、フィーネの退団届はでてきたのか」

「わっからねぇな~。捨てたかもしんねぇ」

「退団届という大切なものを失くすな」

「わりーな」


 きっと、退団届なんてだされていないのだろう。

 さすがに私だってクルールがそんな大切なものを紛失するような人間だとは思っていない。


 だとしたら、だ。

 フィーネの方に事情があるのだ。


 私には言えなくて、クルールには言えるような事情が。


(妬けるな)


 団長の私ではなく、副団長のクルールのほうが信用できると判断された。

 その事実が、たまらなく悔しい。


「おい、殺気立つな。何考えてるか透けて見えるぞ」


 クルールの苦言に、意識して呼吸をする。少し落ち着いた気持ちで殺気を仕舞うと、クルールは軽く肩を竦めた。


「それ、俺の前以外でやるなよ。エクセン王子相手には不敬罪だし、他のやつらは倒れちまう」

「そうだな。……そういえば、第二騎士団長ルツアーリの処分はどう進んでいる」


 独断で新米の騎士たちを連れ出した愚か者。

 ルツアーリのせいで、二週間前の戦闘で相当な死者がでた。


 新米を中心に、新米を守ろうとした中堅の騎士たちも命を落とした。

 中堅の騎士たちの多くを失って、騎士団は再編成を迫られている。


 皆が『女神の奇跡』とよぶ現象で傷が治った者は、その時に生きていた者たちだけだ。


 死んでいた者は当然ながら『女神の奇跡』でも蘇ることはなく、この二週間で戦死者への家族へ何枚の手紙を出しただろう。


「処分は確定だろ。よくて追放、悪くて死刑だ」

「エクセン王子もずいぶんと憤っておられたからな」

「ああ。元から地位の割りに使えねぇと思ってたが、まったく馬鹿につける薬はねーな」


 ため息を吐きだしたクルールの意見に同意するしかない。


 私は再び手元の書類に視線を落とした。そこには戦死者の騎士の遺族へ出す金銭に関しての文面が綴られている。

 これらの処理に奔走されて、フィーネを探しに行く時間がなかったのだ。


 犠牲は少なくなかった。私だって死にかけた。

 私が死ねば、フィーネの命だって危うかっただろう。


 『女神の奇跡』が起こったのは、本当に運がよかっただけなのだ。


「それにしても、なぜ魔物たちは突然徒党を組んだ」


 いまだに解明されない謎の一つだ。ぽつりと零した私の言葉に、クルールが「推測なんだが」と珍しく真剣な口調で口を開いた。


「『女神の奇跡』が発動する前兆をとらえて、事前に潰しにきたんじゃねーのか」

「どういう意味だ」

「だから『女神の奇跡』が俺たちの知らない所で、すでに起こっていたかもしれないって話だよ」


 クルールの推論に私は「なるほど」と考え込む。一理あるかもしれない。


 王国で起こる全てを私たちが把握するのは到底不可能だ。知らない間に『女神の奇跡』が起こっていても不思議ではない。


 それが、今回のように大規模ではなく、ごくごく小さな反意であったのなら、なおさらだ。


 こんこん、扉がノックされた音が響く。私が返事をする前にクルールが「入っていいぜ」と声をかける。全く自由な奴だ。


「失礼するよ」


 柔らかい声音と共に入室したのはエクセン王子だ。だが、クルールはだらけた態度を改める様子もない。

 いつものこととはいえ、次期国王であるエクセン王子当人すら気にしていないのはどうなのか。


「パシェン、朗報だ」

「なんですか?」

「父上からフィーネの捜索命令が出た」


 穏やかに告げられたその言葉に。

 俺は目を見開いて、クルールは苦い顔をしていた。

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