表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虐げられた男装令嬢、聖女だとわかって一発逆転!~身分を捨てて氷の騎士団長に溺愛される~  作者: 久遠れん
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/87

第三話・普段の暮らし

 騎士団での雑用を終えて、途中の事情を知る友人のお屋敷で着替えさせてもらい公爵家への帰路を辿る。

 ウィッグを外して、騎士団の制服を脱いでドレスに着替えると、フィーネからリーベに戻る。


 気持ちも切り替える。

 元気いっぱいの表情から、公爵令嬢らしい楚々とした笑みに変えて、私は公爵家に帰宅した。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ただいま戻りました」


 出迎えた執事にふんわりと微笑む。この執事も言葉こそ丁寧だが、私の味方ではない。

 相変わらず公爵家の中に流れる空気は重苦しい。冷えて凍てついている錯覚さえ覚える。


 ここは王都の一等地で日当たりはとてもいいというのに。


 騎士団の制服とは比べ物にならないほど重いドレスを身に纏って、私への風当たりの強いメイドたちを無視する。

 陰口は聞かれないように叩くべきだと思うけど、あえて聞かせているんだろうなぁと適当に無視するのにも慣れてしまった。


 玄関前で暫く待つこと暫し。

 そろそろ部屋に引き上げようか迷っているタイミングでお義兄様が帰宅した。


 この時間の帰宅ということはやっぱり下っ端の私とは仕事の量が違うのだろう。

 堅物のお義兄様が呑んで帰ってきたとは思わないので。


「お帰りなさい、お義兄様」

「……ああ」


 やっぱり素っ気ない。でもいつものことだ。

 にこ、と私が令嬢スマイルで笑うとお義兄様はそっぽを向いてしまった。


 知っていたけれど! お義兄様に嫌われていることは! でもやっぱり傷つくなぁ。


(昔のお義兄様は大変可愛らしかったのだけど)


 十歳で我が家に引き取られた当初、お義兄様は本当に笑わない子供だった。

 当時五歳の私には前世の記憶もなく、ただただ無邪気に「兄」が増えたことを喜んで、付きまとっていた。


 お義兄様は当時から忙しい方で、でも面倒見がよかった。

 勉強の合間にお義兄様のお部屋に突撃すると、お義兄様は仕方ないな、と顔にだしながらも構ってくれた。


 記憶を取り戻してからは、クソったれな公爵家の中でお義兄様の存在が癒しだった。


 母や父のように私を罵倒することなく、ただ黙って傍に居てくれたお義兄様の存在は心強くて、私への期待がなくなった分、虐待では? という量の勉強を強いられるお義兄様に、私がお義兄様の心を守るんだと燃えたのを覚えている。


 だけどそれも潮時だろう。

 私がいなくてもお義兄様の居場所は騎士団にあるし、私はとっととお金を貯めて公爵家を出奔したいので!


「リーベ、夕食は食べたか」

「まだですわ、お義兄様」


 視線を逸らしたままのお義兄様の唐突な問いかけに首を傾げつつ答える。

 お義兄様が視線を私に戻した。なんだか眼差しが優しい。


「そうか。なら、久々に一緒にどうだ」

「! はい、喜んで!」


 お義兄様から食事に誘われるのは本当に久しぶりだ。すごくうれしい。


(それにお義兄様が一緒なら、下手な食事は出ないでしょう)


 公爵家の主である父と家を取りまとめる母が私のことを蔑んでいるので、基本的に屋敷の人間は全て私の敵だ。

 執事やメイドだけではなく、料理人たちも同じ。


 じみ~な嫌がらせは数えるのも面倒なほど。


 その中でも割と嫌だなぁと思っているのが、私の食事が質素なことだ。

 いや、質素ならまだ許せる。ただ、残飯を出されるのはさすがにいただけない。


 腐っても公爵令嬢なんですけどね、私!

 お父様とお母様が私を嫌ってるから仕方ないけれど!!


「どうした、リーベ。変な顔をして」

「なんでもありません」


 いけない、顔に出ていたらしい。

 咄嗟に取り繕ってにこにこと笑うと、お義兄様はなぜかため息を吐きだした。


 どうして?! そんなに笑顔下手でしたか?!


 思わず頬を触った私の前で、お義兄様が騎士団のマントを翻して歩き出す。


「着替えてくる」

「はい」


 自室に戻るお義兄様を見送って、メイドたちが余計なことを言う前に私も自室に退散した。



 * * *



(やっぱりお義兄様がいると料理が美味しい!)


 気持ちの問題ではなく物理的に。料理が美味しい。

 目の前に並ぶ料理の数々に久々に舌鼓を打つ。本当に久しぶりに公爵家でまともな食事にありつけた。


 にこにこと笑いながら料理を食べていると、お義兄様の手がずっと止まっているのに気づいた。

 ごくん、と口の中のものを飲み込んでお義兄様に問いかける。


「お義兄様、食べないのですか?」

「……だが」

「?」


 お義兄様らしからぬ小さな声。

 思わず首を傾げると、お義兄様は頬を赤く染めて、私から視線を逸らしつつ、口元を手で覆って告げた。


「気になる相手がいるんだが」

「?!」


 お義兄様の突然の告白に思わず目を見開いた。

 お義兄様はやっぱり視線を私から外したまま、ぽつぽつと語る。


「騎士団の方にいる人間で」


(?! まって! だれ?! 騎士団?! 男の方しかいないはずでは?!)


 ま、まさかお義兄様と妙に仲のいい副団長のあの人?!


 驚愕で固まる私の前で、お義兄様は唐突に真顔に戻った。

 恋する乙女の表情が、精悍な表情になる。


「いつかお前に紹介したいと思っている」


(紹介されても困りますね?!)


 いやだって、その人は私にとってどういうポジションになるんですか?!

 義姉ができる覚悟はできていたけれど、義兄が増える覚悟はしてないんですが!!


 というか本当に誰?!


 副団長のクルール様で間違いないですか?! お義兄様の右腕の!!


「リーベ? どうした変な顔をして」

「っ……。なんでもありませんわ、お義兄様」


 怪訝そうな顔をするお義兄様に、引きつった笑みを浮かべる。

 リーベが騎士団の人間を把握しているのは可笑しいので、なにも尋ねることができない。


 お義兄様は不思議そうにしながら食事を再開したが、私は到底食事を食べる気になれなかった。

 久々のまともなご飯にも関わらず、だ。


(お義兄様、そっちの人だったんですね?!)


 衝撃で食べたものが胃から出そうな勢いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ