第二十四話・命を懸ける意味
第一騎士団は第二騎士団イディオ団長の指揮下の元、魔物討伐に出ることになった。
問題はイディオ団長が私たち新米にまで剣を与えて後方支援ではなく、しっかりと戦力に数えていたことだ。
さすがに先輩方が全力で抗議してくれたのだが、イディオ団長は「パシェンの奴はそんなに温い鍛え方をしているのか」と見当はずれなことを言って話にならない。
結局私たち新米も、残っていた武具と防具を渡されて、隊列に加えられた。
最後まで抗議してくれた先輩たちのおかげで、かろうじて中央と呼べる場所に配置されたのが、救いだと感じる。
(鎧も剣も重い。体力はついたと思ってたんだけどな……)
鉛のように、というか実際鉛を纏っているようなものなのだけれど。歩いているだけで体力が減っていくのを感じる。
こんな状態で持ったこともない剣を振り回せと言われても無茶以外の何物でもない。
憂鬱な気持ちで騎士団の隊列の中央で街中を行進する。
パレードというわけではないが、いまから魔物討伐に行く騎士を応援する声は街中に大きく響いている。
(騎士ってやっぱり憧れなんだろうなぁ)
道端から男の子たちがきらきらとした輝いた視線を送ってくる。私の少し前を歩いているルツアーリさんが飛び出してきた女の子から花を受け取っていた。
この国において、騎士の役割はとても広い。
緊張状態が続く周辺国への警戒、街の外での魔物の討伐、その他諸々。上げ出せばキリがない。
花形の仕事ではあるが、同時に圧倒的に人手が足りてない仕事でもある。
だからこそ、魔力適正ゼロ、魔力ゼロ、孤児設定の私が滑り込めたのだ。
その上で、お給料も結構いい。それは、一重に人々を守るために命を懸ける仕事だからだというのも含まれる。
(私、そこまで考えてなかったな。自己中心的だった)
私はただ、手っ取り早くお金が欲しかった。下町で働くことも考えたけど、お義兄様に憧れたのとそれ以上の理由として、お給料が高いのが騎士団だったから騎士団で働くことを選んだ。
私の考えが浅はかだった。決意が足りなかったことを痛感する。
私にあったのはただ「政略結婚の駒になりたくない」という強い意志だけで、それ以外の全てを二の次にしていた。
騎士の掲げる理想「人々の平和の為に」すら、お金をもらうための言い訳にした。
(これが終わったら、騎士団止めようかな)
お金は全然足りてないけれど、痛感した覚悟のなさを抱いたまま、罪悪感を抱えて騎士であり続けられるほど私は強くない。
(フィーネが止めると言ったら、お義兄様は少しは寂しがってくれるかしら)
気にかけてもらっている自覚はさすがにある。
能力がないから引き留められることはないだろうが、ほんの少しで良い寂しいと思ってもらえたら嬉しいな、と思ってしまう。
(ダメダメ! いまは無事に帰ることを考えなくちゃ! 帰ってきてから後のことは考えよう)
街の境界である大門が目前まで迫っている。
ごくりと唾を飲み込んで、私は開門の声を聞いた。
* * *
「なに……これ……」
街の外は、想像以上に酷かった。
普段は群れないと教えられた魔物たちが徒党を組んでこちらを威嚇している。
絶句したのは私だけではないはずだ。騎士団の団員たちの殺気で肌が痛い。
私は与えられた剣を不格好に構える。
始めて見る魔物の姿に、ガタガタと手元が震えて仕方ない。怖い、純粋な恐怖が体を支配している。
「構え! ――放て!!」
弓矢部隊が一斉に矢をつがえて放つ。同時に響く「突撃!」の命令。
周りが雄たけびと共に駆け出していく。
私は自分の意思ではなく、周りにつられるがまま、泣きそうになりながら剣をもって前に突進した。
ただ、少し走っただけだ。剣で魔物を倒そうなんて考えられない。
魔物たちも一斉に大きく咆哮を上げる。耳を貫くような恐ろしい鳴き声があたり一面に響いて。
そして。
「え……?」
目の前の、新米の騎士の。
上半身が、飛んだ。




