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虐げられた男装令嬢、聖女だとわかって一発逆転!~身分を捨てて氷の騎士団長に溺愛される~  作者: 久遠れん
第一章

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第二十二話・心配と釘差し

 王太子であるエクセン王子が隣国へと政治的な交渉で赴くことになり、普段なら騎士団事つく護衛が今回は内密な内容であるからと、騎士団長のお義兄様と副団長のクルール様、さらに精鋭の数人にまで絞られる、という話は早い段階で騎士団で噂になっていた。


 下っ端の私には関係のないことだ。


 そう思っていつも通り雑用であちこちを駆けまわっていたのだが、お昼の休憩時間に食堂で食事をとっていると、唐突にお義兄様に声をかけられた。


「フィーネ。正面をいいか」

「はい!」


 食事の乗ったトレーを手になぜか私の正面に腰を下ろしたお義兄様。

 いつも一緒、というわけではないが、なんだかセットの印象のあるクルール様の姿はない。

 思わず周囲を見回した私に、お義兄様がこほんと咳払いをする。


「クルールには別の仕事を任せている」

「お昼休憩中なのに大変ですね」

「午前中サボっていたからな」

「なるほどです」


 それなら仕方ないか。

 お義兄様は、大きな分厚いお肉が乗ったメインとつけあわせのパン、スープとサラダというクルール様ほどではないにしろ、結構な量の食事のトレーを前になにか考え込んでるようだった。


 本日の私は野菜炒めとパンだ。

 騎士団の食事は基本的に量が多いので、私からするとメインとパンだけでお腹いっぱいになる。

 それにしたって、野菜炒めには白米が欲しい。白米、この世界にはないのかな。


 公爵家を出奔したら白米を探す旅をしてもよさそうだ。


「フィーネ」

「ふぁい」


 口にパンをいれたタイミングで話しかけないでほしい。変な声がでた。

 急いで咀嚼してごくんと飲み込むと、お義兄様は怖いほど真剣な顔でこちらを見ている。


「お前は騎士団に入団して今月で二か月目だったな」

「はい」


 先日初めてのお給料をもらったばかりの新人です。それがどうしたんだろう。

 疑問に思いつつ頷くと、お義兄様はさらに怖い顔をして口を開く。


「街の外に出たことはないな?」

「はい。街の外は危険なので」


 この世界は剣と魔法のファンタジーの世界だ。

 街の外には魔物がいて、高い外壁が人々を魔物の脅威から守っている。


 ここまで言われるとお義兄様の言いたいことがなんとなくわかった。

 騎士団は月に一度、外壁の外まででて魔物の討伐任務を行う。


 先月の魔物討伐では、私は入団したばかりの新人だからと置いて行かれたが、今回は同行しろ、という話だろうか。


 魔力適正と魔力ゼロで、その上まともな訓練も受けてない私にできることがあるとは思えないのだが。

 思わず真顔になった私の前で、お義兄様が小さく笑った。安心させるような、穏やかな笑み。


「気構えなくていい。新人が魔物討伐に同行するのは入団して半年以上だと決まっている。まかり間違ってもついていく、などと間違ったやる気をみせないように釘を刺したかっただけだ」


 お義兄様はそういって、ようやく食事に手を付けだした。

 私よりよほど大きな一口でパンを噛みちぎるお義兄様に、私はぱち、と瞬きをする。


「わざわざそれを伝えにきてくれたんですか? 遠征の支度で忙しいと伺っていましたが」

「忙しいには忙しいが、いまは休憩時間だしな。……新人によくいるんだ。自分のできることを見誤って変なやる気を出した結果、足手まといどころの騒ぎではないやつが」

「なるほどです」


 私は魔物討伐に関しては、ついていけ、といわれてもついていきたくないタイプなので、お義兄様が例に出しているタイプとは正反対だ。


「お前の初任務には俺がいるときだ。少なくとも俺が不在の今回、変な気を起こさないように」

「もちろんです」

「いい子だ。……少し喋りすぎたな。食事に集中しよう」


 そういってお義兄様は黙々と食事を食べだした。


(? あれ、これってもしかして)


 心配、されてる……?

 今の私はリーベではなくフィーネだけど。なんだかそれはちょっと。いや、だいぶ。


(嬉しい、気がする)


 自覚したら赤くなった気がする頬を隠すために、私はいつも以上に俯いて食事を続けたのだった。

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