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虐げられた男装令嬢、聖女だとわかって一発逆転!~身分を捨てて氷の騎士団長に溺愛される~  作者: 久遠れん
第一章

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第十話・親友の伯爵令嬢

 騎士団での雑用という名の仕事を終えて、私の秘密を唯一知っている親友のアミのお屋敷に向かう。

 騎士団には寮もあるが、自宅からの通勤も認められている。私は後者だ。


 本当は、十五歳になったその日に公爵家を出奔しようとしたけれど、お金が溜まっていない段階で公爵家を出奔して、見つかって連れ戻されてしまえば、もう自由に外出させてもらえない、というのはアミから説得されたことだった。


「お邪魔しまーす!」


 アミの家は伯爵家で、公爵家ほど敷地は広くはないが、綺麗に手入れされていて、アミのお父様に仕えている使用人たちも温かくて、居心地がいい。


 アミとの出会いは偶然だった。

 私がウィッグを作ろうと四苦八苦して街中をうろついているときに、アミが親切心で声をかけてくれたのが出会いである。


 街中で困り果てていた私に声をかけてくれたアミに、一人ではどうにもならないと判断して色々と話して相談した結果、私たちは意気投合して親友になったのだ。


 アミの伝手を使って無事にウィッグが出来上がり、私が男装して騎士団に勤めだしてからは、アミとアミのご家族と使用人の方たちと口裏を合わせて私は日中アミとお茶会をしていることになっている。


「今日もお疲れ様、リーベ」


 勝手知ったる他人の家。屋敷の中に入ると、アミが出迎えてくれた。


「いつもありがとう、アミ」

「大丈夫よ。ウィッグは蒸れていない?」

「すごく蒸れてる!」


 くすんだ茶髪のウィッグを外すと、金色の髪が零れ落ちる。

 ふるふると頭を振ると、熱がこもっていた頭がすっきりとした。

 手入れがあまり行き届いていない長い金の髪はばさばさと広がったけれど。


「着替えはいつもの部屋でどうぞ。髪を梳かすのも忘れずにね」

「はーい」


 アミの言葉に頷いて、階段に向かう。階段を一段昇って、アミへと振り返った。


「また軽くご飯食べていってもいい?」

「もちろんよ」

「ありがとう!」


 公爵家で出される残飯の食事では、日中動き回ったカロリーの補充としてはとても足りないのだ。

 出世払いで必ず払うから! とお願いして、騎士団で働きだして三日目の頃にアミに頭を下げた。


 アミとアミのご家族は快く受け入れてくださって、私が公爵家に帰る前に軽い食事を用意してくれるようになった。ありがたい限りだ。


 着替える時は此処を使ってね、といわれている部屋でフィーネとしての騎士団で働くための軽装から、リーベとしてのドレス姿に着替える。


 ぼさぼさの髪を整えて、顔を洗って化粧品で軽く化粧をすれば、目の前にある鏡の中には活発な少年フィーネではなくお淑やかな公爵令嬢リーベがいる。


(頭の切り替えがちょっと難しいのよね)


 鏡の中の自分を見つめながら、笑みを浮かべる。

 少しフィーネの笑顔に寄っているので、笑顔を調整する。

 公爵令嬢らしい穏やかな笑みを浮かべてから部屋を出る。


「リーベ、食事の用意ができているわ」

「本当にありがとう、アミ」


 穏やかに微笑むと、アミが頬に手を当ててほうと息を吐いた。


「いつみてもすごいわね。その切り替え」

「そう? 褒め言葉として受け取っておくわ」


 にこやかに笑うとアミは軽く肩を竦めた。背を向けたアミについて食堂に向かった。



 * * *



 用意してもらったサンドウィッチに口をつけていると、正面で私の食事を見守っているアミが口を開いた。


「リーベ、パシェン様とはどんな感じなの? 少しは進展した?」


 こくんとサンドウィッチを飲み込んで、私は苦笑を浮かべる。


「進展もなにも、私とお義兄様はそういう関係ではないとあれほど言っているのに」

「えー! 絶対両想いよ!」

「両想いって……そもそも私はお義兄様をそういう目でみてないし、お義兄様だってそれは同じよ」

「そんなことないのになぁ」


 ぶうぶうと文句を口にするアミの言葉に浅く息を吐く。

 アミは恋に恋する乙女なのが、たまに傷だ。


「アミ、あのね」


 私がアミをさらに窘めようとしたところで、アミの家の執事が食堂の扉を開く。

 視線を向けると、執事が恭しく頭を下げた。


「アミ様、お客様がいらっしゃいました。パシェン様がリーベ様のお迎えです」

「えっ?!」


 思わず手にも取っていたサンドウィッチをぽろりと落とした。

 お皿の上に落ちてくれたからセーフだと思うけど、食べる時間が消えた。悲しい。


 というかお義兄様は一体どうしてアミの家にきたの?


 いままでそんなことはなかったのに。


「まぁ! やっぱりよ、リーベ!」

「勘違いだから!!」


 お義兄様には私のような能無しの欠陥品ではなく、相応しいお相手との婚姻が用意されるはずなのだから。

 そう考えると、少しだけ胸がつきんと痛む。


 突然の痛みに内心で首を傾げつつも、私は未練の残る食事を諦めて、玄関へと向かった。

 そこにはやっぱりお義兄様がいて。


「リーベ、迎えに来た」


 いつも通りの難しい表情で、そう告げた。

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