20.一般人は強かな猫になんも勝てない
こないだようやくエージェント秘話見たんですけど、猫又いいな……。
恒常S級の入手機会少なすぎるのどうにかして運営さん……。
「ふっふ~ん♪」
今日の店番を勤める猫のような彼女は、猫宮又奈。皆から猫又と呼ばれている。最近邪兎屋に仲間入りしてからはこの『Random Play』に来ることも多いため、会う機会が増えてきた。
最初に会った時は俺の事も探るような目線を送ってきていた。きっとそういう性分なんだろうな、と思ってたけど思いの他警戒は早く解いてくれた。確か俺の戦闘力が皆無だと知った辺りからかな。
では件の猫又が今、なぜ上機嫌なのか。それは対面に向き合っている俺とやっているアナログゲームの結果によるものだった。
「君、ほんとに弱いぞ~。最初の自信はどこにいっちゃったのかな~?」
「嘘だろ……1回も勝てないとかある?」
はい、ポーカーで全負けしていて本当に辛いです。賭けるチップももう尽きたし、負けを認めざるを得なくなっていた。ポーカーって運と駆け引きのゲームのはずなんだけど、俺どっちも弱すぎない? 何十回もやってるのに最高の手札がスリーカード止まりとか絶望しかないんだけど。
そもそも何故猫又とポーカーを始めたのかというと、今朝仕入れたビデオのおまけにトランプがついていて、その検品が必要になったからである。
新品だったら寧ろ勝手に開けちゃいけないんだけど、中古品だから欠けや汚れが無いかを見る必要がある。そこでアキラが『ただ確認するのも面白くないだろうし、サクと猫又で何かゲームをやってみてくれ』と提案したのだ。
で、俺は適当にポーカーをやろうと言ったわけだ。ついでに勝った方が何かご褒美を買うという条件付きで。その提案に猫又がニヤリと笑っていた事にも気づかずに。
……いやあ、猫又って意外と知略で攻めるタイプだったのね。最初猫だしと思って舐めていてすいませんでした。あの邪兎屋に認められてるんだから只者じゃないだろって、なぜ気づけなかったんだ俺。
「というか君、あたしとの勝負降りすぎだよ? ちょ~っと揺さぶっただけで弱気になっちゃうから、張り合いがないんだけど~?」
「いやいや、初手にストレートフラッシュやられたらそりゃビビるだろ……」
最初にそんなもん揃えられたら引きずるのも当然でしょ。自信たっぷりに動かれたら初手の光景がチラついて勝負に出られないし、心理的にずっと不利でしか無かった。
「サク、もうシフト終わりの時間じゃないか?」
「え、あほんとだ」
「今日も遅くまでありがとね!」
アキラに言われてから外を見たら既に真っ暗になっていた。夕方辺りからポーカーしかやってなかった気がするんだけど、いいのかな。とりあえずトランプに欠損は無かったって事で回収された。
「猫又ー、サクを家まで送ってあげてー」
「はいはーい」
リンからの言葉にシュバッと立ち上がる猫又。身のこなしが猫すぎる。
「あれ、送るって普通男女逆じゃね?」
「じゃあ逆にする~?」
「うん、無理」
ニヤニヤと笑いながら言う猫又、絶対にわざと言ってるだろ。非力な俺が新エリー都の治安に対抗できるわけないじゃん。
ポーカーで負けた俺は、帰り道で猫又にご褒美として一食分の食料を買うことになった。良心的な値段に抑えてくれたのは、俺がまだ学生である事を配慮してくれたからだった。いやほんと助かる。
「って全然魚買わないんかい」
「お魚も好きだけど、ずっと食べてたら飽きちゃうからね~。普通に肉とかも好きだし」
「そうなんだ……」
一見俺よりも年下に見える容姿をしている猫又だが、俺よりもしっかりしていて気遣いもできる。邪兎屋やパエトーン業についても、俺ができるだけ関わってしまわないよう言葉を濁してくれる。パエトーンに関しては手遅れ、という点を除けば本当にありがたい。巻き込まれたら一巻の終わりだからね!
「すっかり遅くなっちゃったし、さっさと送ってあげるよ! こわ~い幽霊とかがいるかもしれないし……」
「あー……そういえば幽霊とは違うんだけど、変な噂あったな」
「噂? へぇ~、どんなやつ~?」
インターノットで最近出回っていた『六分街の七不思議』という記事があった事を思い出した。桁が2つ足りないだろって思いながら開いてみたら、記事を書いたやつが妙に文才があって思わず読んでしまったのだ。
猫又は噂話が好きな性分なのか、こういう話題にはいつも真っ先に聞き耳を立ててくる。早く教えてよ~、と脇腹を小突いてくる。
「確か……深夜の六分街を歩いていると、白い化け物が背後に現れて『最期に言い残すことはあるぷ~?』って言ってくるらしい。遭遇した奴は3日以内に治安局のお世話になるんだとさ」
「………………え。それ、本当のやつ?」
「流石に嘘でしょ……多分」
「多分ってつけるのやめてよ!? もう夜にあの辺歩けなくなっちゃうじゃん!」
猫又が涙目で震えながら腕をつかんできた。猫らしく手がもふもふの毛で覆われている痛い痛い痛い爪立てないで痛い血出ちゃうって。止めよっかこの話、これ以上は出血多量で俺が幽霊になっちゃう。
どうも彼女はホラー系が苦手なようで、先日の依頼でも幽霊が出るんじゃないかととても怖い思いをしたらしい。ついでにビリーもめっちゃ怖がってたとのこと。本当に少年の心だよねビリーって。不動のアンビーはなんかもう知ってた。
あと、語尾からにゃんきち長官のセリフっぽいけど……もし遭遇したら死を覚悟すると思う。近くで見たら結構デカくてビビるし。あの着ぐるみ本当に取り締まる側のキャラ? 実は裏ボスでした、とか無いよね?
その後はにゃんきち長官の亡霊に遭遇した……なんて事は無く、無事に俺の家の前に到着した。依頼完了~、と両手を地に付けて伸びをする猫又は、リンにしこたまお腹を撫でられたクロと同じ動きに見える。
「送ってくれてありがとな」
「ううん。……ねえサク」
「え、どうしたの」
猫又が軽く微笑みながら俺の耳元にするりと近づいてくる。一体何を言われるのだろうか、とドキドキしていると彼女はゆっくりと口を開いて――。
「セカンドディールって、知ってる?」
え、何て?
突如聞かされた知らんカタカナ用語に戸惑いしか浮かばない。距離の近さに男としてちょっとだけ期待しちゃったのに、気づいたらもうスッと離れてるしで絶賛困惑中。
「え、何どういうこと?」
「……見様見真似でやってみたけど、この感じなら他でも上手くいきそうかも。いやぁ~、なんでもないよ~」
「待て待て、なんでもないように聞こえないんだけど」
「じゃああたしはこれで帰るから、悪~い人には気を付けなよ~?」
「えぇ……」
猫又が夜道に消えていくのを見送ってから、自分の部屋に行って猫又が言っていた単語についてスマホで調べた。そして俺は、もう猫又とは二度と勝負事をしないと心に誓った。
猫又が器用だから必要とあらばイカサマとかも習得してきそう、という勝手なイメージで話を作りました。
あとにゃんきち長官に怖いことを言わせる話はどこかで作りたかったのでぶっこんじゃいました。




