14.チートピアの苦難
カリュドーンの子もキャラは濃いんだけど、ワンパターンになりすぎないよう工夫がいる気がします。
新エリー都郊外の荒野の町、ブレイズウッド。砂漠の印象が強いが、油田の開発や運送など新エリー都の生活の基盤を支えている重要な場所である。但し治安が悪いから俺はよほどのことが無い限り行きたくない。
治安が悪い、といってもすべての人がそうではない。店番に来た事のあるバイパーやバーニスも悪い人では無い、今日訪れてきた2人もちゃんとアポを取ってから来るという礼儀正しさを持ち合わせている。……常識人かって言うと違うけどね。
「チートピアの経営をもっと広げたい?」
「ああ、プロ……アキラとリンの知恵を借りに来たんだ」
俺に気づいてプロキシ呼びをギリギリ踏みとどまったのはバイクで店にやってきたシーザーさん。それを背後から鋭い目で見つめてるルーシーさん、今のはセーフで良いと思いますよー。仮に言っちゃったとしても俺は聞かなかったことにするし。何だったらもう知ってるし。
チートピアとは郊外にあるダイナーの店名らしい。昔流行った店を再開させるためにアキラとリンも協力して立ち上げる事が出来たとかなんとか。行ったことないけどインターノットでの評判は中々良いらしいよ。
「そういう訳でアキラ、貴方の知恵を貸してもらえないかしら?」
「うーん、飲食の経営は融通がわからないんだけど……」
ルーシーは前にもビデオ屋に来たが、俺は隅っこで大人しくしていたため最初の挨拶以外で会話はしていない。だって彼女アキラしか目に入ってないんだもの。ほんと粉かけすぎだよアキラさん、ホワイトデーとか過労で倒れそう。
「もちろん良い提案を頂けた際には、報酬として追加売上の一部を――」
「さてお兄ちゃん! まずは話を聞いてみよう!」
「リン、報酬と聞いた途端に目を光らせるんじゃない」
報酬の二文字でリンが協力に強く乗り出した。金に目が無いキャラって大抵あまり好かれない節があるけど、リンがやると不快さを感じないのはなんでだろう。やはり可愛いは正義というやつなのか。
しかし完全に経営の話になりそうだから、これは俺の出番無さそう。力になれないから別に話に参加しなくてもいいのでは? ぶっちゃけ目の前のルーシーさんとシーザーさんから、『こいつ誰だ?』って目を向けてくるからとても居づらい。ルーシーさん、貴女は一度お会いしたはずなんですけどね……。
「……裏口の掃除してきまーす」
「待ってサク! アイディア出しは大人数で挑むのが鉄則だよ!」
「僕もそう思う。サクの視点は時々興味深いからね」
「あ、そう……」
リンに腕を掴まれて脱出失敗。あー、ルーシーさんからの目線が強くなるー。なんでこういう時に店長急に鈍くさくなっちゃうかな。明らかパエトーンに頼もうとしてるんだけど、わっかんないかなー。あとシーザーさんは急に興味の目を向けてきてるんだけど、『パエトーンが一目置いてる男!?』みたいな顔をされても困ります。俺一般人なんで何もできないよ、いやホントに。
そして例の防音室で会議開始。先日から俺も普通に入っちゃってるけどいいんかなこれ。実はもう俺にパエトーンバレしてること自覚してたりする? もしかしてめっちゃ高度な心理戦仕掛けられたりしてる?
なんてことを考えている間に話は進んでいた。どうやら悩みとは立地に関わる事で、店を知ってもらえても気軽に行けないために売り上げが思うように伸びないとのこと。
「……家から近かったら直接行けるけど、遠いとちょっと行く気になれないんだよねー」
「やはり今は、デリバリーが主流なんじゃないかな。僕らもそこそこ利用しているし」
「……アキラなら私の発想と同じ所に行きつくと思っていましたわ」
ルーシーさん今ニヤける要素あったかな。あれか、アキラと考えが被って嬉しかったんかな。可愛いかよ。
「ルーシーの提案で、期間限定でちょっとだけやってみたんだよ。けど、評判があまりにも悪くてなー……」
「評判がかい? 料理自体はかなりレベルが高かったと思うんだけど……」
俺はチートピアの料理を食べた事が無いけれど、二人は食べた事があるらしい。どんな料理なんだろうと思っていたらリンが写真を見せてくれた。流石気が利くなーと思いながら写真を見ると、とんでもカロリーで確かにおいしそうだと感じた。毎食は胃が死んじゃうけどたまに食べたくなる感じがする。
「……問題は料理そのものではなく、配達の方ですわ」
「二人とも、俺たちの運転の荒さは知ってるだろ? 物資とかだったらいいけど、料理となるとな……」
「それに出来立ての料理を持ってあの砂漠を走るなんて、賊共に奪ってみろと言っているようなものですわね」
「……あぁ、うん。下手な運搬業よりも無茶な仕事だという事が良く分かったよ」
店に行くまでの悪路と治安の悪さも要因ではあるが、アキラの苦い顔を見るに相当荒いんだろうな、と察してしまった。
俺の横でうわぁ、と眉をひそめたリンがスマホの画面を見せてきた。そこにはチートピアの出前についてのレビューコメントが表示されている。内容は、まさに酷評の嵐だった。
『カロリー爆弾とは聞いていたが、本当に爆発させるやつがあるか!』
『道路にコーラを飲ませるなんて素敵なお仕事ね! で、私の分は?』
『レシピを見せてくれ。『銃弾と砂をトッピングする』という工程があるのかを確認したい』
『三人分頼んだら箱の中で一体化したらしく、開けたらどす黒い泥が出てきた。この世全ての悪が詰まってるのかと思ったわ』
なんか皮肉の癖が強い。そんで星の平均1.1とか初めて見た。更に下のレビューを見ると『星1つあげるのすら烏滸がましい』とまで言われている。あと『今後に期待したい』って言いながら星2付けてるの何なんだよ。それ期待って言わないから。
どうしたものかと皆が頭を悩ませる。俺もちょっとだけ考えてみることにした。……出来上がった料理が悲惨なことになる、それなら調理前の食材だけを持ってくならまだマシかもしれない。
「……そういえば、出張シェフって最近聞かなくなったな」
「出張シェフ、って何?」
「食材だけ持って行って、調理を行った先のキッチンとか借りてやるやつ。……バーニスさんとか向いてそうだけど」
「あー、ライカンさんがうちで料理作ってくれたみたいな感じかー!」
「確かに、バーニスなら喜んで肉とかを焼きに行きそうだ……」
あの人ビデオ屋の店番だっつってんのに火炎放射器持ち込んでくる危険人物だから、1回しか会ってないのにめっちゃ印象に残ってる。火炎放射器に何か名前つけてたし。なんでビジュ良い人は高確率で何らかのネジ外れてるんだろうこの世界の住人は。
「賊達も、生肉や調味料を奪っても調理とかしなさそうだし。バーニスさんの燃やしたい欲も収まるんじゃ……って、え、何ですか?」
俺の思い付きの雑談だったのだが、ルーシーとシーザーがこちらに食いついてきた。
「――そこの貴方、今なんとおっしゃいまして!?」
「サク、だったか。俺にも聞かせてくれ!」
今日初めてルーシーさんと目が合った。急に距離詰められると心臓に悪いし、釘バットどっから取り出したの怖いって。シーザーさんも悪気は無いんだろうけど、身長高いし装備がトゲトゲしてるから寄られると圧が凄い。知ってること全部喋るから許して。
俺の呟きから生まれた『バーニスの出張肉焼きパフォーマンス』というサービスは、イベント等で大人気となった。おまけに道中で邪魔してきた賊達も丸焼きにして提供されるらしいけどそれはいらないと思う。賊達の調理は治安局に任せた方がいいよきっと。
ただ、この盛り上がりがチートピアの客増加に直結……とはいかなかった。多少知名度は上がったものの、店までの道のりが険しすぎる問題は何も変わっていないからだ。という訳で報酬はあまりもらえずリンががっかりしていた。俺もボンプ直した方が儲かるなーと思ったのは内緒。
単に碌でもないレビューが描きたかった、という訳では無いですよ?
話を作るときに最初に思い付きはしましたけど。




