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待っている  作者: 池田瑛
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アッティーザ⑦

「小説を書けないのは、どうして悩んでいるの?」



「それは、文藝部の部長として卒業文集に小説を書かなければならないからよ。どうしても書かなければならないのだけれど、どうしても書けないの」



「生みの苦しみか。締め切りが近くて、お尻に火がついたのね」



「そういうことよ。小説を書けるまで、もう気長に待っていることができないの。締め切りは近いってことよ。だから早急に、原因を取り除かなければならないの」 



「原因はもう分かっているの?」



「分かっているつもり。彼氏ができないことと、本質的には同じなつもり」



「それが、彼氏ができなかった理由とどう関連してくるの?」



「最善の未来が分からないことと、最高の結末が分からないことは同じなの」



「はい?私には、玲子が言っていることがわからないのだけれど?」



「たとえば、恋愛小説を書くとしてね、結末をどうしたらいいのか、分からないの」



「二人は、幸せになりました。めでたしめでたし。じゃないの?」



「それはひとつの可能性でしかないわ。つまり、どの人とお付き合いしたら、一番幸せになれるのかが分からないのと同じで、どの結末にしたら、最高の作品になるのかが分からないの」



「どれでも同じなんじゃないの?」



「同じではないわよ。なんでも面白い有沙には分からないでしょうけど」



 玲子が少し声を荒げて私を睨む。目は少し潤んでいる。



「ごめん。そういう意味で言ったんじゃないの。どの結末にしても、その時玲子が書ける最高のものということ。その小説を書き上げてから、しばらくして別の結末が良かったなと思ったら、また書き直せばいいし。もしくは新しい小説を書けばいい。なにが言いたいかというと、玲子が現在書くことができる最高のものという意味で、どれも同じということ」



「もちろん、現在持っている力をすべて注いで書くから、今できる最高の作品と言った意味では、どの結末でも同じかも知れないけど」



「玲子は、講義のレポートとかどうやって提出しているの?たとえば、統計学のレポート期限、もうすぐだよね」



「とっくに提出したわ」



 さすが優等生。期限ギリギリに仕上げる私とは違う。



「もう少し推敲したら、もっと良いレポートになったんじゃないの?提出期限はまだあるのだし」



「それは、、、、もうそのレポートで、「優」をとれると思ったからよ」



 出来が違うらしい。いつも私は、よくて「良」、大半が「可」という成績だ。すこしイラっとする回答だ。



「あなたの小説は「優」をとれないの?どの結末でも「不可」なの?どんな良いレポートを作っても、期限迄に提出できなかったら評価以前の問題よ」



「評価以前の問題か。大学のレポートと小説は、別の次元ではあると思うけど、読者が1人もいない未完の小説をたくさん作っても、確かに評価以前の問題ね」



「だから、思い切って書き上げちゃえばいいのよ。今できる最大限のものを書き上げればいいじゃない」



「分かったわ。やってみる」



「そういえば、この前、小学校のときに私が書いた作文を徹と読み返してたんだけどね。すごく恥ずかしかったよ」



「どんな内容だったの?」



「お題は、将来の夢なんだけどね。将来の夢は、その時担任だった先生のお嫁さん!」



 玲子も私も笑った。



「それは笑えるね。というか恥ずかしい」



「しかも、その先生既に既婚者だし」



「それは恥ずかしいわね」



「恥ずかったよ。徹は、どんな先生だったんだってしつこく聞いてきて、あからさまに嫉妬しているのが可愛かったけど」



「それはバカップルね。でも、それ良いかもしれないわ。何年後かに自分の書いた作品を読み返してみて、赤面するのも」



「そうそう、卒業論文を書きたいので、町田教授の卒論を見せてくださいって言ったときも、マッチーはそれは絶対見せないってすごい慌ててた。マルクスにすごい傾向していて、すごい恥ずかしいからだめだって」



「マッチーが?意外ね。この前、日経新聞の経済教室に寄稿していたし、いま注目されている、教授の1人なんじゃない」



「その人が、恥ずかしいって言うんだよ。玲子も書き上げてみなよ。そして、赤面すればいいでしょ」



「それもありかもね。わかったわ。書き上げてみる」



「彼氏もできそうだし、小説も書き上げれそうだし、よかったじゃん!」



「ありがとうね。有沙。じゃあ、乾杯しましょうか」



 玲子は、グラスにワインを注いだ。ちょうどボトルも空になった。



「うん。乾杯」



 私たちは、グラスを文字通り飲み干した。久しぶりにこんなに飲んだ気がする。



「じゃあ、お会計しちゃおうか」



 玲子がそう言いながら右手を挙げ、ウェイターが気づいたのを確認した後、両手の一差し指で×印を作った。



「有沙、今日は付合ってくれて本当にありがとうね」



「私も久しぶりにこんなに飲んで楽しかったよ。彼氏ができたら紹介してね。あと、小説が完成したら読ませてね」



「わかったわ。約束する」



「楽しみに待ってるね」



 ウェイターがレシートを持ってきた。合計9千円強。今日のバイト代のほとんどを使ってしまった。



 この店はテーブル会計ではないようなので、席を立ち出入口のレジに向かう。今はほとんどの席が埋まっている。お会計では、私と玲子が5千円づつだし、玲子がお釣りを地下鉄ね、といって渡してきた。断ったけど、玲子は地下鉄定期があるからということで、もらっておいた。

 外は、夕方よりもかなり冷えて、風も吹いており肌寒かった。体感温度結構低いね、といいながら小走りで地下鉄の出入口に向かう。アッティーザと地下鉄は、目と鼻の先という交通の便の良さも人気の一因かも知れない。



 私たちは地下鉄に駆け込んだ。私は切符を買ったが、玲子は定期で改札を抜けていた。毎回切符を買うのも面倒だし、回数券を買ったほうがお得だから明日、回数券を買おう。



「有沙、私はこっちだから」



 そういって、有沙は私と反対側の路線の階段を降りていった。私も反対の路線に通じる階段を降りる。玲子側の地下鉄が先に来て、玲子は地下鉄に乗ったあと、窓から私に笑顔で手を振っている。


読んでくださり、ありがとうございます。

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