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結局秘書やSPを飛行士にするより、飛行士を秘書やSPにする方がこの場合は早かった

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

「自分は宇宙飛行士だったよな。

 どうしてこんな職業訓練を受けているのだろう?」

前総理のクルーに選ばれた筒井飛行士はそう独り言を言う。

彼は訓練飛行で1回飛んだだけで、今回のフライトが正規の飛行士としては初となる。

その任務は「前総理の護衛及び秘書的な役割を果たす」であった。


SPとしての護衛なんて言っても、本来は必要ない。

打ち上げと、宇宙ステーション内に限ってならば形式だけの事と言える。

アメリカ前大統領の護衛が、日本国の前総理大臣を暗殺する等、まずあり得ない。

逆もまた然り。

しかし「万が一に備える」のが要人警護も有人宇宙飛行も鉄則である。

お互いに「警護はつける」「それは相手に対する失礼には当たらない」で合意していた。

先に「打ち上げと、宇宙ステーション内に限って」と言った。

警護とは、宇宙ステーション内での相手に対する警戒に留まらない。

万が一、帰還時に軌道を逸れて、予定外の地点に不時着する危険性だってある。

そこで何者かに襲撃する事だってあり得る。

陸地に不時着した時に、前総理が負傷する可能性も考えられる。

本来宇宙飛行士に限らず、兵士や登山家なんかも、遭難時はまず自己の生命を第一とするのだが、要人警護役はそうも言ってられない。

二次遭難?

そんな事も考えず、自分の生命を投げうってでも警護対象の生命を全うさせる。


そこで確かにSPの仕事をしている警視庁の人間を飛行士とする訓練も行った。

「SPを飛行士にするのが手っ取り早いか、飛行士をSPにするのが手っ取り早いのか」

そういう疑問に対する回答は、今回の場合は後者であった。

SPを勤める程の人間だ、能力が低い訳ではない。

しかし訓練期間が短か過ぎる。

また、「任務だから宇宙に行くが」という程度の意識でモチベーションは低い。

一方、宇宙飛行士の中には元航空自衛官という者も少なくない。

身体能力が高いし、サバイバルの訓練も終わっている。

その上で、今回用に短期ではない、正規の宇宙飛行士用としての訓練を長時間受けていた。

「警視庁の方々も、もっとじっくり訓練すれば最高の宇宙SPになれたのでしょうが」

そういう判断となった。


宇宙に行ける人数は限られている。

秘書も連れて行きたかったが、秘書を飛行士にするのは更に至難の業だ。

前総理と同じ程度の訓練で済ますと、荷物が一個から二個に増えるだけである。

当初3人、後で4人となった今回のクルーで、半分が非常時に何も出来ないお荷物では、残る飛行士の負担がハンパではない。

また、いざという時に秘書がボディーガードとなる件だが、これにも限度があった。

暴漢の前に立ちはだかる事は出来る。

いざという時、前総理を背負って走る事も出来る。

一般人レベルで、何かあった時に前総理を助けるのならば、覚悟次第で出来るだろう。

だが事態が、覚悟次第で何でも出来る枠を超える可能性大だ。

元気があれば確かに何でも出来るが、それでもやれるだけの下地は欲しい。

それを言った人物は、立派な体躯と事態に合わせて対処法を考えられる計算高さを持っていた。

自分に不利なルールなら、寝転がってでも、批判されても対処する知恵と覚悟があった。

「秘書さんにしても、やはり訓練期間が足りないですね。

 御覚悟は立派、忠誠心も高いのですが、それだけでは無理です」

準備期間が十分に取れず調整が万全でないなら、件の人物だってきっと無理だっただろう。


「となると、宇宙飛行士をSP兼秘書に仕立てよう!」

こちらの方が早いと考えていたし、実際訓練を施してみて、短期間で「十分やれる」と太鼓判を押せる完璧超人もいなかった。

「政治家を格闘家にするより、格闘家を政治家にした方が何とでもなりますしね」

「何の話だ?

 言いたい事は何となく分かるが」

「とりあえず言いたかっただけです。

 筒井飛行士にはボディーガードとなる訓練と、秘書としての仕事をマスターして貰いましょう」


そして筒井飛行士には面倒臭い日々が始まった。

ボディーガードの方はまだ良い。

基礎的な事は出来ているのだから。

ただ、自分を守れば良い、相手を倒せば良いというのと、守って対象の生命を全うするのではスキルが変わって来る。

余談だが、江戸時代初期の剣豪に柳生宗矩という人物がいる。

この人は大坂の陣の時に、将軍を守って戦って勝ったという。

攻めて相手を制圧する事とは違った強さというものもあるのだ。

さらにこの柳生宗矩、幕府の大目付をも勤め上げた。

要は筒井飛行士には、この柳生宗矩と同じように守る任務と行政の任務の両方をこなして貰えば良いだけだ。


「言うは易しだ!」

と筒井飛行士が叫んだかどうか分からない。

守る方以上に、政治家の秘書という仕事が面倒であった。

何となく「有名人の近くにいて、楽しそうだなあ」「利権も結構ありそうだなあ」と思う芸能人のマネージャーとか、スポーツ選手の代理人とか、政治家の秘書とか。

裏方は何だかんだで大変なのだ。

「こんな事をする為に宇宙飛行士になったのではない」

「いいから、任務と思ってやり抜け!」

「何もかもをお膳立てして、雑務は全部やった後の目立つ部分だけ見せる。

 政治家って、プロデューサーの指示に従うアイドルの女の子と変わらんではないのか?」

「黙ってろ。

 機密漏洩で逮捕されたいか?」

以上は誰かと誰かではない、口に出される事もなかった、筒井飛行士の内心での天使と悪魔というか、怠惰と勤勉というか、そういう内面でのやり取りであった。

内面で愚痴を零しまくりながら、世間一般では計り知れない「表に出て顔を売る人物の裏方」たる仕事を勉強した筒井飛行士であった。

おまけ:A猪木氏追悼ネタを書いてしまいました。

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