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居住区の最終調整

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2022年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

前総理の宇宙行き決定に、国会や報道では賛否、主に否の意見で騒々しくなっている。

そんな雑音を無視し、実務担当は仕事に追われていた。


「これが2日分の居住区になる訳ですね」

多目的輸送機「のすり」の政府高官仕様を秋山を含めた担当者全員が確認していた。

日本がアメリカから購入した有人宇宙船「ジェミニ改」は訓練機であり、居住性は二の次の設計である。

訓練生が搭乗するならこれで必要十分なのだが、訓練生ではない者を搭乗させる際は流石に狭過ぎる。

そこで、宇宙ステーション輸送機「こうのとり」の与圧室を改造し、単独運用出来るようにした多目的輸送機「のすり」をジェミニ改と共に打ち上げ、ドッキングして居住区兼貨物庫として使用していた。

ソユーズ宇宙船の球形ブロック「軌道船」と同じような使用法だ。

今回、ここに宇宙ステーションへ運ぶ荷物は空にし、代わりに前総理の執務用スペース、生活スペース兼医務室を設えた。

その実機、予備機、モックアップが上がって来たのだ。

秋山たちが見ているのはモックアップ。

とは言え、気密性能他実際に宇宙では使用出来ないながらも、寸法や内装は実機と同じものである。

JAXA及び開発担当の企業スタッフたちは、このモックアップに入って最終チェックを行っていた。


「一見、凄いね」

五七の桐紋が入ったマイク付きの演台、国旗立て、青のカーテン。

記者会見を行った時、いつも通りに見える。

「この演台は折り畳み式の強化紙製、カーテンは騙し絵なんだけどね」

本物は国旗のみ。

それもポールを短くし、旗を外して収納可能である。

「安物に見せないようにする、それが大変でした」

開発企業の者が、半分は苦情、半分は自慢げに語っていた。

前総理の宇宙での様子を公開するのに、ハンディカムは拒否された。

「どこぞのローカル局のバラエティー番組じゃあるまいし、そんな安いカメラで先生を映す訳にはいきません」

既に宇宙ロケをした某番組を引き合いに、もっと良いカメラを使えと言う政治家の事務所。

4Kのカメラを使う事になったが、だからこそ「安っぽく見せない努力」をしないと、高解像度故に品位を下げてしまうのだ。

「無駄な努力をしましたよ」

「まあ無駄って事も無いでしょう。

 何事も糧にはなりますよ」

軽量、安価、折り畳み収納可能、そういう素材で機能を満たせるならば十分な技術習得である。

見た目っていうのも、まあある程度は大事であろう。


「では、記者会見モードは終了。

 片付けて執務室モードに変えますね」

何も無い壁に見えていたものを、少しずらしてシャッターを開けると、そこに多数のディスプレイが埋め込まれている。

また充電器に繋がった無線電話も多数装備されていた。

反対側の壁面も同じように、収納されている装備を引き出す事が出来る。

署名用の筆記テーブルやテレビ電話用のカメラ付き端末がそこには在った。

「何かあった時は、ここで情報収集が出来ますし、指揮する事も出来ます」

なお、このモニターは取り外して地球に持ち帰る事が出来る。

いざという時に一々セッティングしないで良いように壁に収納され、宇宙船のコンピューターに接続されているだけで、専用に用意したものではなかった。

「コンピューターのパネル、停電用予備電源、そういうものも持ち帰る事が出来るけど、壁面のルーターとしての部分は使い捨てか……」

特注品を無くし、一般用のものを使い、安上がりに急ごしらえで揃えた為、大概のものは取り外し可能なのだが、そうでない部分もそれなりにはある。

頑張って焼却するゴミの量を減らし、報道陣にも受けが良いよう「環境に優しい」としたのだが、無理な部分もあるのだ。

「帰還時は、行く時よりも更に狭くなりますね」

「仕方ないですね」

「我慢して貰いましょう」

「急いで作らせたのですから、贅沢言わせませんよ」

「そうそう、行く時の要望には相当に応えたんですから、帰って来る時はゴミ屋敷の住人のような狭さも耐えて貰いましょうよ」

「どうせ帰還時は撮影も出来ませんし。

 大気圏再突入用の姿勢を取って貰わないと駄目ですからね」

「まあ散々準備しましたが、緊急事態で前総理が宇宙から何かするなんてありませんからね。

 現職総理が居るし、衆参両院の議長も居るのに、それを差し置いて前職がって事は無いですからね」

「恰好つけですよね」

「まあ建前は、現職の総理が宇宙に行く場合、装備はこれくらいというリハーサルですけどね」

「まあそんな事は起こらないでしょう」

一同、やっぱり色々と不満は有ったようだ。

軽口、愚痴の形で不平・毒舌が出るわ出るわ。


(有り得ないなんて有り得ない。

 急に変な要求をされる事は想定していないと。

 私がこの3年で学んだ事だ。

 今のうちにやって置いた事を感謝する未来が、来ては欲しくないが、なくも無いんだ)

秋山は毒舌を聞きながら、内心でそう思っていた。


執務室モードも片付ける、今度は医務室モードを確認する。

円筒形の宇宙船の半分は執務用のものが収納されている。

残り半分には、生活や医療系のものが収納されていた。

「ガスを膨らませる事で輸液を押し出す点滴。

 ポータブルタイプの超音波(エコー)検査装置。

 心電図や脳電図、胃電図、血圧や睡眠時の呼吸のモニター。

 足の浮腫みを取るマッサージ機なんかも準備しましたよ」

医療メーカーと内装を手掛けた企業が胸を張る。

「ありがとうございます。

 ですが、これをフル活用する事が無ければ良いですね」

医療機器を活用するという事、それは宇宙で健康上の問題が生じたという事なのだ。

使用されない方が余程良い事なのだ。


「結局非常用の執務室に、病気が起こった時の医務室、どちらも使って欲しくないものですよね。

 そういうものを我々は必死になって用意したんですね」

ではあっても、結局それは有人宇宙飛行に通じるものがあるのだ。

有人宇宙飛行計画の初期段階で、秋山はNASAのスタッフから言われたものだ。

「順調に行くものと思ってはならない。

 必ず何か問題が起こると考えねばならない。

 問題を起こさないようにマネジメントするのが地上スタッフの仕事だ。

 問題が起こっても、大問題になる前に処理するようパターン化するのが訓練だ。

 とにかく、何か起こってもそれは想定内にしておく、それが大事な事なのだ」

と。

使わない方が良い機材、それでも万が一の事を想定して準備して悪い事も無いだろう。


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